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6月1日の迎え方(就活リポート2019) 理系学生、迷ったら数字・データで判断を

6月1日の迎え方(就活リポート2019)  理系学生、迷ったら数字・データで判断を
authored by 増沢隆太東北大学特任教授、人事コンサルタント

 学生優位と呼ばれる中で進んでいる19卒就活。特に理系学生は空前の売り手市場となっています。とはいえ実際は人それぞれで対応は違います。キャリアの問題は常に個人が基本だからです。数字やデータを読み解く能力に長けた理系学生には、この「人それぞれ」であることを強く認識して臨んでほしいと思います。どういう意味でしょうか?

 すでに内々定をいくつも得ている人。残念ながら第1志望先には落ち第2、第3、第4・・・志望先しか内々定が得られていない人。それどころかまだ1社も内定が無い人もいることと思います。まさに人それぞれ。

 いろいろな立場で6月1日を迎える理系学生が考えるべきことを見ていきましょう。

喜んでばかりはいられない複数内定者

私大材料工学科のAさん 既に大手鉄鋼メーカーとIT企業2社から内々定を得ていますが、実はかねてからマスコミに興味があり、まだ応募可能な地方の新聞社や放送局があるのを就活サイトで見ています。大手鉄鋼会社内定の時には先生や周囲からも祝福され、自分の意思もそこに固めたつもりですが、内定承諾書と教授推薦書の提出を求められ、自分の「天職」とか「運命が定めた仕事」のような思いも捨てきれずに迷いが生じています。

 Aさんにとって本当にふさわしい仕事が製鉄会社なのかマスコミなのかは誰にもわかりません。しかし今ある内定を捨て、きわめて厳しい選考が予期される業界分野で、持ち駒ゼロから活動を始めるという判断は適正でしょうか?それ以外の要素はいくら考えても実際働かない限りわからないことだらけ。分析に足るデータになど存在しないことを受け止めましょう。一番自分が役割(=仕事)を果たせそうに感じるのはどこか、仕事での成果の見込みで決めるべきだと思います。

 複数内定を持つ人は、6月1日までには進路を一つに絞らなければなりません。ゲームのアイテムではないので、いくら内々定を持っていてもそのまま先に進むことはできません。1社だけに決めるタイミングを間違えば、他の内定先企業に謝罪が必要になることもあります。

 初任給ならこの会社、人事がすごく親切だったのはこっちと、どの会社にも絞りきれない。あるいは逆にどの会社にも、何かひっかかるものを感じ、勤務地、業務内容やネットの悪評も気になって絞れない、決められないなんていうこともあるでしょう。

 これは企業や経済の知識といった判断材料がないから決められないのではありません。なぜ会社は理系学生であるあなたに内々定を出したのかに戻って考えましょう。それは会社に入って仕事で活躍してもらうことを期待しているからです。企業側は「ウチの会社で仕事の成果を上げてくれそうだ」と判断したから内々定を出したのです。考え出したらきりがない、本当にふさわしい仕事や運命のような不確かな存在より、活躍の可能性を今は重視することが合理的だと思います。

 自分の選択に迷いが生じた時は、判断する材料が足りないというより、判断の基準がぶれているのです。人生の大きな決断ですから、気持ちが揺らぐのは普通です。しかしそんな時も理系的な合理的で科学的な思考を常に心がけるべきだと思います。

まだ内定がない、あるいは満足できる内定先がない人

国立大応用生物学科のBさん 発酵を使って人に喜ばれることを仕事にしたいとの思いから大手食品会社を受けていますが、ES落ちや、一次面接落ちが続いています。応募を検討している内に募集が終了する企業も増え始め、焦りの気持ちが強くなっています。

 焦るのも当然だと思いますが、焦ったところで何も生まれません。Bさんは普段うまく実験が進まない時、相手が生物である以上は求める結果が出ないことも普通にあり、そんな時はどこかプロセスに間違いがあったり、自分の気付かない問題が隠れていることがあると説明してくれました。思いの強さや根性、気合いだけで望ましい実験結果が出る訳がありません。就活も似ていますよね。

 まじめなBさんは努力が足りないのではなく、努力の方向や中身が違っているのではないでしょうか。会社が欲しいのは正しいESや良いESを書ける人ではなく、仕事で貢献してくれる人です。ESの志望動機を使いまわしにしていないでしょうか?そんなつもりはなくとも、その志望動機が会社名を変えても通用するような汎用的な中身だとしたら、読み手の企業から見れば、テンプレ回答の使いまわしと受け取られても仕方ありません。

 自己アピールが「やる気だけは負けません」式の単なる意気込みだけだったり、趣味や特技紹介だけで終わっていませんか?「その会社の」仕事への貢献とつながる専門性や知識、能力(応用力含む)をしっかり伝えているでしょうか。

 さらにいうなら「大手食品会社」といえば知名度は高く、学生人気もきわめて高いのが普通です。有名な大手企業ばかりを100社受けても、全滅のリスクがあります。大手だけでなく関連会社や原料メーカー、添加物や香料など、直接最終製品を送り出すB2C企業「以外」に目を向けているでしょうか。企業間取引を主とするB2B企業こそ、理系学生との相性も、成果の可能性も期待できる企業群です。

 10社連続してESや面接が通らない時、今一度就活の進め方を見直す必要があります。就活の全体像・フレームワークを解説した就活ガイドなど、今一度読み直すなどして、戦略を立て直してみるのもお勧めです。

不安な時、見るべき情報は?

私大大学院化学専攻のCさん 大手システムインテグレーターから内々定を早々と得ました。しかしインターネットではSEやプログラマーの仕事へのネガティブな書き込みや、内定先をブラック呼ばわりするものも見かけ、だんだん不安が強くなってきています。

 ネット書込みで不安になるのは普通だと思いますが、それによって判断するのではなく、もっと確かな情報を検分すべきです。それは企業の公式サイトです。そこには「製品情報」「サービス紹介」「会社概要・事業概要」といったページがあります。その会社の仕事の仕組を知ることができるのはこれらの情報です。就活ナビサイトではなく、必ずその企業の公式サイトを直接見て下さい。

 Cさんは自分がガンガンと前に出て研究を進めるより、単調に見えるデータを調べて、そこに存在する差異やイレギュラーな事象を見付けたりするのが得意だそうです。リーダーを務めるよりサポートが、派手な動きより地道な積み重ねが好きだし、性に合うということですが、その内々定先のサービス紹介には、「クライアントの課題解決のための、さまざまなソリューション提案」についての説明がありました。

 ここをよく読んだことで、お客さんが主、自分はそのサポートとしてシステム開発をするという位置付けをあらためて確認できました。ゼロからプログラムを作るのではなく、今あるシステムを組み合わせたり環境を変えたりして顧客ニーズに応えられる仕組み(システム)を作っていく。これは新たな真理や発見をすることより、既に存在する素材を組み合わせて新たな機能を見出していく過程など、今やっている研究とも共通するものだと感じたのです。

 人は誰しもいろいろな意見によって、不安になったり自分の決断に疑問を持ったりするものです。しかしそうした不安に対してどう行動するかについて、理系である皆さんはぜひ科学的に判断してほしいのです。その会社が良いか悪いかなど誰にもわかりません。不安を消すことはできなくとも、自らの科学的判断によって結論を出し、6月1日に臨む。そんな風に自分の感情とも付き合いつつ、進んで行ってはどうでしょう。