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日本経済新聞「未来面」
学生から全国農業協同組合中央会会長へ提案
義務教育の科目に「農業」の追加を

日本経済新聞「未来面」 学生から全国農業協同組合中央会会長へ提案義務教育の科目に「農業」の追加を

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。今回は全国農業協同組合中央会会長・中家徹さんからの「農業と農村はどうすればもっと元気になる?」という課題について、学生の皆さんから多数の投稿をいただきました。

【課題編】農業と農村はどうすればもっと元気になる?

中家徹・全国農業協同組合中央会会長

 日本の農業は多くの危機に直面しています。高齢化と担い手不足で農家の数が減り、耕作放棄地が増えています。農業生産額は最近少し上向いていますが、農業が強くなったから増えたわけではありません。金額が上向いたのは生産量が減って、値段が上がったためです。

 天候の影響とは関係なく、生産量の自然減が現実に起きています。そこに悪天候が重なって、農産物の値段に影響し始めています。自分の故郷の和歌山県を見ると「5~10年後はどうするんだろう」と思う農家がたくさんいます。それでいいのか。これ以上、地方を疲弊させてはならないと思っています。

 ふり返れば高度成長時代、「金のタマゴ」と言われて若者が農村から都市に移りました。農家の収入はサラリーマンほどには増えませんでした。食生活が欧米化してコメをはじめとした日本の農産物の需給バランスが崩れました。そうした中で農産物の輸入も増え続けました。

 いろんなことが負のスパイラルに入って、今日にいたっています。兼業農家の多くはもともと専業農家でした。でも農業では暮らしが成り立たないので、ほかで稼ぐために兼業になりました。地域社会を支えてきたのは彼らです。ただ、中には「子どもに農業を継がせたくない」と思っている人も少なくありません。

 農地の集約による経営の大規模化は確かに進んでいます。グローバル化の中で海外と競争しなければならないというムードが強まり、もっと合理的に経営すべきだという機運も高まりました。農政の課題でもあります。でも条件の悪い山あいの田畑はどうすればいいのか。

 ひとくちに農業と言いますが、実態は多様です。農地の集約は産業としては重要ですが、農村をどう守るかという視点を忘れるべきではありません。日本の伝統文化を誰がどうやって継承していくのか。産業政策と地域政策は車の両輪。それを無視して、いきなり手のひらを返すようなことはできません。

 農協も頑張ってはきましたが、足りなかった部分もあります。「組合員のための組織」という考え方にこだわって、内向きの発想で守りの姿勢になってきた面もあります。もっとグローバルな視点に立ち、今の流れに対応して経済界と連携すべき部分も多いと思います。人工知能(AI)など想像もできなかったような技術革新を取り入れて、効率を高めることも必要でしょう。

 そこで皆さんの意見を聞かせてほしい。食料自給率は先進国の中でも最低水準なのに、たくさんの食料を廃棄している現実をどう思うのか。お金を出せばすぐ食料を買える状態が今後も続くのか。農業と農村はどうすればもっと元気になるのか。戦後の食料難が忘れ去られてしまった今、農業と農村の未来について改めて問いかけたいと思います。

(日本経済新聞2018年5月8日付)

◇    ◇

【アイデア編】

アイデア001 ありえない視点プラスし面白く
吉岡 明日香(主婦、32歳)

 今までありえなかったものや事象が交錯することで元気になると思う。「クラブ(DJ)イベント×農業」「夏フェス×農業」「ロボット対決×大自然」「ファッションショー×田舎会場」などといった発想だ。おしゃれや色恋に興味津々な層を「農業体験合コン」に呼び込む。「食」にとくに重きを置いていない層を興味のありそうなイベントと絡めて試食や農業体験、農家民宿体験をさせる。逆に、農家の人たちが小中学校に出向き、授業で児童や生徒から野菜やお米、お菓子などで普段感じていることをヒアリングする。農家の方々がおしゃれな旬の作物の調理を家庭科授業で教えてもよい。普段なかなか関わりがなさそうなテーマで、気軽にできる形で「楽しい」をキーワードに掛け合わせていけば、きっと農業と農村は盛り上がるだろう。

