異文化で働くリスクあっても 好きなことならやっていける
海外で働くヒント(8)
KOVAL蒸留所で働いている小嶋冬子です。シカゴの蒸溜所で働き始めてから、日本、台湾と3か国での経験をお伝えしてきました。そして、最後に、この記事では、私なりの「海外で働く」ということを、まとめていきたいと思います。
今までの経験を通して、奢っていた自分に気づいた
私はずっと、心のどこかで、海外経験がある人は偉いと思っていました。大学時代も、留学から帰ってきた人たちはどこか違う雰囲気がありますよね。良くも悪くも(笑)。
私自身、全く英語が話せなかったし、海外に行くこととは遠い生活をしていたからこそ、そうゆう人たちに強い憧れや、自分とは遠い存在の偉い人達と思っていました。まさに、無いものねだりというような感じ。だからこそ、自分がシカゴで働き始めた頃は、気持ちの面でかなり浮かれていた時期がありました。(笑)
しかし、実際に働くとそういった考えは、数えきれない問題に直面し、完璧に打ちのめされました。
今までの記事でご紹介したように、アメリカで働くまでは、英語圏の文化にしか興味が無く日本文化との考え方のギャップに苦しんだこと、いざ日本に帰ってくると今度はアメリカで身に着けた仕事の方法が日本の考え方に合わなかったり、その後任された台湾では同じアジアなのに大きな考え方の違いがあったり、と。当たり前かもしれないですが、考え方が違うと、マーケティングの仕方が各国で全く違うことを、痛感したのです。もう「海外で働いてるから~」と、悠長なことは言っていられない状況でした。
様々な問題に直面してきた中で、常に求められたこと、それは結果です。私の場合、初めは担当している市場が日本のみの1カ国であったということもあり、今の蒸溜所で働いていけるかどうかは、自分が出す成果次第でした。ウイスキーを造りとそのマーケティングという、希望する仕事だったとはいえ、結果に繋げるために、厳しい時期に直面したことは何度だってありました。
しかし、結果をコンスタントに出していくということは、決められたことを期限内にやりきる能力や、ある程度自分で分からないことは調べ進めていくということでした(私の場合は、専門用語や他国の文化など理解することが重要でした)。これは、海外でなくてもどこにいても求められる能力でどこでも学べるのは、言わずとも、伝わりますよね。
そのため、海外で働いているからといって、人よりも特別な能力が、いつくもあるというわけではありません。そして、これらの経験は、確かに私を成長させてくれたのと同時に、以前の自分は、「海外で働くということ」に関して、どれほど奢っていたかを学ぶことが出来たのです。
海外で働き、求め続けられる人材とは
それでは、基本的なことだけが出来ていれば海外で働き続けられるのかというと、そうではないと思います。わたしはこの仕事を通して、海外で働いている日本人に、何人もお会いしてきました。そしてそういった人たちには、共通点があったのです。
基本的なことをコンスタントにこなしていきながらも、他国の文化を身に着け、理解する努力をしているひとや、そこから日本と自分の価値観と比べ、バランスを取りながらビジネスにおいて結論まで持っていくことの出来る人こそが、世界で求められ、働き続けられている人でした。1つの文化に触れているよりも、多くの文化を経験しているため、その判断スピードは速く、そして筋が通った結論であればあるほど、信頼性が高いということもあるのでしょう。
ハイリスク・ハイリターンの海外
しかし、ここまで書いてきて、お伝えしなければいけないこともあります。いままでの記事の中で、海外で働いている人は大変だけど、楽しい生活を送っているように、色んな人の目に映るかもしれません。しかし、海外経験をすることによるそのリスクがあるということを、書いていきたいと思います。
海外で学んだり、働いたりする選択をするということ。それは、自分の目標や日本へ帰国した時に何かしらの形として残してこなければ、思い描いていた道とは全く反対の道にそれてしまうとうこともあるのです。
海外で留学している人、仕事をしている人、皆さんの周りにもたくさんいますよね。しかし、その中には、とにかく深く考えずに海外にいって仕事をしたいという理由だけで、特に明確な夢も持たずに日本を飛び出してしまう人も少なくありません。
