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映画業界への一歩はショートフィルムから
~「シン・ゴジラ」の監督から学んだこと

映画業界への一歩はショートフィルムから~「シン・ゴジラ」の監督から学んだこと

 はじめまして。津田塾大学学芸学部国際関係学科3年の小坂けいとと申します。映像業界に興味があるが、具体的にどんな進路があるのか、将来性はあるのか、そんな風に考えている学生の方も多いのではないでしょうか。私も映像業界に触れたいという想いで、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアで約半年のインターンとして働いてみました。今回はインターンを通して初めてわかったこと、感じたことを読者の皆さんと共有できればと思います。

ショートフィルムは若手クリエイターの登竜門

 2018年6月の開催で20周年を迎えたショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)は、130以上の国と地域から1万本以上の作品が集まる国際短編映画祭です。特徴は米国アカデミー賞の公認映画祭となっていることで、グランプリの「ジョージ・ルーカス アワード」を受賞した作品は米国アカデミー賞のノミネート選考に加わることができます。今は長編の監督として活躍されている方でも、キャリアのスタートは短編(ショートフィルム)という方も多く、この映画祭が世界で活躍する映画作家になるための登竜門になっています。

 SSFF & ASIA史上、日本人女性で初めてグランプリを受賞した監督がハリウッドで長編デビューを飾ったり、2016年の映画祭でグランプリを受賞した監督が翌年のアカデミー賞短編部門でオスカーを獲得したり、そのほかにもショートフィルムをきっかけに長編映画を監督することになったフィルムメイカー、アーティストのミュージックビデオやCM監督のオファーが来るようになったクリエイターなど、ショートフィルムから羽ばたいて活躍する監督が続々と登場しています。まさに、ショートフィルムは映像業界への第一歩、夢への第一歩なのです。

新設・学生部門!受賞作はゴキブリ??

新設された学生部門 supported by フェローズ の受賞作「COCKROACH」の監督を務めた金賢奎さん

 SSFF & ASIAには複数の部門があるのですが、今年新たにスタートした「学生部門」では、全国11拠点でクリエイターマネジメントサービスを展開する株式会社フェローズが協賛し、日本国内の学校に通う学生から5分以内のショートフィルムを公募しました。その結果、全国から203点の個性的な作品が揃い、14作品がノミネート作品として映画祭で上映されました。

 映像作家の登竜門とされるSSFF & ASIAにはこれまでも世界中の学生監督から応募がありましたが、クオリティの高い多数の応募作品が集まる選考を勝ち抜いて上映に選ばれるまでには、なかなか高いハードルがありました。学生部門は対象を学生に限定することで、企画力やアイディア力次第で、チャンスをつかむことができます。「学生が映像業界を目指すきっかけを作ると共に、将来有望な才能を早期に発掘し、映像文化の発展に繋げたい」というのが部門設立の趣旨です。

 記念すべき初年度の受賞作は「COCKROACH」。 監督を務めた金賢奎さんは1994年韓国に生まれ、韓国海軍の服務を終えて東放学園映画専門学校に入学、来春卒業予定です。中学生のころ映画「ショーシャンクの空に」を観て映画を作る事を目指しはじめたそうで、日本でワーキングホリデーに来た時に、東放学園映画専門学を知り進学、映画制作を始めたとのこと。



https://www.youtube.com/embed/frL8h74EM-I

 将来はCM会社のディレクターを目指す金さん。「会社に入る前にできるだけ多くの自主制作をする予定です。映像制作にいっぱい携わって経験を積んだ後に、各国で活躍できるようなグローバルディレクターになる事が夢です」と語ってくれました。

 作品の内容はショートフィルムらしい洗練されたワンシチュエーションコメディです。夜中に突然彼女から「早く来て!」と電話が入るシーンから始まる本作。行ってみると部屋にいたのはゴキブリと・・・?

 本編は8月17日(金)~19日(日)まで開催の SSFF & ASIA 2018 in YOKOHAMA にてご覧いただけます!

樋口監督が語る「学生だからできること」とは?

