ES通らない・1次面接で落ちる… 理系のための就活再点検講座
就活リポート2019(12)
現在学部4年、修士2年の理系学生の皆さんの就活は、売り手市場と呼ばれる企業側の強い採用意欲の環境で進んでいます。ただし「売り手市場」とは、誰でも採用するという意味ではありません。現時点で内々定を得ていない学生はいくらでもいます。今起きていることをできるだけ客観的に理解するよう努力することがスタートになります。
今の状況で当てはまるのはどれでしょうか。
(1) ESがほとんど通らず、面接に進めない
(2) ESは通ることがあるが、一次面接ですべて落ちる
(3) 上記以外
まず(3)に該当するのであれば、現在まだ就活の真っ最中であり、がんばりどころです。ESも通るし2次面接以後にも進めているのですから、引き続き今のまま成果が出るよう活動を続けましょう。
一方(1)か(2)に当てはまる場合、活動の再点検が必要となります。(1)も(2)も、ここまでの活動に何か問題があると判断できる結果です。ひたすら今のまま活動を続ければ、いつか報いられる日が来ると考えるのではなく、基本的な問題点を直さなければ傷口が広がるだけと考えましょう。無意味な根性論や運命論とはきっぱり決別すべき時といえます。
再点検その1 応募先
私大化学工学科Aさんは現在まだ内定がありません。就活ナビサイトを見ても、大学のキャリアセンターにある求人票を見ても、ほとんどが聞いたことのない会社ばかり。やはり出遅れるとろくな会社がないと感じています。
早期化の影響で、5月を過ぎると募集企業も減り始めます。特に誰もが憧れるような人気企業や、有名企業の募集は早々と締め切ったところも珍しくありません。あまり行きたいと思える企業がない、今まだ募集を続けているような企業は「ろくな企業ではない」のでしょうか?
理系学生の皆さんがふだんしている勉強は、普通はビジネスとは直接関係ないものだと思います。企業についての知識が乏しいのは当然であって、それ自体が問題なのではありません。しかし会社を選ぶ際、乏しい企業知識の中だけで選ぶことはきわめて危険であり、間違った選択となる可能性が高いのです。「ろくな企業ではない」どころか、ビジネス知識豊富な現役の社会人から見れば、超一流と見られる企業でまだ採用継続中の企業がごろごろしています。
特に理系学生との相性が良く、また採用意欲も高い企業はB2B(ビー・トゥ・ビー)、企業間取引を主体とする企業が圧倒的に多く、そうした企業間取引が主である企業は一般的知名度がありません。なぜなら一般の消費者はB2B企業のお客さんではないため、普通は知名度を上げるようなコマーシャルを打つ必要がないからです。ビジネスの専門家ではない学生の知名度と、ビジネスの世界の評価は全く関係がないことを十分理解して下さい。
学校推薦が受けられる企業もやはり理系学生にとっては大きな選択肢の一つです。大学のキャリアセンターか、自分の学部/研究科の就職担当教員のところに推薦情報は集まるのが普通ですので、必ず確認しましょう。自分や周囲の学生同士内の知名度だけで判断せずに、現役社会人や学内キャリアアドバイザーの先生の意見など参考にしましょう。
推薦といっても採用を確約するものではありませんが、ESなど選考プロセスを省いたり、推薦枠学生は全員面接から始められるなど、メリットは満載です。一旦採用が決まると辞退ができないという縛りがあるので、推薦を利用する際は必ず採用されたら入社するつもりの企業としなければなりません。滑り止めに推薦を使うようなことがないように留意すれば、宝の山ともいえる応募先です。
再点検その2 応募書類(ESや面接)
国立大大学院分子生物学専攻Bさんは、ESこそ通るものの一次面接で落ち、先に進めません。ESの内容も就活本でしっかり研究して準備し、面接では上手にそのまま伝えられているはずです。製薬会社希望ですが、大手はほとんど締め切られています。
ES内容を「しっかり研究して準備し」ているのは良いのですが、その内容は誰が確認しているでしょうか。必ず大学のキャリアセンターのキャリアアドバイザーのような、企業経験とビジネス感覚を持つ人の意見を聞くべきです。Bさんが敷居が高いと思っていたキャリアセンターで一度見てもらったところ、ESでアピールしている内容が高校時代の軽音楽部の活動だったり、学部時代のカフェのバイトを通じて培ったコミュニケーションだったりする点を指摘されたそうです。
