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インドでMBA(9) フルタイム型と週末型
ビジネススクールどっちがいいの?

インドでMBA(9)  フルタイム型と週末型ビジネススクールどっちがいいの?
authored by 和泉沢剛

 現在私は日系企業の海外駐在員としてインドで働く傍ら、週末を利用してインドのIndian School of Business(以下ISB、インド商科大学院)というビジネススクールのMBAコースに通っております。

 MBAというと、純粋に学生としてビジネススクールに1~2年間通い学位を取得するフルタイムMBAが一般的ですが、私が現在通っているコースは仕事を継続しながら週末を利用して学位の取得を目指すExecutive MBA(以下 EMBA)と呼ばれるものです。ビジネススクールにもよりますが基本的にはフルタイムMBAであろうとEMBAであろうと学校側から授与される学位は"Master of Business Administration(M.B.A)"でどちらも変わらないところが多いかとは思いますが、厳密に言うとフルタイムMBAとEMBAではプログラムの履修期間と授業頻度、選択科目、クラスメイトの実務経験、担当する教授等がそれぞれ異なってきます。

 今回は私の経験も元に、MBAの学位取得を目指すに当たって、フルタイムMBAと比較した際のEMBAのメリットとデメリットについて書かせて頂こうと思います。

EMBAのメリット①:MBAでの学習 × ビジネスでの実践

ISBのEMBAには様々な業界において誰もが知るような超一流グローバル企業の経営層が顔を揃えている

 まず考えられるEMBAのメリットは、ビジネススクールで学んだ内容をすぐに実際の業務でも活かせる機会があるという点です。

 フルタイムMBAの場合は仕事を一旦辞めてからビジネススクールに通いはじめる方が多いと思いますので、最低でもビジネススクールでの履修期間を終えてから仕事に復帰するまでには1~2年間のギャップ期間が存在すると考えられます。一方でEMBAだと、週末にビジネススクールで学んだ内容を試そうと思えば翌週からでも実践で試す機会があります。実際に試してみることで、頭で覚えた"知識"を実践で使える"スキル"へと昇華できることに加え、学んだ内容を忘れることなく記憶へ定着させるといった効果も期待できるかと思います。

 昔、高校時代のテニス部の顧問である恩師に、「①わかる⇒②できる⇒③教えられる、といったステップでの成長を目指しなさい」というご指導を頂いたことがあるのですが、これはスポーツだけに留まらない教訓として10年以上経った今でも心がけるようにしています。

 私の場合はまだMBAで学ぶ内容が「わかる」レベルまで到達したばかりですが、そこから試行錯誤しながらも学んだ内容を実践してみて初めて「できる」レベルに到達できるのかと考えています。そして行く行くはこれまで学んできた知識を体系化してチームや部下に「教えられる」ようにまでなると、個人のMBAでの経験が組織全体の発展にも寄与できるようになるのではないかとも考えています。

 EMBAでは学んだ内容をすぐに実践で試すチャンスがあるので、この「わかる」から「できる」へのステップアップが比較的早く実現できるといったことも考えられると思います。

EMBAのメリット②:経営層との人脈形成 & 経験に基づいた質の高い討論

 既に実績を残し最前線で活躍している各業界の経営層との人脈が一気に広がるというのもEMBAの魅力です。ISBのEMBAには、起業家、医者や弁護士、政府や軍やNGOから来ている人まで本当に様々なバックグラウンドを持った学生達が集まっています。会社員についても、コンサルティング、金融、IT、メーカー、ヘルスケア等々、様々な業界において誰もが知るような超一流グローバル企業の幹部やマネージャー級が顔を揃えており、次のステップはDirectorやVice President、またはCXOといった経営層になる人材(または既になっている人材)が大半を占めています。私自身も、ISBのEMBAに通い始める前と比べると、今は各業界にアプローチできる人的ネットワークが劇的に広がったと実感しております。

 また、実務経験が豊富な学生が多いというのは、クラスでのディスカッションの質の担保にも繋がっています。ディスカッションが中心となるMBAにおいては周りの学生の質はとても重要で、これが個々人の学びに大きく影響してきます。EMBAの選考では"これまで何を成し遂げてきたか"といった過去の実績が評価の比重を占める傾向にあるため、EMBAのクラスには実務経験が豊かな学生が在籍していることが多いのが一般的です。