アイデア002 地方特有の知恵 よみがえらせる
小林 千春(自営・自由業、69歳)

 6次産業化の講演を頼まれると、文献調査や現地に出向いて、その地方特有の知恵や食を復元して資料集にまとめて配布してきた。A4で100枚を超えることもある。群馬県吾妻地方に麦飯をふっくら炊く「秘伝」があった。三河地方の豆味噌は味噌玉にわら縄を通してつる。菌を発生させるわら縄が必須だ。栃木県小山の「べんけい」は、囲炉裏の上のわらづとに、焼いた魚を串刺しのまま刺して保存する。乾燥してもさがらないように、串の根元を四角に、先の方を三角に削ってある。豪雪の揖斐川上流には根曲がり材を垂木などにうまく使う技術があった。農村はプレミアムな知恵が無尽蔵に眠り、これを現代によみがえらすことで新たな価値を生む。

アイデア003 義務教育の科目に「農業」の追加を
鷺谷 亮佑(中央大学商学部1年、18歳)

 農業を発展させるためには、農家を公務員化するのも一法だろう。最近の若者が農業に対して関心がないのは「給料が安定しない」「農業に携わる機会があまりない」といった理由があるからだ。ならば農家の公務員化で収入を安定したものにすればおのずと人手は増えていくと思う。また教師になるための専門の授業「教職」が大学にあるように農業にもそういった「農職」なるものを配置し、農家になるのも筆記試験と実技試験を課すことで必然的に農業に携わる機会が生まれると思う。もっといえば義務教育の科目に「農業」を加えれば、より多くの人が農業の魅力に気づくだろう。私は、農業を営むことの不安を取り除くことで農業の楽しさを一層広められ、人手不足解消につながっていくと思う。

【講評】中家徹・全国農業協同組合中央会会長

 いただいた意見の中には私たちがなかなか思いつかないものが多く、面白く読ませていただきました。「ありえない視点プラスし面白く」はとくにそうです。農業を知らない人の視点から見ることで、これまでの農業のイメージとは違う発想が出てくるんでしょう。農業の価値に対する新たな評価です。こういうサービスを担う人を内部で探すのは難しく、農業の外側に求めるしかない。農協がそういう人材を農村に連れてくるべきだと思いました。

 いろんなイベントを通し、「農村は素晴らしい」と感じてもらったからと言って、すぐに「自分で農業をやってみよう」と思ってもらえるかどうかはわかりません。それでも農村のことを都会の人に知ってもらうことが、農業の応援団を増やすことにつながれば大きな成果だと思います。

 「地方特有の知恵よみがえらせる」も農村にどっぷりつかっていると、出てきにくいアイデアだと思いました。私の地元で梅の収穫体験ツアーをやっています。収穫期は雨が多く、農家にとっては大変な作業です。ところが消費者の皆さんはかっぱを着て、すごく楽しそうに収穫します。内側にいると見過ごしてしまう価値が、農村にはけっこう埋もれていると思います。

 私が小さいころは、しょうゆや味噌、コンニャクなどを全部自分の家で作っていました。デジタルの時代ですが、時間をかけて自分の手で作るアナログ的なものも評価されると思います。そうしたものを掘りおこすことができればと思います。

 「義務教育の科目『農業』の追加を」ですが、若い人がここまでやる必要があると考えてくれているのはありがたい話です。農業に絞らず、食も含めて教育することが大事だと思います。私たちが幼稚園の子供たちに農業体験の機会を提供しているのもそうした思いからです。農業は生命産業だということを認識してほしいと思います。

(日本経済新聞2018年5月28日付)

【「未来面」からの課題】
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