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日本経済新聞「未来面」
三井E&Sホールディングス社長へ提案
「海中にオフィス 楽しく快適に仕事」

日本経済新聞「未来面」 三井E&Sホールディングス社長へ提案「海中にオフィス 楽しく快適に仕事」

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。今回は三井E&Sホールディングス社長・田中孝雄さんからの「海は社会や生活をどのように変えてくれる?」という課題について、学生の皆さんから多数の投稿をいただきました。

【課題編】 海は社会や生活をどのように変えてくれる?

田中孝雄・三井E&Sホールディングス社長

 海を眺めていて、いつも思うことがあります。それは「海には様々な可能性がある」ということです。風や海流は再生可能エネルギーですし、大海を泳ぎ回る魚は良質なたんぱく源になります。深海の過酷な条件でも多くの生物は存在していて、その生命力や構造の解明は緒に就いたばかりです。

 まだ私たち人類の目に触れていない生物もたくさんいるはずでしょう。海底に眠っている地下資源も利活用が期待されます。水圧や海水温は計り知れないエネルギー源にもなります。

 仮に地上で住めなくなったら、宇宙に脱出するよりも海中で生活する施設を造ったほうが現実的かもしれません。水面は重力のおかげで真っ平らです。時折、海は荒れることがありますが、海路は陸の道路や鉄道と違って自由に描ける利点があります。

 海は場所によって色が違います。地中海は息をのむような紺碧(こんぺき)ですし、日本でも太平洋側と日本海側でも違います。緯度によってもそうです。空の色や雲によっても海の色は変わります。

 ある日、こんなことを思いました。「海をもっと可視化できないだろうか」と。海が持っている可能性を可視化できればもっといろんな世界が見えてくるはずです。私たちは海についてもっと深く考えてもいいと思います。

 そんな海に関わる事業を展開している我が社はこの春、三井造船から三井E&Sホールディングスに社名を変更しました。E&Sの意味するところは「Engineering(エンジニアリング)&Shipbuilding(造船)」ですが、Eには「Environment・Energy(環境・エネルギー)」、Sには「Social Infrastructure(社会・産業インフラ)」、「Solution(問題解決)」の意味も込めています。

 E&Sは可視化された海の潜在能力を引き出すことにお役に立てると確信しています。

 もう一つ、海は癒(いや)しも与えてくれます。海原を見続けているだけでも幸せな空間を味わうことができます。私たちは物質的な豊かさを享受してきましたが、もっとゆったりとした時間を過ごすことをどこかに置いてきてしまったのではないでしょうか。海という自然と共生するワークライフバランスの在り方を考えてみることも、有意義かもしれません。

 そこで読者の皆さんにお願いです。「海は私たちの社会や生活をどのように変えてくれるのか」について考えていただきたいのです。経済、環境、人生観など海を通してどう考えればいいのか。

 難しいテーマかもしれませんが、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。皆さんのアイデアをお待ちしています。
(日本経済新聞2018年6月4日付)

◇    ◇

【アイデア編】

アイデア001 海中にオフィス 楽しく快適に仕事く
寺本 清香(早稲田大学社会科学部2年、19歳)

 満員電車ではなく、潜水艦に乗ったり海中散歩を楽しんだりして、海の中のオフィスに出勤する。広々としたスペースで、海底に降り注ぐ光を感じ、暗くなったら帰宅する。昼食には新鮮な海鮮料理。美しく、理想の働き方ではないだろうか。
企業のオフィスが集中している東京では地価が上昇している。サラリーマンにとっても、経営者にとっても苦しい。労働環境は厳しく、結果としてパフォーマンスが下がってしまうのは企業、さらに日本経済にとって損失だ。いま、オンラインで完結できる仕事はたくさんあり、会議はビデオチャットで済ませられる。未来のオフィスに求められるものはエンターテインメント性だろう。わざわざ一か所に人が集まって仕事をするには、個々人が最大限の能力を発揮し、創造性が育まれるようなオフィスでなければ意味がない。
都会の喧騒から離れ、美しく刺激的なオフィスでの新しい働き方を私は提案したい。