 彼らは既に職場で管理職の役割を担っているので、単なる想像ではなく実際に自分達が行っているマネジメントの経験や課題、携わったビジネスの具体的な実例をベースに質の高いディスカッションができるといった点もEMBAの大きなメリットの一つかと思います。

EMBAのメリット③:キャリアの継続と経済的な安定

 EMBAのメリットとして最も大きいのは、キャリアの中断をしなくていい点と仕事を継続できることで経済的にも比較的安定しているといった点かもしれません。

シンガポールのビジネススクール SMU(Singapore Management University)へのExchangeプログラムにて

 フルタイムMBAの場合、会社派遣や休職をしていない限りは今働いている会社を辞めてキャリアを一度中断するのが一般的かと思います。一方で、EMBAであればキャリアを中断するリスクを取らずにビジネススクールで学びMBAの学位を取得することができます。初回の連載でも書きましたが、私は元々フルタイムMBAを検討していたのですが、同じ時期に会社から海外駐在の話を頂きました。若いうちに海外でマネジメントの経験を積めるという経験も捨てがたく、結局フルタイムMBAではなく海外駐在の道を選んだわけですが、偶然タイミングよく新設されたISBのEMBAコースのおかげで、今は海外駐在と海外MBAの両方の経験を同時に積むことができています。

 また、私の場合はISBには全額私費で通っているのですが、それでも会社から給料をもらいながらその一部を学費に充てることができるのは経済的にはとても助かっています。海外MBAの学費は高額であることが多いので、安定的な収入が保障されているEMBAはフルタイムMBAと比べて経済的な負担が比較的少ないとも考えられます。

EMBAのデメリット①:仕事と勉強以外の時間確保は至難の業

 一方でEMBAにも当然デメリットはあります。EMBAでは社会人と学生の二足のわらじを履くことになるので、仕事と勉強以外の時間を確保するのは非常に難しくなります。実際のビジネス(=本業の仕事)を蔑ろにするわけにもいかないので、生活の中心はどうしても仕事と勉強の二つになってきます。娯楽の時間を削るのは自制心次第でなんとでもなりますが、一日の時間は限られている中で、仕事の時間や勉強の時間、家族と過ごす時間や睡眠時間のバランスを保つのはとても大変です。

 私が通っているEMBAコースでは、平日は朝~夜まで仕事、週末は朝~夜まで学校といった生活が続きますので、EMBAに通う期間中は週末に家族と過ごす時間を捻出するのは至難の業です。キャンパスでの授業は基本週末のみですが、平日も毎晩のようにグループワークがあるため、平日夜の時間を確保するのもそう簡単ではありません。

 講義の予習・復習、ケーススタディの読み込み、個人アサインメントの提出、試験勉強等の自習も全てグループワークが無い時間帯、つまり寝る時間を削ってこなすしかありません。生産性を上げて自ら時間を創り出す努力をしなければいけないのは当然ですが、やはりEMBAコースに通っている間は睡眠時間を十分に確保するのは難しく、ある程度は寝不足の生活を送る覚悟をする必要があります。更にゆっくり休む時間が確保できないことから、自分自身の体調管理も最重要課題です。

 このようにEMBAでは全てを両立しようと頑張ったとしても、やはり何かを犠牲にしなければならないといった現実には直面しますし、精神面・体力面でも相当のタフさが求められることになります。

EMBAのデメリット②:学生生活を満喫することも難しい

 EMBAは学業だけに集中できる環境ではありませんし、いわゆる学生生活なんてほとんど満喫できません。EMBAのクラスではフルタイムMBAの学生が2週間(例: 平日10日×1session/日=10 Sessions)かけて学ぶ内容を、全て週末(例: 週末2日×5sessions/日=10Sessions)に凝縮して学ぶことになります。とにかく大量の内容を猛スピードで詰め込みで学ぶので、講義やディスカッションはどうしても駆け足になりがちですし、十分に理解ができないまま講義だけが先に進んでいってしまうなんてリスクも懸念されます。

 また、クラスメイトとパーティや飲みに出かけることも、スポーツや娯楽を一緒に楽しむといったことも、やはり機会は限定的にならざるを得ないと思います。EMBAではMid-Term Breakも無いので、休暇を取ってどこかに旅行に行くといったことも難しいと思います。また、課外活動やインターンシップ等の活動をすることも、やはりフルタイムMBAと比べると機会は限られてしまいます。