製薬会社の研究職志望の国立大大学院生が、総合職志望の文系学部学生と同じようなアピールをしても、採用する側は採る必要を感じるでしょうか。アドバイスに沿って、日々行っている勉強や実験といった研究活動を通じて、研究職という仕事で求められる能力や成果への意欲といった、ストレートに採用判断ができるような大学院での研究活動中心に中身を変えました。
ESも面接も、「上手に書けたか」や「上手に話せたか」を競う試験ではありません。どれだけ就活本の模範解答のようなESを書いても、応募する職種で求められる能力やセンスが伝えられなければ、評価に至れないのは当然です。ずいぶん前の高校時代の話や、研究とも関係ない文系モドキのエピソードをやめ、普段熱心に取り組んでいる実験の難しさや失敗談を話したところ、面接官は大いに関心を示し、その場で二次面接の日程調整が行われたということでした。
再点検その3 就活の基本フレーム理解
私大応用物理学科のCさんはESが全く通りません。志望動機といわれても、入社できればどこでも良いし、アピールするほどの特技もなくサークルにも入っていません。何を書いてよいかもわからなくなってきました。
CさんのESは「200字以内で記入せよ」という設問に、その半分以下の文字数しか書かれていませんでした。志望動機欄には「貴社の経営理念に共感し、社会貢献のために志望した」と書かれています。面接風に「あなたの強みと弱みは何ですか?」と質問をしてみたところ、「強みは特に無く、弱みはネガティブ思考でつい悪い可能性を考えることです」と答えました。
最低文字数の指定がなかったとしても、与えられたスペースの8割は埋める。面接は自分を売込む交渉の場であって、単に思った通りを話す場ではない。志望動機も強味・弱みも、自分を売り込むことが目的で説明するといった、就活の基本フレームとも呼べる知識を全く持っていないと感じました。
大学では必ず就職対策講座や就職ガイダンスなどを通じ、学生に基本的な臨み方を伝えているはずです。そうした講座には出たことがないCさんですが、そうであれば自ら就活のガイドブックなどで最低限の知識を持たなければ、およそ活動が進むとは思えません。
サービス業や接客業を志望するのでもなければ、お辞儀の角度のような枝葉末節のことまで、普通の理系学生が気にする必要はありません。しかし最低限の就活の仕組みや構造といった基本フレームは理解するのが活動の前提です。幸い大学のキャリアセンターに過去の講座資料があり、また理系向け就活の基本書などを今からでも読んだことで、元々物理で頭を使っているCさんはみるみる立て直しに成功し、結果はほどなく出ました。もっと早くからわかっていればと後悔しましたが、結果オーライとなりました。
「逃げ」や「幻想」を捨て、現実を見る
就活で結果を出すための魔法はありません。ここまで述べた内容も、要は基本的な理解とそれに基づく活動に立ち返っただけです。わかっていることかも知れませんが、どこかでずれが生じたり、わかったつもりで実はわかっていないことが大きく成果に影響します。
持つべきは科学的思考です。理系学生である以上、非科学的な思考や感情に惑わされるのではなく、当然やるべきことをしっかり理解して実行することに尽きるのです。基本の見返しなど、一見時間がもったいないように感じるかも知れませんが、結果が出ないままの状態を続ける方がはるかに危険です。
うまくいかない現状から、秋採用や中には就職留年や浪人に賭けようという人もいます。もっとも採用意欲の強い3月に比べ、秋採用はあくまで補てん的採用にすぎません。また留学生や海外大生向けに枠だけは取ってあるかも知れませんが、必ず一般学生の採用が行われるかどうかもわかりません。
就職浪人や留年にいたっては、現役である今の何倍どころか何十倍もの強烈なプレッシャー下での戦いとなります。そんな激烈な環境に耐える自信があるのでしょうか。逃げや幻想を捨て、科学的思考で現実に臨みましょう。理系学生を求める会社はまだまだたくさんあります。
理系専用就活ガイドブック「理系のためのキャリアデザイン 戦略的就活術」(丸善出版)や、「戦略思考で鍛える「コミュ力(りょく)」」(祥伝社新書) など、著書多数。理系中心に東北大生のキャリア支援を担当。東工大では約10年キャリアとコミュニケーションの講義を担当した他、現在は東京理科大、日大生物資源科学部、秋田美大はじめ全国の大学などで講義やセミナーを行っている。コミュニケーション専門家として、テレビや新聞等でコメンテーターを務める。ロンドン大学大学院現代史学修士課程留学時代は、戦争と戦略の研究を行った。Webサイト「理系のための戦略的就活術」
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