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挑戦し続ける人(4)日産自動車 東郷茉莉さん
「学生のうちに、好奇心をもって社会をよく見て」

挑戦し続ける人(4) 日産自動車 東郷茉莉さん「学生のうちに、好奇心をもって社会をよく見て」
構成・撮影:古屋美枝
authored by 中野智哉株式会社i-plug代表取締役社長

 第4回は、日産自動車に入社後、通算9年間人事部でキャリアを積んでいる東郷茉莉さん。入社8年目で「現場を見て、人事としてもっと適切なサポートをしたい」と感じ、自ら希望して2年間、営業の現場に異動したという異色の経歴の持ち主です。東郷さんを常に突き動かす、好奇心はどこで育まれたのか。海外で過ごした小学生時代から、現在の思いまでを聞いてみました。

ルールにとらわれず、新しいことにチャレンジする性格が点数に

東郷茉莉(とうごう・まり) 日産自動車株式会社 日本タレントマネジメント部 主担(採用・育成)。神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。父親の転勤で、小学校3年生からイギリスで2年間、5年生からは南アフリカで2年間過ごす。2007年に日産自動車入社後、すぐに人事部に配属。入社8年目に国内のマーケティング部を希望して異動した後、2017年4月に再び人事部へ

――東郷さんの適性検査の結果ですが、すべての項目が高い数値を示しているのに、規律性だけがすごく低いというのがとても印象的でした。

偏差値30くらいということですね(笑)

――東郷さんのような方は、主体的であり、アグレッシブなところがかなり強い傾向です。そして柔軟性が高いので、意見の違いや立場の違いを理解する力に長けておられますね。小学生時代を海外で過ごしたことや、部署異動をされたことも関係しているのではないかと推測します。

 確かに、そうかもしれないと思うところはありますね。組織にはいろんな人がいて、文化も違えば考え方もそれぞれ違う。その違いが面白いと思いながら仕事をしていますね。一方で、いつも自分自身が楽しめるようなことをしていたいという気持ちがあったな、と振り返って思います。

――エモーショナル特性というのが心の中にある情熱の指数のようなものなのですが、こちらもほぼ満点。思いが強く、ワクワクするようなことに気持ちを動かされるなど、とてもエネルギッシュな方なのだろうというのが点数に出ています。子どもの頃はどんな性格だったんですか?


 もともとの性格はとても飽きっぽくて、ずっと同じことをしていることに堪えられないのです。子どもの頃は、父親の仕事の都合で南アフリカに2年間住んでいた経験があります。自然がとても豊かで、草原に行くと野生動物が普通に見られたんです。「動物園で見たやつがいる!」とか言って、本を見て動物の名前を調べて、それを親戚に言ったりする、そのプロセスが楽しくて。その頃は、ジャーナリストとかミステリーハンターになりたいと思っていましたね。

――それはいつ頃のお話ですか?

 1994年、私が小学校5年生のときです。ちょうどネルソン・マンデラが大統領になった時期だったので、国がカオス状態で。人種差別もまだたくさんありましたし...。そういう面では、カルチャーショックがかなりありましたね。

――小学校5年生だと、人格形成にとても影響を受けそうな時期ですよね。

 インターナショナルスクールに通っていたのですが、友だち同士で白人と黒人が差別し合うのがすごくショックでしたね。学校で何かが無くなった、というときも先生が黒人の子たちだけを呼んで責めたりとか...。

――中学から日本に戻られたのですか?

 はい。中高一貫校に通って、6年間、部活のバトントワリングに没頭していました。朝昼晩、ずっと練習していましたね。バトンの技術を磨き、アクロバットを練習し、大会前はチーム全員で一糸乱れぬ動きをする。毎年全国大会を目指していたので、本当に大変でした。

――バトントワリングって、かなり高め合う力が求められる競技ですよね。

 そうですね。大勢で統一した動きをするので、お互いへの関心や、共感力はバトントワリングで培ったように思います。

――そして大学は慶應義塾大学の法学部政治学科に入学されたのですね。

 もっと社会のことを知りたいという思いがあって、幅広く学べるという理由で希望しました。大学時代は、それはもう自由にやりたいことをやりましたね。中高はずっと部活動で目標があり、情熱を注げたので良かったのですが、一方で視野が狭かったな、という思いがありまして。大学に入ってからは、バックパックでヨーロッパ旅行をしたり、いろいろなアルバイトをしました。

――アルバイトというのは?

