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池上彰の大岡山通信 若者たちへ現代を生き抜く(上)―情報感度磨く工夫重ねて

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 現代を生き抜く(上)―情報感度磨く工夫重ねて
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 就職活動中の学生たちは、企業面接が解禁になりました。今春、働き始めた若者たちはそろそろ仕事にも慣れてきたころでしょうか。そこで今回と次回は、現代を生き抜くコツとして、私の体験を基に情報の活用術や人間関係づくりをアドバイスします。

 私は2005年、報道記者として長年勤めたNHKを退職しました。54歳でした。ジャーナリストとして取り組みたいテーマを取材し、本を書きたいと考えたからです。社会部で事件や災害などを取材してきたので、視野を広げようと新たなチャレンジもしました。

 たとえば為替や金利、株価など経済の仕組みを学ぶため、各大学が開設している社会人向け講座に通いました。国債の流通価格と金利の関係や、外国為替市場での実際の取引などをきちんと学んだのもこのころです。

 自費で中東各地への取材にも行きました。イランの核開発疑惑が表面化したころだったので、「今後大きな問題になるだろう」と考えたのです。中東調査会の会員になり、アラブの専門家の話を聞きました。こうしたニュースの解説に当たっては、過去の現地取材が財産になっています。

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 この経験からいえるのは、本気で学ぶには、自らお金を使わなければいけないということです。

 NHK時代、記事を書くだけでなく、「週刊こどもニュース」の番組づくりを体験し、わかりやすく解説をする経験も積みました。その技術を磨き続ける上で大切なことがありました。それは執筆や解説を意識しながら、情報を集めたり、蓄積した情報を更新したりする日々の努力が欠かせないということです。

「時代へのアンテナを張るには、情報の収集や更新など日々の努力が欠かせない」と強調する池上彰氏

 私は現在、新聞12紙に目を通すようにしています。大きく日々のニュースの流れを押さえながら、新たな発見をしたり、ニュースを深掘りするきっかけを発見したりする入り口にしています。

 いまの時代はインターネットが普及し、世界のどこでも情報を集められます。政府機関の発表資料や統計、海外ニュースなど情報の宝庫です。

 こうした誰もが入手できる公開情報を侮ってはいけません。米中央情報局(CIA)など海外の情報機関が活用する情報の大半は公開情報だといわれています。大事なポイントは情報と情報を組み合わせ、そこからどんな変化を読み解けるかという手法にあるのです。

 AI(人工知能)がどんどん進化しています。膨大な情報を瞬時に集め、計算する能力は、人間はかないません。膨大な情報からどんな意味を見つけ、新たな変化を予測できるかどうか。それは人間にかかっています。

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 私が歩んできた報道の現場と、あなたが働く世界は違うでしょう。でも、企業が消費者や利用者として想定している対象が人間であることに変わりはありません。

 だからこそ、人々がいまどんなことに関心を持っているのか、世の中の変化に敏感でいてほしいのです。情報感度を磨く工夫が欠かせないのです。アンテナを張るとはまさにこのことです。

 私は今年度、前期は8つの大学の教授として講義を受け持ちます。年の後半はジャーナリストとして主に海外での取材活動が中心になります。何歳になっても、好奇心を持ち、発見し、伝えていくために必要なチャレンジです。

 次回は、人間関係づくりについて考えます。

[日本経済新聞朝刊2018年5月28日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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