入社までに準備しておくこと~「初心」ノートに…差がつく3つの心がけ
人事部の視点(13)
私は高知大学特任教授の中澤二朗です。長年、企業人事をつとめ、本年度からは中央大学で「働くこと原論」という講座を持っています。
今回は、就活が終わった方むけに、入社までに何をしておけばいいのかについてお話します。むろん優先すべきは学業です。しかし、それ以外にも、次の3点を心がけてみてはいかがでしょうか。
「初心」書き留めノート
「初心、忘るべからず」という言葉があります。なぜでしょう。
時が経つと、誰もが忘れてしまうからです。だから忘れないように、先人が、格言として残してくれています(私の勝手解釈)。
では、初心は、どうして大事なのでしょう。誰もが、二度や三度は必ず、人生の岐路に立たされます。仕事で板ばさみになる。人間不信に陥る。これからどう生きたらいいのか、分からなくなる。そんな時に、ふと「我れ」に返らせてくれるのが初心です。
とはいえ、その必要な時に思い出せなければ、役には立ちません。そこでお勧めしたいのは、卒業までの間にそれを書き留めておくことです。
○会社に入ったら、こんなことをしたい。反対に、こんなことはしたくない。なぜならば...
○社会に出たら、こんな人になりたい。逆に、こんな人にはなりたくない。なぜならば...
○初めに、こういうものを身につけたい。その後は、あんなことを経験したい。なぜならば...
そうして思いつくままに「ノート」に書きなぐる。そこに、憧れの人のエピソードを書き写したり、写真を貼っておくのもいいでしょう。また、いつかは仕事以外で取り組みたいテーマがあれば、その関連記事をスクラップして、はさんでおくのもありです。
5年後、10年後。いや20年後、30年後。そんな「初心」ノートが、きっと、あなたを救います。あるいは、それを、偉くなったら若い人に、子どもができたら子どもに、是非話して上げて下さい。下手なお説教より、きっと効き目があること請け合いです。
そのためには、是非それを「今日から」書き始めることをお勧めします。ちなみに、私自身も、そんな「初心ノート」を卒業前に作りました。今では門外不出の宝です。
「死んだ人」に耳を傾ける癖づけ
仕事を進めるには、常に自分の考えが求められます。企業とは、言うまでもなく、"業を企てる"こと。であれば、アイデアをひねり出せない人は、存在価値を疑われます。にもかかわらず、「生きている人」の話だけを聞いて済ませる人がいるのは困ったものです。「生きている人」の数は、たかがしれています。その評価が定まっていなければ、素直に受け止めるわけにもいきません。
では、どうするか。「死んだ人」の声に耳を傾けることです。図書館に行って、あるいは本屋に足を運んで、4000年の"知の遺産"をたずねることです。そんな「死んだ人」の話を聞く癖づけ、すなわち「読書癖」を、時間のある卒業前にぜひ身に着けてほしいと願っています。
具体的には、先ずは、面白そうな薄い小説から始めるといいでしょう。そのあと徐々にページ数を増やし、読むのが苦にならなくなる。いや、もっと読みたくなる「リーディング・ハイ」にまで進めるとしめたものです。それを今日から始める。そして1カ月、2カ月、3カ月とリーディング・マラソンを続ける。すると、きっとあなたも「死んだ人」の力を借りる癖づけができるはずです。
知は力です。知恵は未来を照らします。そして、知ること、学ぶことは人生を豊かにします。あなたが"弱い人"であればあるほど、そんな「死んだ人」を味方につける癖づけが求められます。そうした癖づけを、卒業までの間に身に着けてみてはいかがでしょうか。
「どうせ」「しょせん」の封印
"キャリアの8割は偶然で決まる"と言われています(米国・スタンフォード大学、クランボルツ教授)。
ただ、偶然には「良い偶然」と「悪い偶然」があります。どちらを引き入れるかによって、その後の人生は大きく変わります。では、前者を引き寄せ、後者を退けるには、どうすればいいのでしょう。私が勧めるのは、「どうせ」や「しょせん」という言葉づかいの封印です。こうした言葉をきくと、誰もがやる気を失くします。そればかりか、二度と声をかけてくれなくなります。声をかけてくれなければ、「良い偶然」に出合う可能性が間違いなく低くなります。
では、どうするか。例えば、日頃、こんなことを心がけたら良いと思います。
○誘われたら、よほどのことがない限り、断らない
○気が乗らないときほど、あえて「うん」と言って、付き従ってしまう
○むろん「どうせ」「しょせん」は封印する。そうした素振りを見せないように努める
○そのためには、"真面目に、良い加減"に日々を生きることも大事なように思います(ここは私流)
以上、3つ。だまされたと思って、先ずは3日だけでもやってみて下さい。止めるかどうかは、3日たってから考えるようにしてみて下さい。
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