 それでもクラスメイトとは2年近く週末の講義や平日夜のグループワークで一緒に過ごすことになるので親しい友人をつくることは本人次第でなんとでもなりますが、一定期間はMBAだけに集中して、そこでの学びや経験、人脈作りにじっくりと向き合いたい方にはやはりEMBAは向かないでしょう。

ISBのEMBAのクラスメイトと

EMBAのデメリット③: EMBAに対する社会的な評価

 最後に考えられるのが社会的な評価です。冒頭でも書きましたが、基本的にはフルタイムMBAであろうとEMBAであろうと授与される学位は"Master of Business Administration(M.B.A)"でどちらも変わらないところが多いかと思います。但し、MBAと言えば今でもフルタイムMBAが一般的な中、EMBAが転職活動等において社会からどれだけ評価されるのかは正直よくわかりません。またEMBAの選考ではGMATやTOEFLの試験が免除になる場合もあるので、もしかしたら「お金で学位を買った」といったネガティブなイメージも少なからず付きまとうかもしれません。

 "何のためにビジネススクールに通うのか"というのは人それぞれなので気にならない人には全く問題無いかもしれませんが、社会的な評価を特に気にする方やMBA取得を機に転職によるキャリアアップを図りたい方についてはフルタイムMBAを選択したほうが賢明だと思います。ただ、私の通っているISBの場合は、そもそも"インドのMBA"といった時点で既にアウトサイダーなので、この周囲からの評価に関してはフルタイムMBAやEMBAの議論以前の話かもしれませんが。

で、結局どっちがいいの?

 既にマネジメントの経験があり現職のキャリアを中断したくない方や、ビジネススクールで学んだ内容をすぐにでも実践のビジネスに活用したい方、各業界における経営層との人脈を一気に広げたい方、経済的に大きなリスクを取りたくない方、などにはEMBAは向いているかと思います。

 また、私自身の経験から、海外駐在員の方にはEMBAはおススメです。私は30歳の時に会社から海外駐在の話を頂き、インドに来て新部門と新規製造拠点の立ち上げに携わりました。立上げからまだ2年の20人にも満たない小さな部門ではありますが、現在は海外現地法人の事業部長として立ち上げた組織をマネジメントする立場にあります。

 日本の大企業の本社部門にいると30代前半では組織をマネジメントする機会はなかなか得られないのが一般的ですが、海外駐在員の場合は企業の経営や組織のマネジメントに携わる機会にも恵まれています。これが、EMBAのメリット①で上述した"MBAでの学習 × ビジネスでの実践"との相性が非常に良く、海外駐在員であればビジネススクールで幅広く学ぶ経営に関する知見を、すぐにでも実際の経営の現場と組織で活かすことも可能です。

 もちろん、海外駐在というのは自分の希望した国に行けるわけではありませんが、欧米はもちろん、中東や東南アジア、オーストラリア、中国、インドでも世界有数のビジネススクールによるEMBAプログラムが開講されていますので、興味のある方は調べて頂けたらと思います。

 一方、年齢的にも若く、ビジネススクールに通う期間はじっくりと学業に専念したい方は当然フルタイムMBAのほうが向いているでしょう。もし奨学金や会社からの支援があるのであればフルタイムMBAの経済的な負担を軽減できる場合もあるでしょう。MBA取得を機に転職によるキャリアアップを図りたい方も、EMBAよりフルタイムMBAのほうが向いているかもしれません。

 私自身、もし仮にまたEMBAかフルタイムMBAかのどちらかを選べと言われたら(もちろんその時の状況にもよりますが)、今ならフルタイムMBAを選ぶ可能性が高いとも考えています。ISBのEMBAプログラム自体には総じて満足していますが、EMBAでは必ず何かを犠牲にしなければならないといった現実に直面するからです。

 私の場合、幸い体調を崩すようなことはありませんでしたが、家族と過ごす時間がほとんど確保できなくなってしまったことが最も辛かった点でした。何が最も大事で優先順位が高いのかは人それぞれだとは思いますが、MBA取得を目指すに当たってフルタイムMBAかEMBAかを選択する際は十分に検討の上で慎重に決めることをおススメ致します。

 以上、今回はMBAの学位取得を目指すにあたり、フルタイムMBAと比較した際のEMBAのメリットとデメリットについて私なりの考えを書かせて頂きました。