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トビタった!私たち(18)カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(下)
理性と愛の調和を実現する叡智

トビタった!私たち(18) カナダで見つけた人工知能と私たちの未来(下)理性と愛の調和を実現する叡智
authored by トビタテ!留学JAPAN

 こんにちは、大阪大学の佐久間洋司です。トロント大学への留学を通じて得た「技術の中心は機械ではなく人の側にある」という学び、そして、導かれるようにして出会った「叡智をもって人に影響を及ぼす」という信念、それらを自分の中で再発見できたことが留学の成果でした。

 その後、カナダから日本に帰国してすぐに、もう一度アルフォンス・ミュシャ館へ行きました。《ウミロフ・ミラー》の向こう側、大きな円形の世界に映る自分を一瞥して、私は主のような大きな人物が人々を照らすあの絵画のもとへ急ぎました。

 神話のような世界、それは何かの始まりなのか終末なのか、大きな人物が両手に黄色い光と青い光を掲げている。人々は主の前に集まってそれぞれの光に照らされている。私たちは、誰かの光に照らされているのだろうか......。

 アルフォンス・ミュシャによって描かれたこの絵には、「理性と愛の間で調和を実現するのは叡智のみである」という意味が込められているといいます。そして、そこで私は改めて、その絵画が《ハーモニー》という名の作品であることを認識しました。

アルフォンス・ミュシャ《ハーモニー》1908年 油彩、カンヴァス 堺 アルフォンス・ミュシャ館蔵(⼤阪府堺市)

 それまで導かれてきた道が、自分のやりたいと思っていたことが、確信に変わりました。誰かを理解するということ、人の意識に想いを馳せた高校時代。その瞬間をともに過ごした友人と観た「ハーモニー」という映画、人々の意識を革新する登場人物。その人物のもつ言葉の力と科学の力。

 そして、私の心を奪った《ハーモニー》という絵画には『理性と愛の間で調和を実現するのは叡智のみである』というミュシャの思想が込められていました。

人を優しくする機械

 私たちはそもそも、他者を理解することができないという大きな問題を抱えています。それは、私たち自身の意識の変革によって乗り越えることが期待されると同時に、教育あるいは言葉による伝承だけでは変わることができなかった部分でもあります。

 それでは、言葉の力ではなく、コンピュータサイエンスという科学の力を通じて、私たちの意識に対して外発的に影響を与えることはできるのでしょうか。それが私の未来への課題です。

 人から人へ教える他者への思いやりの大切さ、逆にSF映画に見るような極端に支配された脳による強制的な共感、それらの間に位置すべき技術があるのではないかと考えます。人の側にあるべき科学技術をもって、人の意識に影響を与えることが期待されています。

 もしも、人の情動的共感――私たちの思いやりを促進するような技術を創ることができたなら。
もしも、僕のつくる機械によって、私たちがもう少しだけ優しくなることができたなら。
そして、僕が、この世界に理性と愛の調和をもたらす叡智、その一助になれたなら。

 それ以上のことはないと強く本当に思います。


筆者の研究や活動、その他のメディア掲載については、QREATORS「機械は人を優しくできるか?人類のハーモニーを目指す若き研究者 認知科学者・佐久間洋司」にまとめていただいています。http://qreators.jp/qreator/sakumahiroshi
また、TobitaTALK のウェブサイトでは、「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」を通じて留学した4名の学生の経験談が紹介されています。興味のある方はぜひご覧ください。https://tobitate.mext.go.jp/tobitatalk2018//

プロフィール
佐久間洋司(さくま・ひろし)http://hiroshi-skm.com/ja/
1996年東京都生まれ。東京都立小石川中等教育学校卒。大阪大学で石黒浩教授のもと研究に取り組んでいる。2016年9月よりカナダ・トロント大学へ交換留学、Panasonic Silicon Valley Labでインターンを経験し、帰国後の留学成果報告会では優秀賞を受賞。15年12月の設立から人工知能研究会/AIRの代表、17年6月から人工知能学会誌の学生編集委員を務める。