日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

トビタった!私たち(17)カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(中)
叡智をもって人に影響を及ぼす

トビタった!私たち(17) カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(中)叡智をもって人に影響を及ぼす
authored by トビタテ!留学JAPAN

 こんにちは、大阪大学の佐久間洋司です。前回に続き、トビタテ!留学JAPAN トークイベント「TobitaTALK」で筆者が話した内容を中心に、カナダ・トロント大学への留学経験とそこから得られた教訓などをご紹介できたらと思います。

トビタテ!留学JAPANトークイベント「TobitaTALK」:カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(佐久間洋司) https://www.youtube.com/watch?v=_eNt0eEfPvI

 私には高校時代からのかけがえのない友人がいます。私たちは共通の目標に向かって日々を過ごしていましたが、彼女には申し訳ないことをしたと今でも反省している出来事があります。

 それはたくさんのクラスメイトをも巻き込んでしまったもので、無責任な大人を前にして、子供なりになにがしかの尊厳を守らなければならないという場面でした。私と彼女は大人たちを相手に、決して理解することも理解されることもできないという瞬間を経験しました。

 私はひどく責められても仕方のない状況でしたが、周りの友人たちは誰一人として私を問いただすようなことはしませんでした。その友人たちと大人との間で、私が感じていた罪悪感と違和感は、今でも忘れることができません。

 人の気持ちを推し量るということは簡単なことではありません。私たちは自分以外の誰かを前にして、どんな意識を持って向き合っているのだろう、そもそも人の意識とはなんだろう、「どうすれば変えることができるのだろう」と考えさせられる出来事でした。

カナダでつながった必然

 その高校時代からの友人がカナダまで遊びに来てくれて、二人でしばらくカナダとアメリカを旅行しました。カナダで過ごす最後の数日に、たまたま閉店前だったHMVに入りました。

カナダ・トロント市街地の夜景

 何か映画を観ようと話しながら、セールになっていた作品の中で日本の映画コーナーを見つけました。どうしてか聞いたことのない作品が目に留まり、それを手にとって表紙を見て、その作品を知りたいという強い感覚にとらわれました。
同じくその作品を知らなかった彼女には、「本当に買うの?」と言われながら、導かれるようにその映画を観ることになりました。

 お互い大学から東京を離れたその友人と、カナダに来てまで二人でこの映画を見ていることに、私は不思議な偶然を感じていました。

 そこで私はふと思い出しました。生まれ育った地を離れて進学した私が、誰一人として知る人のいない日々を過ごす中で、ある一つの曲に惚れ込んでずっと繰り返し聴いていたこと。

 特に好きなアーティストでもなければ、なぜこの曲を聴いているのか、自分でも理由がわかりませんでした。大学でたった一人だけできた友人は、同じ学科で生物工学を学んでいましたが、彼の誕生日にはその曲を贈りつけるほどでした。そのときに、「何かの映画の主題歌だ、聞いたことがある」と言われていたことも思い出しました。

 なぜか、その一曲だけを繰り返し聴いていた思い出が、自分の中で腑に落ちたのは、その映画の最後に主題歌として曲が流れたときでした。後になって曲を贈った彼から、その劇中の一人の登場人物と私の思想が似ていると指摘されて、私はさらに考えさせられることになりました。

 高校からの友人がカナダを訪れていた然るべきときに、私は観るべくしてその映画に出会ったようでした。そして私は、自分に似た思想をもつ登場人物を見つけます。

 その人物は、現代とは全く常識の異なる未来における世界規模のテロリストであり、同時に人類の救世主とも考えられる存在でした。世界中の人々の「意識」を新しいレベルに作り替えたい、世界をアップデートしたいと思ったその人物が、人々に影響を与えるためにもっていた感覚、言葉の力、科学の力。

 もちろんその行為そのものを倣うのではなく、学ぶべきは確固たる意思とその手法です。若き日から「言葉には人を殺すことのできる力が宿っているんだよ......」と繰り返したその人物は、その言葉の力では飽き足らず、最後に行き着いたのは意識を治療する科学の力でした。

 かねてから私は自分自身のビジョンとして、『叡智をもって人に影響を及ぼす』ということを掲げていましたが、その人物はそれを極端に理想化したような存在であったと知りました。
その作品の名前は、「ハーモニー」※といいます。(続く)

※『ハーモニー』 伊藤計劃著(早川書房)およびその劇場アニメ

プロフィール
佐久間洋司(さくま・ひろし)http://hiroshi-skm.com/ja/
1996年東京都生まれ。東京都立小石川中等教育学校卒。大阪大学で石黒浩教授のもと研究に取り組んでいる。2016年9月よりカナダ・トロント大学へ交換留学、Panasonic Silicon Valley Labでインターンを経験し、帰国後の留学成果報告会では優秀賞を受賞。15年12月の設立から人工知能研究会/AIRの代表、17年6月から人工知能学会誌の学生編集委員を務める。