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池上彰の大岡山通信 若者たちへ学び続ける意味(上) ―「知らない」に気づくため

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 学び続ける意味(上) ―「知らない」に気づくため
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 全国の大学生や高校生は夏季休暇の過ごし方を決めたころでしょうか。初めて海外へ出かける人、読書に挑戦する人、目標はそれぞれですがこれからの学びにつながる発見があるといいですね。そこで今回と次回は、私の取材経験を基に、学び続ける意味について一緒に考えてみましょう。

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 先日、パスポートを眺めていたら、取材などで84カ国・地域を訪れていたことがわかりました。100カ国・地域を超えるのはなかなか難しそうですが、実際に現地を歩いて改めて気づく様々な発見がありました。

 たとえば今年5月にイスラエルを訪れたときのこと。取材スタッフらとステーキレストランでのランチをして、アイスクリームを頼んだのです。すると店員から「アイスはありません。くだもののシャーベットならありますが」との説明がありました。

 そのときユダヤ教の戒律を思い出しました。ユダヤ教には「子やぎを、その母の乳で煮てはならない」という教えがあるからです。これは牛にもあてはまります。ステーキと乳製品のアイスクリームの組み合わせは厳禁。特に海外では気をつけたい基本的なマナーです。

 また、ユダヤ教では金曜日の日没から土曜日の日没まで安息日(シャバット)にあたります。この間、火をつけたり、電気のスイッチを入れたりすることも許されません。そこで現地のホテルやマンションには独特の設備があります。

 操作ボタンを押さなくても、自動運転で昇降する「シャバットエレベーター」があるのです。とてもゆっくり動きますが、すぐに慣れます。

 どのホテルにもシェルターが完備されていました。度重なる中東戦争の経験から、ミサイルが飛来してくる危機に備えているのです。

◇ ◇ ◇

大学生は自ら問いを立て、答えを見つけだしていかなければならない(東工大で講義する池上彰教授)

 こんなことを知ると、日本の読者や視聴者に伝えたくなります。私は子どものころ新聞記者を目指していました。結局、NHKに入りテレビ報道に携わることになりましたが、いまも発見したことを映像や活字で伝え続けることにやりがいを感じています。

 視聴者や読者にわかりやすく伝え続ける上で大切にしていることがあります。言葉の表現や映像の使い方を工夫することはもちろんですが、伝える側が専門家になったつもり、自分がわかったつもりに陥らないようにしていることです。

 ジャーナリストの基本というのは、常に事実には忠実でいなければならないということです。ニュースの現場に入り、関係者を含めてより多くの人々の声に耳を傾けなくてはなりません。それはテレビでも、新聞でも同じなのです。

 どんな仕事でもキャリアが長くなってくると、どうしても「知らない」とは言いにくくなるかもしれません。知らないことに出くわしたら、素直に質問をすればよいのです。自分自身が知らないということに気づくためにも、学び続けることが大事なのですね。

 大学の講義では、よく「諸君は生徒ではなく学生になった」と説明します。高校までは先生の解説をノートに筆記し、覚えればよかったでしょう。でも大学では自らの問いを立て、その答えを探し求めなくてはなりません。そこが大きな違いなのです。

 大学ではそれまでは知らなかった新しい世界や専門領域を知ることができるでしょう。その際、自分の「無知」を素直に受け入れられるかどうかが大きなポイントです。それは学校を出て、社会で働くようになってからも大切な姿勢です。

 ぜひ、試験だけではなく、自分の人生のために学び続ける力を育んでほしいと思います。人に出会い、新しい世界を知るために好奇心を抱き続けられれば、心の若さを保ち、人生を豊かに過ごすことができるはずです。

 次回は「学ぶことは人生の財産になる」というテーマを取り上げます。

[日本経済新聞朝刊2018年7月23日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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