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早稲田大ワークショップ2018(1)モノよりつながり「ふるさと納税」 
~地方と都会の現場から~

早稲田大ワークショップ2018(1) モノよりつながり「ふるさと納税」 ~地方と都会の現場から~
authored by 早大ワークショップ受講生
 この記事は、早稲田大学の2018年度学部横断型授業「プロフェッショナルズ・ワークショップ」の日本経済新聞社実施講座を受講した学生による作品です。このテーマで4年目を迎える今年も、4月から6月まで講座を実施。「日経カレッジカフェのコンテンツを作成しよう」という課題に対して、受講した学生がメディアの仕組みや取材、記事の書き方について学び、3グループに分かれて実際に独自記事を作成しました。今回、紹介する記事は6月7日に行われた最終発表会で最優秀賞を獲得したグループのものです。他のグループの作品も順次、掲載します。なお、文章表現の一部などはカレッジカフェ編集部で修正しています。

2班「くまの部」 後列左から乙出裕美子 小梶敏幸 浦野七虹 岩崎好美 原口虹架 橋本和磨

 導入から10年以上が経過し、誰もが知るまでになったふるさと納税。様々な返礼品によって高い人気を集めている。しかし、社会人に比べて学生にとっては遠い存在だろう。そこで今回、私たちは若者とふるさと納税の関わりにスポットを当ててみた。

「官製通販」化するふるさと納税

 まず今年5月中旬に、北海道大学から琉球大学まで計100人の大学生を対象に、ふるさと納税についてアンケート調査を実施した。その結果、大学生のおよそ95%がふるさと納税を知っていることが明らかとなった。70%以上の大学生が、実際に納税したことはないものの、ふるさと納税には興味を持っているというやや意外な結果となった。また、ふるさと納税のイメージについて尋ねたところ、「支払った分だけ特産品がもらえる」「返礼品がいろいろあって楽しそう」など、寄付というふるさと納税の本来の趣旨からはずれた回答が多かった。

 本来のふるさと納税は、単に返礼品目当ての寄付行為だけを、いわば「官製通販」のようなものを指すわけではないはずだ。そこで「返礼品を渡さないふるさと納税」を実施している自治体を取材してみた。

ふるさと納税で高校生に海外留学を

 ブルーベリー、リフト券、キャンプ体験。これらはすべて、長野県白馬村が用意している返礼品だ。八方尾根スキー場などスキーリゾートで知られる白馬村では、特産物や観光資源の宣伝も兼ねたこれらの品がふるさと納税で大変人気になっている。一方で、同村では返礼品を一切設けず、いわばクラウドファンディングのような形で、ふるさと納税を募る活動も行っている。

ニュージーランド語学研修に参加した白馬高校の生徒と研修先の皆さん(白馬村提供)

 村にある県立白馬高校では、海外からのスキー客など外国人観光客が増加している村の状況を踏まえ、2016年4月に国際観光学科を開設した。いわゆるグローバル人材を育成する目的だ。多様な留学プログラムを備えていることから、白馬高校には長野県以外の全国から生徒が集まる。その数は新学科設立1年目に13人、2年目には15人に増えた。しかし、海外志向のある生徒を受け入れたからといって、すぐにグローバル人材を育成できるとは限らない。実際に留学をしようと思っても、渡航費用を用意することができずに断念する生徒がいるというのだ。そこで、白馬村は自らが主体となり、彼らを応援するクラウドファンディング型ふるさと納税を設けた。

 この取り組みでは400万円以上の寄付を集め、2018年3月には初のニュージーランドへの語学研修を成功させている。こんなふるさと納税にはどのような人が参加しているのだろうか。白馬村役場総務課の渡邉宏太さんによると、納税者の半分を占めるのは白馬村に興味を持ってというより、高校生の留学という使い道に共感した人だという。「よくあるふるさと納税は返礼品をPRするが、うちは使い道で勝負をするのです」と渡邉さんは強調していた。

 一見、成功しているように見える白馬村のふるさと納税だが、現実的には集まってくる金額の9割以上が、やはり返礼品目当てであるという。渡邉さんは「ふるさと納税は『もののつながり』というよりも『心のつながり』であると強調していきたい」と語ってくれた。ふるさと納税はいつまでもお礼の品次第というわけにはいかないのだろう。

知られざる「都会のふるさと」への納税

杉並区の区民生活部管理課と保健福祉部児童青少年課に取材した

 地方で行われているイメージの強いふるさと納税だが、実は東京都内でも行われている。その一例が杉並区だ。ふるさと納税は、返礼品を通して地方の名産品や自然などをPRするのに効果的である。しかし、都市部のふるさと納税は、そういった返礼品以外で差別化を図らなければならないこともある。私たちが取材をした杉並区は、直接の返礼品を一切設けていない。その代わりに区を応援してくれたお礼として、区民の生活を支援する基金を設けることで、間接的に区民に還元される形をとっている。つまり、ふるさと納税が区民の生活に様々な形で役立っているのだ。

 具体的な使い道としては、自然体験交流や緑化活動、高齢者や障害者の福祉施設の改修などが挙げられる。区民生活部管理課ふるさと納税担当の増田賢二さんは「ふるさと納税が始まって10年もたつと、運用の仕方もかなり変わって単なる返礼品競争のようになってしまった。杉並区はふるさと納税を本来のあるべき姿に戻したいと考えている」と語ってくれた。

 一方で、杉並区は都市部ならではの弊害も抱えている。2017年度のデータをみると、ふるさと納税によって区に寄贈された金額は約440万円であったのに対し、区以外へのふるさと納税などで流出した区民税は約14億円にものぼるという。同区保健福祉部児童青少年課の石田幸男さんは、「区のために使われるはずの資金が14億円も失われているということは、言い換えればこの金額だけ区民サービスの低下につながってしまう。区民の皆さんに本当にそれで良いのかもう一度考えてほしい」と訴えた。

 しかし、データを見るとうれしいこともわかると石田さんは言う。同年度に寄付をした納税者の半数以上は、以前も杉並区にふるさと納税したことのある「リピーター」だったのだ。寄付文化は確実に根付き始めている。杉並区の未来につながる取り組みが、人や街をも繋げているのだ。

寄付で心をつなげ、「地元」を応援しよう

 皆さんもふるさと納税について興味はあるものの、単なる「通販サイト」のように考えていることが多かったのではないだろうか。私たちも大学を卒業すれば大人と同じように働き、税金を納めるようになる。ふるさと納税は本来、「地元」を応援したいという思いから行われる寄付である。納税者になる前に、ふるさと納税をより深く理解し、今後のかかわり方を考えてみるべきではないだろうか。