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池上彰の大岡山通信 若者たちへ「いい質問」をする会(下)―〝愚かな質問〟などありません

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 「いい質問」をする会(下)―〝愚かな質問〟などありません
=東工大提供
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 東京工業大学で開いた「池上彰先生に『いい質問』をする会」第2弾の続編です。今回は学生たちが日ごろの大学生活で感じていること、抱いている悩みについて一緒に考えました。あなたも「なるほど」と感じる部分があるかもしれません。

◇ ◇ ◇

 学生A 私たち20代は年配の方々を含めて話を聞き、学んでいくことが大切だと思います。池上先生は海外などでも様々な立場の人々に話を聴き、いろいろな考え方を引き出しています。そのコツはなんでしょうか。

 池上教授 ジャーナリストとして、政治、宗教、文化など立場や主義の異なる様々な人物と会います。大切にしていることは、相手の立場を尊重することです。そして私自身がわからないことを「教えてください」という姿勢で質問をしている点だと思います。

 その際、あえて反対意見や批判的な意見をぶつけてみることもあります。とても勇気がいることですが、「挑戦的な質問」を投げかけることによって、相手の本音や人間性が垣間見えることがあるのです。まずは問題意識を持って質問することが第一歩です。

 学生B 以前、池上先生は東工大の講演で「専門的なことばかりを学んでしまうと、人間的ではない学生が増えてしまう」という発言をされたように思います。では「人間的である」とはどのようなことですか。

 池上教授 これは東工大新入生を対象にした「立志プロジェクト」での講演のことですね。オウム真理教事件のことを話題にしていたと思います。この講演会は新入生に学ぶことの意義や目的を考えてもらう機会にしようという狙いがあります。

「世界を読み解くトレーニングを」(学生との議論に参加する池上彰教授。6月22日、東工大大岡山キャンパス)=東工大提供

 私が「人間的」という言葉を使ったのは、新入生に「想像力を持ってほしい」という思いがあったからです。猛毒サリンの製造設備の建設に東工大出身者がかかわっていました。「彼はサリンが人を殺す手段になることをなぜ思いつかなかったのか」という問題提起をしたかったのです。

 たとえばこんなこともありました。四大公害病のひとつである水俣病の被害が大きくなった背景には、原因究明に多くの時間を費やしたことがありました。原因企業だったチッソの研究者や技術者は、当時、全く気づいていなかったのかどうか。何か原因を引き起こしていると感じていたとしても、何も行動しなかったのではないか。同じ立場に陥った場合、諸君にもどうすればよいのか考えてほしかったのです。

◇ ◇ ◇

 学生C 立志プロジェクトで「志を立てる」ことの大切さを学びました。しかし、実際に考えることは難しいことも感じています。池上先生の「志」とはなんでしょう。

 池上教授 私自身の志を言葉にするなら、日本の社会に民主主義を育むお手伝いができればという思いがあります。

 世の中には「どうしたらいいのか」「誰に聞けばいいのか」と判断に迷っている人も大勢いるのです。人々が考え、判断する情報が必要です。その情報を提供するために、テレビ、新聞や書籍など様々なメディアを通じて、参考情報を発信しているのです。

 今回の「『いい質問』をする会」では、「講義を面白くするにはどうしたらよいか」という趣旨のストレートな質問もありました。学生たちが「自ら問いを立て、答えを探し求めていく」ためにも、関心を持ってほしい大事な視点ではないかと思いました。

 その解決策としては、たとえば学長や大学に学生自ら考えた改善案を提示すること。なぜ改革が必要なのか具体的な証拠を提示することが必要なのではないかと思います。大学や講義を面白く、魅力的なものにするために、学生たちも自ら参加すればよいのです。

 世界は刻々と動いています。それがニュースとなって駆け巡ります。「何が起きているのか」「その背景にあるものは何か」。自らの想像力を働かせて、自らの頭で世界を読み解くためのトレーニングをしてください。

 その第一歩はまず疑問を投げかけることです。愚かな質問などありません。あるのは愚かな答えだけです。決していまからでも遅くはありません。

[日本経済新聞朝刊2018年9月3日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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