私がいつも思うのは、海外で働くということを目指す分、想像以上のリスクがあるということです。たとえば、この仕事をしていると、海外経験をしてきた多くの日本人と出会います。しかしその中で、海外で身に着けてきた文化を、日本文化にうまく落とし込めず、日本で仕事をしているときに、「アメリカではこうだったから日本でもこの方法でやってください!」など、自分の要求ばかり通そうとするひとがいます。また、大金を掛けて留学にしたのにも関わらず、ただ何となく留学期間を過ごしてしまったばっかりに、想像していたよりも英語を話せないまま帰国するひとも、たくさんいます。
海外へ行き、一瞬で自分の人生を良いものにしてしまう瞬間もあれば、海外に行ったは良いものの、帰国後に希望を持てず、海外での過去の日々をただ懐かしむだけになってしまうということもあり得なくはありません。
そういった「アメリカはこうだからよかった。日本の人は分かっていない」とか「海外で仕事をしていたから、日本の文化には合わない」と、文化に優劣をつけてしまい、中々順応できずにいる人と会うたび、この人が私でも、私がこの人のようになっていても、何一つ不思議ではないのに、と心から思います。それほど、紙一重な問題なのです。自分の夢を叶えられたときのリターンはとてつもなく大きいですが、その分、そうでなかった時のリスクも、同じくらいに大きいのです。だからこそ、自分のゴールを明確にすることが、リスクを回避する最善策だと思っています。
多くの学生はご両親に資金を援助してもらい、留学に行きますよね。私も母から、そして、ここ日本にいる多くの人たちから援助と期待をしてもらいました。だからこそ、日本で応援してくれた人たちに対しても、帰国後に「日本の考え方は古い」とか、「海外の方が文化が進んでいて良い」とか、他の文化とのバランスがとれないからという理由で、こんな言葉を口にしたくないですよね。
好きなことで、やっていけないはずがない
とはいえ、そういったリスクがあっても、挑戦することをやめないのが、わたし、小嶋冬子です(笑)
私の場合、スコットランドへ留学、自力で職を探しシカゴの蒸溜所へ入社、その後、日本と台湾での仕事を経験してきました。全てが繋がっていたように見えるかもしれませんが、結果に結びけるまでは、多くの人から「ウイスキーの知識も浅いのに、蒸溜所で働けるわけがない」とか「夢ばかりみていて過程がない」とか、「そもそも海外企業でいきなり働けるはずがない」と言われ続けてきました。しかし、私はいつだって、そういった言葉を覆してきました。その理由は、どんなリスクがあろうとも、自分の好きなことで、やっていけないはずがないと思っていたからです。
私は、海外にいくときに、そこで何をしてくるのかというゴールを明確にします。
ロードマップのように自分のやりたいことを考えているので、その夢やゴールの内容が明確であればあるほど、本気度が伝わり、自然に周囲の人も理解して、信じてくれます。
だからこそ、何かで迷ったりしているのであればとりあえず行動を起こしてみるということ。その先には、きっと、自分のやりたいことや、難しいといわれている「海外で働く」ということだって、叶えることができると思うんです。特に、日経カレッジカフェ世代の人にはもし目の前に海外に行けるチャンスがあったら、まず自分は何をしたいのかを明確にして、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。
実際に私がそうだった分、海外での経験で、一瞬で自分の世界が変わることだって起こりうるはずです。
今まで有難うございました!
さて、連載「ウイスキーガール、海外で働くヒント」をここまで読んで頂きまして、本当に有難うございました!この連載が、少しでも誰かの今後の進路の参考になったら嬉しいです。
連載はいったんここで終了となりますが、私は今日も、大好きなウイスキーを広めるために日本やシカゴ、アジアで仕事をしています!もっともっと、海外での経験を積んでまたこのテーマで皆様とお会い出来たら幸いです。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。