アイデア002 ストレス癒やす リラックス施設を
古沢 侑夏(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、19歳)

 日々の生活に疲れた社会人や学生がリラックスできるリラクゼーション施設を、海中に作ってはどうか。人々の生活をより充実度の高いものに変えていけると思う。
海の中という空間は私たちにとって、非現実的な場所だ。普段長く滞在することのない水中で時間を過ごすことによって、現実を忘れることができる。リラクゼーション施設には心理カウンセラーを常駐させたい。非現実的な空間に相談できる場所をつくることで、もっと多くの人が気軽に自分の悩みを解決することのできる機会が増えるのではないか。
現代の生活では、ストレスを抱えて生きている人が多くいる。中には自ら命を絶ってしまう人もいる。地上で働き方を変えること以外にも、何かできるのではないか。海中リラクゼーションはひとつの避難所になり、少しでも命を大事にする人を増やすことに貢献できればいい。

アイデア003 生態系サービス 壊さずに次世代へ
西野 夏希(大阪大学法学部3年、20歳)

 海には多くの生物が生きており、私たちはそのことから様々な恵みを受けとっている。恵みは生態系サービスと呼ばれていて、そのなかには(1)食料や遺伝資源の供給サービス、(2)気候の安定化や水質浄化といった調整サービス、(3)海水浴などレクリエーション機能や精神的恩恵をもたらす文化的サービス、(4)栄養塩の循環や光合成を指す基盤サービスがある。
どれをとっても、私たちが積極的に海を守っていかなければ受けられない恩恵だ。供給サービスがわかりやすい。魚や貝など食料は無尽蔵に存在しないため、海を汚染したり乱獲したりするとそのぶん、恵みは減ってしまう。
海は、地球上で長い時間をかけて育まれてきた。人間がつくることはできない。絶妙なバランスで保たれ、つねに変化している命の世界。私たちには、海のサービスに感謝し、むやみに壊すことなく未来の世代へつなぐことが求められている。

【講評】田中孝雄・三井E&Sホールディングス社長

 読者の皆さんからいただいた「海」に関するアイデアは、鉱物資源の採掘などのようにビジネスの世界で描くイメージとは異なり、癒やしとか心の安らぎのようなより人間的に暮らすための基盤としてのアイデアにあふれていました。それは海の可能性がさらに広く、深いものであることを再認識させてくれた素晴らしい内容でした。しかも未来の社会を担う10代、20代の若い方々がこの課題に向き合って、関心を寄せていただいたことも心強く感じました。本当にありがとうございます。

 アイデアはいくつかに分類できました。非日常の生活、生態系の維持保全への提案、陸上をはるかに上回る海洋面積の活用、海上・海中での定住などです。

 「海中オフィス」は竜宮城のような職場をイメージしたものだと解釈しました。まだ社会に出ていない学生さんが働く場所について斬新なアイデアを寄せてくださったのには驚きましたね。職場の環境整備の大切さを教えてもらった気がします。

 「海からの4つのサービス」は海洋との共生を軸に海の可能性をコンパクトにまとめてあり、大変面白く読めました。持続的な社会の構築に幅広い視点からのアプローチは複雑化する社会問題を解決する一助にもなるでしょう。

 「海中リラクゼーション」は新しいライフスタイルを実現する提案と読みました。逆に言うと私たちがつくってきた今の社会が若い人たちには異質なものと映っているのかもしれません。勉強になりました。

 電子版に載せたアイデアの中には、移動可能な浮体構造を使った恒久的な施設の建設の提案があり、我が社もお手伝いできるかもしれません。

 これから北半球は夏を迎えます。海辺を散策するなど海を身近に感じる季節です。改めて海の可能性と向き合って、これからの未来を思い描いてみたいと思います。

(日本経済新聞2018年6月25日付)

【「未来面」からの課題】
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