日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

池上彰の大岡山通信 若者たちへ経済学を楽しむ(上) ―市場を分析 人間が見えた

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 経済学を楽しむ(上) ―市場を分析 人間が見えた
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 私は大学の講義で経済学の視点を取り上げることがあります。読者のなかにも、経済学部の新入生や、経済学部進学を考えている高校生もいるかもしれませんね。そこで今回と次回は「経済学を楽しむ」というテーマでお話ししましょう。

◇ ◇ ◇

 経済学の役割を私なりに整理すれば「資源の最適配分を考える学問」といえるでしょう。地球上の多くの資源には限りがあります。その最適配分を考え、いかに最大の効果を得るのか考え抜く学問です。日本のように資源がなく、人口が減り始めている国では、学校で学び、社会へ出る若者たちも貴重な資源です。

「人間の心理や行動を理解すれば経済学を学ぶ楽しさが広がる」と語る池上教授(東工大大岡山キャンパス)

 学ぶ際には4つのポイントを身につけることが大切です。まず「世の中を分析する力」です。お金の動きや取引の仕組みなど、現実の世の中を知る力のことです。

 次に「課題を見つける力」です。日本は豊かな国になりましたが、最近は格差や子どもの貧困といった問題点が指摘されるようになりました。

 そして「課題の解決へ提案する力」。経済や社会が直面する課題を考え、学問的に解決する方法を打ち立てることが必要です。そもそも経済学はお金持ちになるための学問ではありません。

 最後は「人間を知る力」。たとえば「なぜこの商品が売れるのか」「消費者を効率的に誘導する陳列方法には法則があるか」など経済学は理論だけでなく、最近は人間の心理や欲も対象に分析する学問でもあるのです。

 たとえば需要と供給が一致するのは市場に「見えざる手」が働いているからだと聞いたことはありませんか。『国富論』で有名な古典派経済学のA・スミスの言葉です。

 実際には、同じ種類の商品であっても、コンビニやスーパーなど事業者によって価格が異なる場合があります。消費者は少しでも安い店を選ぶでしょう。売れ残ることもあるでしょう。企業の厳しい価格競争や努力を学ぶきっかけになります。

 かつては資源のムダを無くし、労働者が平等に働く仕組みも考えられました。ソ連という社会主義国があった時代には、商品を必要な量だけ計画的に生産していました。ところが売れ残ってしまう場合もあったのです。

 これは、消費者がほしいと思えなかったからだといわれています。「おいしいパンを」「ステキな洋服を」。消費者が商品を買う際の判断は、国の体制は関係ないのですね。ソ連は様々な経済の課題を抱え、結局、崩壊してしまいました。

 私たちにも身近な研究テーマがあります。うな丼のメニューから、少し高い方を選んだ経験はありませんか。人気ブランドの時計がほしくて「この値段なら」と手が届く範囲で妥協したことがあるかもしれません。人間の行動や心理というのは実に興味深いものです。

◇ ◇ ◇

 世界史を振り返れば、国家や人間は貧困や恐慌というリスクと向かい合ってきました。経済学者らはそうしたリスクの解決のために経済理論を築きました。豊かな暮らしを実現する、時代の"処方箋"だったのです。

 経済学部の志願者数は景気の動向によって左右されます。これも「需要と供給」の関係でしょうか。少子高齢社会を迎え、新たな日本を築く時代の処方箋が求められています。チャレンジしてみませんか。

 次回は「現代史の視点を大切に」というテーマでお話しします。

[日本経済新聞朝刊2018年6月25日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>

池上彰のマンガでわかる経済学〈1〉 経済のしくみ

著者 : 池上 彰
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,404円 (税込み)

この書籍を購入する(ヘルプ):Amazon.co.jp楽天ブックス