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池上彰の大岡山通信 若者たちへ経済学を楽しむ(下) ―現代史の視点を大切に

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 経済学を楽しむ(下) ―現代史の視点を大切に
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 今回も身近な話題をもとに経済学の楽しみ方を考えます。前回、経済学の役割は豊かな時代を実現する"処方箋"をつくることとたとえました。時代は経済情勢や技術革新によって大きく移り変わります。ときには現代史の視点からとらえなおすことも大切です。

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 就職して30年ほど経(た)ったころ、大学の同窓会に参加しました。懐かしさを覚えつつ、名刺を交換しながらふと気づきました。銀行に就職した同窓生の大半が、異なる会社の名刺を持っていたのです。

イギリスのEU離脱決定を知らせる号外を受け取る市民たち(16年、ロンドン)

 日本の金融機関といえば、バブル崩壊後、統合や経営破綻が相次ぎ、社名が変わりました。私が学生だったころには「銀行がつぶれる」ことは考えてもみませんでした。

 時代は移りました。いま、金融界では金融とIT(情報技術)を組み合わせるフィンテックが注目されています。先端ITを駆使し、新しいサービスの開発や業務改革などでしのぎを削ります。変化の波に乗り、市場をリードできるかどうかが勝負の分かれ目です。

 「あり得ないと考えていたことが起こる」。日本経済の歩みのなかで振り返れば驚くようなできごとではありません。20~30年という単位で、産業の主役企業が交代することがあるからです。

 突然、変化の波が押し寄せることもあります。第2次大戦後を振り返れば、東西冷戦の終結とソ連の崩壊という歴史的なできごとがありました。当時、「資本主義が社会主義に勝った」といわれたほどです。

 果たしてそう言い切れるのでしょうか。一部の富裕層が富を独占する「格差」の問題や、「貧困」といった課題がクローズアップされています。

 フランスの経済学者トマ・ピケティ氏も格差に注目しました。私もインタビューしたことがあります。著書『21世紀の資本』で、膨大なデータを分析し、資本主義が格差を拡大することを実証したのです。その手法には賛否両論ありますが意欲的な分析です。

 さらに冷戦後、資本主義と社会主義を隔てていた壁が崩れたことで、モノやカネが自由に移動する経済のグローバル化が加速しました。一方、グローバル化の反作用といえる現象も起きています。欧米では、まさに「あり得ない」と思われたことが現実になりました。

◇ ◇ ◇

 たとえば欧州。欧州連合(EU)に加盟する旧東欧圏の労働者が、旧西欧圏の加盟国で低賃金の仕事を獲得していきました。なかでも大きな影響を受けた英国では、人々がEUからの離脱を決断してしまいました。

 米国では、海外製品との競合で鉄鋼や自動車の工場労働者が職を失いました。中西部に多いようです。いわゆる「忘れられた人々」です。トランプ大統領はこうした人々に耳を傾けたことで、支持を得て当選を果たしたといえるでしょう。

 もちろん経済学の理論をしっかり学ぶことも大切です。その上で、日本や世界の経済が私たちの働き方や暮らしにどんな影響を及ぼすのかという大きなテーマを考えてみてください。

 日本は人口減少が始まっています。広い視野で時代の変化の波を見極める訓練をしておけば、就職先を選んだり、働き始めたりしてからでも大いに役立つでしょう。ぜひ、経済学の視点を学び、日本経済の可能性を高める若者らしいアイデアを生み出してください。

[日本経済新聞朝刊2018年7月2日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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