日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

池上彰の大岡山通信 若者たちへ自分の頭で考え抜く力―人生の岐路で答え導く

 池上彰の大岡山通信 若者たちへ 自分の頭で考え抜く力―人生の岐路で答え導く
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 大型連休が終わり、大学生のみなさんもキャンパスへ戻ってきたころでしょう。今回も「大学で学ぶ君たちに」というテーマで行った新入生へのメッセージを紹介します。自ら学ぶこと、生きていく志について考える機会になればと思います。

◇ ◇ ◇

 東京工業大学には、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典栄誉教授がいらっしゃいます。受賞前、ご自身の研究内容について説明していただいたことがあります。

 大隅教授によれば、「いつか何かの役に立つ」とか、「ノーベル賞級の研究に」とか考えて研究に没頭してきたわけではないというのです。理由は「面白いから」。研究者として、とことん調べたいという気持ちを大事にされていたのです。

講演で「好きなことを学ぶ気持ちを大切にしてほしい」と話す池上さん(4月5日、東工大の大岡山キャンパス)

 これに通じるエピソードがあります。以前、欧米の大学を視察して意外な発見がありました。理系学生が熱心に芸術に親しんでいたことです。

 米マサチューセッツ工科大(MIT)で聞いた「最先端科学はいずれ陳腐化する。すぐ役に立つことはすぐに役に立たなくなる」という発言は衝撃的でした。経済情勢の変化や技術革新が著しいと、数年も先を見据えて特定の分野を学び、究めることは難しいのです。

 そこで注目されているのが「リベラルアーツ教育」と呼ばれる取り組みです。学生が専攻以外にも学びの領域を広げ、議論を深めながら、「自らの頭で考え抜く力」を養う狙いがあります。

 東工大では16年度から、新入生が大学で学ぶことの意味を考え、議論する「立志プロジェクト」もスタートしています。

 もう一つ、考えてほしい問題があります。高度成長の陰で水俣病など四大公害病という取り返しのつかない社会問題を生んだことです。解決が遅れた背景には、原因企業が非協力的だったり、ほかの原因を唱える大学教授が登場したりしたことも影響したでしょう。会社の利益か、それとも人としての良心か、問われるかもしれません。

◇ ◇ ◇

 新入生から寄せられた質問にも答えました。その一部を紹介します。

 学生A 大学界では、「リベラルアーツ教育が大事」という流れになっていると思います。その流れをどう見極めるべきでしょうか。

 池上教授 時代の流れに疑問を持つということは、とても大切な問題提起だと思います。生き方や物事に対する姿勢に関して答えに迷ったときには、「人として正しい判断かどうか」という視点、30~40年たったときに「これで良かったのだ」と思える自らの生き方に一本の柱を持ってほしいと思います。

 学生B 人にはブランドがないと安心できないという心があることも事実だと思います。

 池上教授 確かにブランドがないと不安ですね。よく「就社」か「就職」かといわれます。あるいは起業するという選択肢もあります。「自分は何をやりたいのか」というスタンスを大事にしてほしいのです。君たちが自ら問いを立て、答えを求めて学ぶことは、やがて人生の岐路に立ったときに答えを出す糧になるはずです。

[日本経済新聞朝刊2018年5月14日付、「18歳プラス」面から転載]

 17年4月から18年3月まで連載したコラム「池上彰の大岡山通信 若者たちへ」をもとに、加筆・再編集した『池上彰の未来を拓く君たちへ』(日本経済新聞出版社)を出版しました。

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>