 パン屋、飲食店、塾講師、テレビ局、ホテル...。法律事務所でも働きました。裁判所で傍聴したり。法学部だったので、学校でいろいろ教えてくれるんですけど、実際に見てみないと記憶に残らないですよね。アルバイトで裁判を見られるなんて、おもしろそう、と思って始めました。

――自分の目で見に行きたい、という欲求が強いのですね。

 そうですね。聞くだけでは感動はそんなに大きくないし、自分で見て実感したい、と思ってしまうんです。実際に見たときに、思った通りだったとか、思った以上だったとか、それを発見したときの感覚が好きなのだと思います。

新しいチャレンジをしてみたいという思いで、日産自動車へ

――その後、日産自動車に入社されるというのが、今までの流れからいくと、ちょっと唐突な感じがするのですが。

 就職活動をするときの軸は、自分が飽きずにいろいろな発見をしながらできる仕事、ということでした。そんな中で「意外と自動車っておもしろいかも」と思ったのは、たまたま聞きに行った日産自動車の説明会で、同じ形をした車が名前を変えていろいろな国で売っています、という話を聞いたときなんです。各国、いろいろな人が住んでいて、それぞれ違う生活形態をしているのに、同じ車が根付くなんて、どういうコミュニケーションをしたらそうなるんだろう、って興味が湧いてきて。きっとそこにはすごい仕組みがあって、各国の人の生活を豊かにするようになっているのだろう、と思ったのが自動車業界との出会いですね。それを自分の目で見てみたかったというのと、私の強みをうまく生かし、もっと新しいところに市場を開拓するなど、そんなことにチャレンジしてみたいなと思いました。

――実際に会社に入ってみて、どうでしたか?

 入社してまず人事部に配属されたのですが、そこで私は世の中の半分くらいのことしか知らなかったのだな、と思い知りました。人の人生にはいろいろなステージがあって、そうした人たちが活躍することで、世の中やビジネスが成り立っていることを人事の立場から知った、という感じですね。

――人事部に8年在籍した後、国内のマーケティング本部に異動されたというのも、おもしろい流れですね。

 そうですね。人事って、専門性が求められる仕事なので、大体の人は人事畑でキャリアを積む人が多いんですけど。人事の先には現場がありますよね。その現場で何が起きているか自分自身がわからないということに、限界を感じて。たとえば、従業員にいろいろな育成プログラムを提供したり、役員へ提案するんですけど、それが正解なのかどうかは、現場を知らないとわからない。

――知りたくなってしまったんですね。

 そうなんです(笑)

――そして人事に戻ってこられて、考え方が変わったところはありますか?

 まったく変わりましたね。どれだけ今までの自分が車を一台売ることの大変さとかを知らないかという、ギャップを理解できたのがまず大きかったと思います。そして、営業の中でもどんな人が実際に活躍しているのかもわかりましたし。2年間やっている中で、マーケットの変化のスピードはものすごく早いことを知りました。ちゃんと変化に対応できる人を採用しなければいけない。そういった危機感を持つことができたのはこれまでになかったことで、会社に対する見方が大きく変わったかなと思います。

自分の目で現場を見に行く労力を惜しまないで

――では最後に学生の皆さんに向けて、今だからこそやってみたほうがいいというようなことを教えてください。

 やはり、社会をよく見るということをしてもらいたいと思います。ときには思ってもみないものを見たりするけれど、それが世の中です。現実を理解せずに、社会人として「これやりたい、あれやりたい」と言っても、絶対にギャップが出てきます。狭い視野で社会人になってしまうと、企業から求められる人材にもなれません。せっかく大学生活4年間、大人に向けての時間があるので、いろいろなことを勉強しながら、社会勉強として実際に現場に足を運んでみるとか、そういうところで大人に向けての準備をちゃんとしてもらいたいな、と思います。

――好奇心はどうすれば培うことができるのでしょうか。

 たまたま何かのきっかけで、おもしろいことを発見できたときから、もっとこうしてみたい、という好奇心のサイクルができると思います。どこかで何か一つゴールを見つけて、そこに向かって突き進むと、新たな発見は絶対に出てくるものだと思います。それによって、自分自身も豊かになります。せっかく大学生活は4年あるので、行動しておもしろいことを発見し、視野の広い社会人になってほしいです。