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就活教室 どうなる21年卒(2)採用ルール廃止がもたらすカオス 内定辞退が企業の重荷に 

就活教室 どうなる21年卒(2) 採用ルール廃止がもたらすカオス 内定辞退が企業の重荷に 
authored by 西山昭彦立命館大学教授

 「就活ルール」が仮に廃止された場合、学生・企業・大学それぞれにどのような影響があるのでしょうか? キャリアデザインや人材教育をテーマに研究を続けている立命館大学教授の西山昭彦さんが、未来の物語のかたちで「今、起ころうとしていること」を予測しました。

◇    ◇    ◇

 それは2018年9月の出来事だった――――。それまで経団連は就活日程について2020年春入社まで「3月に会社説明会解禁」「6月に採用面接選考解禁」と定めた就活ルール「採用選考に関する指針」を維持してきた。しかし、9月3日、経団連会長は2021年春以降に入社する学生向けの採用ルールを廃止すべきと発言した。

2021年、廃止元年が宣言される

一時期に大勢の学生が就活に動き回る光景はなくなるのか?(2018年7月に都内で開催されたインターン説明会)

 「個人的な意見だが、終身雇用や一括採用が時代の変化で見直される中、指針は廃止してもいいとの考えだ」

 数日後、会長はこの問題での発言を重ねる。「採用の問題や日本の雇用制度、大学側の問題も相当ある非常に幅の広い課題なので、よく(政府・大学と)一緒に検討していこうという呼びかけだ。いいタイミングでいい問題提起ができた」

 トップの発言は重い。採用活動でルールに縛られている経団連加盟企業が割をくっている現実もある。経団連事務局はトップの意向を受け、関係者との協議を開始。大学の強い反対にもかかわらず、2021年からのルール廃止を決めた。

 企業採用担当は以前から「3年生の夏のインターンで3~5日間も学生を見ていると、できる学生ははっきりわかる。20分の採用面接3回よりはるかに精度が高い。目の前のできる学生をつかまえたくなるのは当然でしょ」と言っていた。ルール廃止で、それが一気に現実化する。

インターンシップが採用の主舞台になる

 大学4年生の6月からの採用解禁は、一瞬で霧消した。3年の夏、各社は採用に直結するインターンシップを拡大して、その参加者の選考を前期授業の間に行い始めたのだ。学生は3年になった途端、学業そっちのけで、連日インターンシップのための選考に駆け回りだした。大学3年の授業は、学生が来ないので崩壊状態に陥る。

 「先生、すいません。来週3社のインターン選考があるので、ゼミ休みます」。こうして「ルール廃止」の1年目は、3年生の夏が就職・採用活動の主戦場になった。「ルール廃止」の2年目。最初の年に出遅れた企業が、2年生の最後の春休みにもインターンを入れだした。その選考は2年生の1月から始まる。2年生の後期授業や試験もがたがたになるのか......。

 「早めの内定で数を固めたい」といって、採用スケジュールを前倒しした企業は別の深刻な問題にぶつかりだした。内定から入社までがあまりにも長いのだ。加えて一斉解禁日がないから、学生は内定後も少しでも志望度が高い企業があれば受けるようになった。

企業の採用担当は過労に

 中には優秀な学生で内定マニアのような者も出てきた。その結果、内定者つなぎとめのエネルギーが膨大になった。それでも辞退の山が出現した。それを埋めるために再募集。そして辞退、再募集のサイクルにはまり込んでいく。一方で、複数内定がやりやすくなる分、未内定学生向けの枠がなかなかあかず、全体としては内定がとりにくくなる。

 採用担当は内定者に神経をすり減らし、繰り返される募集にへとへとになった。「なに! ライバル社が2年夏のインターンを打ってくるって。いよいよ2年がターゲットになるのか」と悩んでいる。加えて、職業意識の定まっていない低学年学生に就職先選考を迫った結果、入社後の退職率が始めて4割を超えた。この補充の中途採用もしなければならない。

経団連加盟企業以外はどうなったのだろうか。大手が活動をしない時期をねらう中小企業は、大手の長期化でますます手の打ちようがなくなった。一方で有力外資は600万円という初任給の高さや早期の責任ある仕事に時代とともに人気が高まり、ルール廃止の影響はまったく受けなかった。「外資がルールに縛られないから、日本企業がいい人材をとれない」は正しくなかった。

混乱に幕を引く新しい宣言

 この混乱状態が3年も続き、2024年に経団連会長が会見をした。「かつては、なぜ経団連が指針を出すのかという批判があった。加盟企業に不利なことをなぜやっているのか。自由市場で自然に学生が配分されるのがいい、という問題意識があった。それは企業から一定の支持を得た」

 しかし、他にルールを作る動きはなかった。「経団連を社会の多くの組織の一つとして考えれば、ルールの負担を背負わなくてもいいのかもしれない。しかし、わが国の有力企業、つまり社会的強者で構成されていることを考えると、誰かが歯止役として犠牲を払わなければならないのならそれは我々だ、と考える」と続けた。

 「我々が掲げているESG(環境・ソーシャル・ガバナンス)のソーシャルの部分だ。安定した雇用や秩序ある採用は我々の目指すべきものだ。経団連は、2026年入社から指針を新たに定める。3年生の3月、つまり3年間学業でしっかり学んだ者を評価でき、春休みで授業への影響も少ない時期に選考解禁という指針だ」。会長がこう力を込めて言い切るのを聞いた学生と大学に、そして以前は廃止を望んでいた企業にも、一様に安堵が走った。

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 この悪夢を避け学生生活を守ることが今、問われている。