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トビタった!私たち(16)カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(上)
中心は機械ではなく人の側にある

トビタった!私たち(16) カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(上)中心は機械ではなく人の側にある
authored by トビタテ!留学JAPAN

 はじめまして。大阪大学基礎工学部の佐久間洋司と申します。日本を代表するロボット工学者である石黒浩教授の指導のもと、人の共感やコミュニケーションについての研究に取り組んでいます。また、2015年12月に設立した「人工知能研究会 / AIR」の代表として、次世代の人工知能研究・応用を推進していくことを目標に活動しています。

 昨年は文部科学省が主導する官⺠協働の海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」を通じて、カナダ・トロント大学へ交換留学、Panasonic Silicon Valley Lab でインターンを経験し、機械学習と呼ばれる技術について学んできました。

 今回の記事では、2018年2月3日に開催されたトビタテ!留学JAPAN トークイベント「TobitaTALK」で、筆者が話した内容を中心に、トロント大学への留学経験とそこから得られた教訓などをご紹介できたらと思います。

トビタテ!留学JAPANトークイベント「TobitaTALK」:カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(佐久間洋司) https://www.youtube.com/watch?v=_eNt0eEfPvI

もっとお互いのことを知ることができる?

 さっきまで私は何をしていたんだろう。ふと気がついたら、周りには誰もいなくなっている。薄暗い空間にたった一人。どれくらい広いのかもわからないその部屋で、私は一人で立っている。誰かの気配を感じて顔を上げると、正面には自分が映っていた。

 向こう側の世界はどこか青緑がかっていて、私は自分自身に見つめられている。どこから来て、どこへ行くのかも思い出せない。まるで「自分は何者なのか?」と問いかけられているよう。

 私は何のために生まれ、何をするのか...。

 それは大阪府堺市にあるアルフォンス・ミュシャ館の一室。《ウミロフ・ミラー》※と呼ばれる大きな鏡に映る自分を見ている。円形の鏡に切り取られた向こう側の世界、それを囲む少女と美しい精霊たち。大いなる女神がその世界を見守っている。私はどれくらいこの部屋にいたのだろう。

※アルフォンス・ミュシャ《ウミロフ・ミラー》1903-1904年 油彩、カンヴァス、鏡
堺 アルフォンス・ミュシャ館蔵(大阪府堺市)

 さっきまでは目に入らなかったのに、部屋の右手に続く廊下に気がついた。ぼんやりしている身体をなんとか動かして、鏡の部屋を後にして奥へ進むと、今後は広く明るい空間に出る。

 神話で見る主のような大きな人物が両手に光を掲げている、そんな絵画に目を奪われる。右手には黄色い光、左手には青い光を掲げ、その前に集まった小さな人々が光に照らされている。

 主たる人物の光に照らされる人々は、自分たちが照らされていることに気が付いているのだろうか...。人々はお互いの存在に気がついていないようにも見える。そこで私は思う。私たちが照らされている、ということを知りたいと思う。
私たちはもっとお互いのことを、知ることができる...。

 その絵画に出会ったのは大学1年生の時のことでした。大阪に住んでいる祖母の家がミュシャ館の近くにあり、また、別れた父がミュシャを好きだったと思っていた全くの記憶違いから、その鏡と絵画に出会うことになりました。

人工知能を作ること、それ自体は目的にはならない

 生まれ育ったのは東京でしたが、自分そっくりのアンドロイドを作っていることで有名な石黒浩教授の指導を受けたいと思って、大阪大学へ進学しました。現在は研究者の卵として、いわゆる人工知能やロボットに関する研究に取り組んでいます。

 カナダのトロント大学は近年の人工知能ブームの発祥の地であり、もっと人工知能を学びたいと思ったときに、そこへ留学したのは自然な流れでした。そこでは機械学習と呼ばれる分野の様々な取り組み、ニューラルネットワークと呼ばれる技術を学びました。

ヨシュア・ベンジオ教授によるトロント大学での特別講義

 しかしながら、得られた一番の成果は知識ではありませんでした。ロボットや人工知能を作ること、それ自体は目的にはならないということを確認できたこと。それこそが留学の成果だったと思っています。

 そもそもニューラルネットワークという分野はこの数十年、決して注目されていた分野ではなく、トロント大学の研究者たちがその誰も取り組むことのなかった研究を支え続けていたのが、近年になってブレイクしたと言われています。

 それでは、なぜ彼らは下火になった分野でもずっと取り組み続けていたのか。「人の知能を理解したい」という目的があったからこそ、彼らは新しい人工知能のアイデアを生み出すことができましたが、人工知能を作るという行為そのものに憧れていたわけでも、それに意味を見出していたわけでもなかったからです。

 それは日本の石黒研究室でも学んでいたことで、人を知りたい、人に影響を与えたい。だからこそ新しい技術を作って提案しているだけで、ロボットを作ること自体は目的ではないーー『技術の中心は機械ではなく人の側にある』ということを再認識することができました。(続く)

プロフィール
佐久間洋司(さくま・ひろし)http://hiroshi-skm.com/ja/
1996年東京都生まれ。東京都立小石川中等教育学校卒。大阪大学で石黒浩教授のもと研究に取り組んでいる。2016年9月よりカナダ・トロント大学へ交換留学、Panasonic Silicon Valley Labでインターンを経験し、帰国後の留学成果報告会では優秀賞を受賞。15年12月の設立から人工知能研究会/AIRの代表、17年6月から人工知能学会誌の学生編集委員を務める。