 映画祭期間中の6月17日(日)、渋谷のシダックス・カルチャーホールにて学生部門のノミネート作品上映と審査員からの講評がありました。今年の審査員は映画「シン・ゴジラ」監督の樋口真嗣さんと映画プロデューサーの伊藤伴雄さん。

審査員の樋口真嗣さんと伊藤伴雄さんのゲストトーク

 樋口監督が語った「映画を作る理由が、やりたくてやっているということは、気持ちとしてとても大事」という一言が印象に残りました。仕事として映画を作る前、学生だからこそピュアな心で好きなものを作りたいように作ることができるという意味です。樋口監督が学生監督たちに向ける眼は心なしかうらやましそうで、学生時代に映像を作ることの貴重さが感じられました。「何かアイデアが湧いたら映像でなくても、写真やメモ書き程度でも形に残して、ネタの引き出しをいっぱいにしておくことが未来の自分への貯金になるでしょう」とのアドバイスもありました。

 お二人が映画業界に入ったのはどちらも大学生にあたる年頃。樋口監督は映画を撮りたい気持ち以上に、撮影現場を見たいという気持ちから制作スタッフになり、今に至るそうです。ちなみにそのきっかけとなった作品は1984年の「ゴジラ」。後に「シン・ゴジラ」を制作されることを思うと、樋口監督の映画業界への一歩はとても運命的です。伊藤プロデューサーも学生の頃8ミリフィルムで映画を撮られていたとのことで、今回の応募作品のクオリティの高さにとても驚かれていました。

審査員に聞く、映画の今と未来

 イベントの中で、審査員は学生監督からの質問にも答えました。まず、「良い映画とは何か」という問いに対して「作品に込めた思いが観た人に伝わって、その人の感情を動かすことができる映画」と答えられました。制作側がどう思うかではなく観た人がどう思うかを第一に考えることが大切だということですね。SNSや動画サイトでの"いいね!"は、実は伝え手と受け手を結ぶ貴重な架け橋と捉えることもできるかもしれません。

 次に「これからの映画界がどうなるのか」という質問に対しては、「定額配信サービスなどひとつひとつの作品にお金を払うという行為が減ってきたことで、作品のどの側面が価値になるのか難しくなった」との意見。一方で、「作った作品を人に届ける方法はたくさんある時代。学生のうちにやっておくべきことは、たくさん作品を作って、観て、いろんなことに興味を持つこと」という励ましのメッセージもいただきました。お二人からは、「新しい世代に新たな価値を見出して欲しい」という想いも感じられました。

 ショートフィルムは長編への登竜門であるとともに、近年ではスマートフォンなどのデジタルデバイスとの相性の良さから、長編とは違う価値を持った映像表現として注目されています。企業やブランドがメッセージを伝える手法としてショートフィルムを製作するケースも増えてきましたし、長編で活躍する監督が表現手段としてショートフィルムを選択する機会も多くなっています。

 学生にとっては、短い期間で高額な制作費をかけずに挑戦できることも魅力です。ショートフィルムであれば、有名監督と同じ土俵に立って、「自分ならこんなメッセージを発信したい」とピュアな視点で表現することができます。それは、仕事に就く前の、学生の時にしかできないことでもあるかもしれません。

インターンとして映画祭に携わり、多くの映画人が危機感を覚えていることを感じた(20周年を記念し審査員や監督など多数のゲストが来場したGALAパーティー会場にて)

PRインターンとして感じた映像業界の未来

 インターンとして映画祭に携わって感じることは、"映画は映画館で観るもの"という概念が薄れつつある現代に対して、多くの映画人が危機感を覚えているということです。オウンドメディアでの取材でも様々な方々がこれからの映画の観せ方、映画業界について考える姿がありました。それはネガティブなものではなく、野外上映や応援上映などイベント化が進んでいることなど、観せるという点での映画の幅が広がっているのではないかと思います。

 テレビCMやミュージックビデオも短編映画として観ることができ、その形もまた幅広く変化しています。まずは一本作ってみる、一歩踏み出してみる。変わりゆく時だからこそ、様々な角度から映像業界への道は開けているのではないでしょうか。

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 ショートフィルムってどんなもの?見てみたい!という方には、無料で世界のショートフィルムが楽しめるオンラインシアターhttps://sst-online.jp/をチェックしてみてください。1作品10分程度の時間ですが、長編映画に勝る感動を味わえます。