売り手市場の恐怖 就活生の保護者が意識するべきこと
常見陽平 千葉商科大学専任講師
6月になりました。大学生の就職活動「就活」の採用活動が解禁されました。ただ、こんな話にしらけてしまう方、クビをかしげる方も多いかと思います。就職情報会社各社の調査によると、採用活動解禁前の2018年5月1日時点の内定率は4割前後。6月1日段階では6割を超えています。
リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」によると今年の大学4年生、2019年卒の求人倍率は1.88倍で、前年度の1.78倍よりも0.1ポイントアップしました。1.8倍を超えるのは9年ぶりです。売り手市場ということもあって、企業の採用活動もフライング気味になっています。
売り手市場?
思えば、私の教え子からの最初の内定報告は2月の上旬でした。就活の採用広報活動解禁が3月1日ですから、かなりのフライングと言えます。4月になると内定報告が増え始めました。5月中旬から6月1日にかけて、大手企業も内定を出し始めました。Facebookを覗いていると、大学生のお子さんがいる方による「息子が第一志望に決まりました」という投稿が散見されます。
「景気の良い話」に聞こえますが、立ち止まって考えたいです。「内定がいっぱい出たことで、浮かれていていいのか?」「最初の1社は本当にそれでいいのか?」を考えたいです。
そもそも、「売り手市場」なるものも、丁寧に見なくてはなりません。従業員規模別、業種別で見てみると、需給ギャップの差が気になります。300人未満企業が9.91倍(前年の6.45倍から3.46ポイント上昇)で過去最高になった一方で、5,000人以上では0.37倍(前年の0.39倍から0.02ポイント低下)となっています。メガバンクの採用減などが話題となっている金融業は0.21倍(前年の0.19倍から0.02ポイント上昇)と狭き門となっています。
このように、売り手市場なのは事実なのですが、細かくみると単純にそうとも言い切れないのです。
売り手市場は、怖いと捉えるべし
「売り手市場は怖い」ということもご認識頂きたいです。この局面では企業は採用活動になりふり構わず取り組みます。健全な取り組みになればいいのですが、たまに創意工夫をしすぎたためか、あるいは考えていないからか、荒っぽいことをする企業が出現します。
たとえば、1日で会社説明会から、筆記試験、面接などを行い、内定を出してしまう会社や、一次面接免除パスを配布する企業などです。耳を疑うかと思いますが、事実、このような企業があります。
求人広告などで企業の採用活動をサポートする就職情報会社も、この時期は仕事が荒くなりがちです。書き入れ時であるがゆえに、営業担当を増やします。結果として、経験の浅い担当が企業の採用活動のサポートをすることになります。これもまた、荒れた採用に拍車をかけることになり得ます。
「息子の就活する時期が売り手市場でよかった!」と狂喜乱舞する保護者の方もいらっしゃっることでしょう。しかし、本当に喜んでいいのでしょうか。前述したように企業の採用活動が荒れるのでミスマッチが心配です。それだけでなく、売り手市場のときに社会に出ると、あとで苦労するリスクがあることを認識しておきたいです。あまり考えずに、なんとなく内定が出た企業に就職し、ミスマッチに苦しむ上、景気も悪くなり厳しい環境で仕事をし、転職しようとしても求人がないという状態も考えられるからです。
もちろん、若年層の人口が減少しておりますし、中途採用も以前よりも日常的に行われるようにはなっています。しかし、売り手市場は必ずしも良いことではないということをご理解ください。
未内定者、不本意内定者にもまだまだチャンスが
ただ「売り手市場」と聞いて、どこか白けてしまう人もいることでしょう。「ウチの子、内定まだなんです」という保護者の方もいらっしゃるでしょうね。お子様が内定を持っていても、その企業に行く気がしない「不本意内定」という場合もあるでしょう。
安心してください。まだチャンスはあります。たしかに、早々と採用活動を終わらせる企業もあります。しかし、売り手市場であるがゆえに、内定辞退も多発します。大手企業を含め、追加募集を行う企業があります。このチャンスを大事にすべきです。
追加募集は、企業のホームページや就職ナビに告知されることもあります。しかし、もっともチェックするべきなのは、大学のキャリアセンターにくる求人、さらには学内セミナーにくる企業でしょう。広く告知すると応募が殺到するので、大学をしぼってこじんまりと告知することがあるのです。他にも、夏以降の採用スケジュールを用意している企業、通年で応募を受け付けている企業などがあります。これらの求人もチェックしてみましょう。
このように、売り手市場もよくみると、安心できないものです。また、途中で躓いた方もまだまだ挽回は可能です。応援しております。
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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