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就活リポート2019(13)「後付け推薦」に学生困惑
人事との攻防 来年も続く?

就活リポート2019(13) 「後付け推薦」に学生困惑人事との攻防 来年も続く?

 10月1日、多くの企業で内定式が開かれ、2019年卒の就活は名実ともにほぼ終了となった。大学関係者は、今季の就活を「売り手市場が続くなか企業のなりふりかまわない人材確保策が目についた」と振り返る。その一つが「後付け推薦」だ。内定辞退の阻止や早い段階での学生確保が目的だ。今後の就活の主役は現大学3年生に移るが、就活ルールの見直し機運が盛り上がりつつあるなか、人事担当者と大学や学生とのせめぎ合いはますます激しくなりそうだ。

後付け推薦、止めさせられないか

 19年卒の就活では、最終面接が終わってから学生に「推薦状」の提出を求めるケースが頻発した。関係者の間で「後付け推薦」と呼ばれている手法だ。大学のキャリアサポート担当者からは「制度の趣旨に反する」と反発する声も強い。

学生でごった返すインターンシップの説明会(2018年7月、都内の展示場で)

 「表面上は自由応募といいながら、選考のプロセスが始まってから教授の推薦状を求めてくる〝後付け推薦〝というのがある。なんとか止めさせられないだろうか」。2018年8月下旬。都内で開いた「国立大学キャリア支援担当者情報交換会」でこんな指摘が相次いだ。就職支援に窓口を担当する教員らが年に1回開く総会で全国約60の国立大学が参加した。

 学校推薦は、本来、応募時点で提出するべき性質のものだ。ところが、問題となった後付け推薦では、正式ではない「内々定」を出すタイミングになってから企業が学校推薦を要求する。もともと、推薦応募は理工系の大学生・大学院生の採用で広く利用されてきた。大学と企業の信頼関係があるので、大学から推薦される学生は、ほぼ100%が内定をもらえる。その代わり、推薦された学生が内定を辞退するケースは希だった。学校と企業との信頼を損なうことにもなるからだ。

 一方、問題化している「後付け推薦」は、元来の制度の趣旨を逸脱している。広島大学グローバルキャリアデザインセンター長の江坂宗春教授は実情を次のように説明する。「就職活動の指針をきちんと守らない企業の中には、いわゆる正式ではない内々定の直前になって『内々定をあげるから、大学・教授からの推薦状をもらって来い』と学生に課すことがあります。この後付け推薦は、学生の内々定辞退を防ぐ目的が主です」。

 「採用選考に関する指針」の日程を守っている企業を第一志望としている学生の場合、この後付け推薦に戸惑い、大いに悩むことになる。後付け推薦をもらえば、内々定の辞退が難しくなる。あとから第一志望の企業に内々定をもらったとしても無意味になってしまう。一方で、学校推薦をもらえなければ、内々定が出ない。まさに学生にとっては、〝踏み絵〟となってしまうのだ。

 江坂教授は「企業にとって学生の内々定辞退が大変な打撃になることも理解できますが......」と前置きしつつ、「就活学生一人当たりの内々定数は平均2.5社。『採用選考に関する指針』でも、『学生の自由な就職活動を妨げる行為(正式内定日前の誓約書要求など)は一切しない』となっている。後付け推薦は、学生の自由な就職活動を妨げる行為に当たるものと思われ、厳に慎むべきものかと思います」と指摘した。

6月時点で、すでに就活学生の88%が内定確保

2018年6月に就活を終えている学生の割合(6月18日時点)

 企業側も切羽詰まっている。大手メーカーの採用担当者は「我々も推薦状自体に固執しているわけではない。後付け推薦を出さない、というなら、内定、あるいは正式では内が内々定辞退を起こさせない他の有効な手段で対応するしかない」と言う。いわゆる「オヤカク」(保護者から内定を辞退しない確約を取り付ける)や、バブルの頃に多用されたような面接当日の「身柄拘束」など過激な対応に走る企業が増えるかもしれない。

 採用できる見込みの学生に逃げられるリスクは、人事にとって最大の悩みの一つ。特に理系を中心に優秀な学生の引き留め工作は激しくなる一方だ。就職支援のワークス・ジャパンが2018年6月に首都圏・関西の就活中の大学生743人を対象に実施した調査を見てみよう。対象学生は関東ならMARCHクラス以上、関西なら関関同立クラス以上。学生が就活で優位に動ける大学群だ。

 採用活動が解禁された直後の2018年6月18時点では、既に88%の学生が内々定を獲得している。また、複数社から内定を得ている学生も多い。早稲田・慶応義塾両大学では65%、MARCHクラスで59%となった。一方、同じ時点で就職活動を終えている学生は全体の69%を占める。企業目線では「とにかく早めに動かなければ学生確保はおぼつかない」となる。自社に残ってもらうため、なりふりは構っていられないというのが企業側のホンネだろう。加えて、このほど経団連の中西宏明会長が「経団連が採用の日程に関して采配すること自体に極めて違和感がある」などど話したことから、スケジュールを決めた就活ルールを見直す機運も出てきた。2021年以降は「採用ルール廃止も」という議論に発展しており、今後はますます企業にとって内定確保競争が激化する可能性もある。

大学ごとに「推薦枠」を設定?

  「弊社は貴大学に対して学校推薦枠を設けます」――。首都圏にある私立のX大学は、大手金融機関から今年こんな申し入れを受けた。金融機関の担当者は、X大学の学校推薦枠を5人設定すると持ちかけてきた。推薦の条件は「金融を志望する学生で、かつ能力に優れている学生を推薦する」ということ。大学側は当初、学校推薦も悪い話ではないと考えた。しかし「詳しく聞いてみると、大学推薦があってもさらに人事が面接する。5人全員を採用する保証はできないという。結局、断りました」(X大学のキャリア支援担当課長)。

 企業にとって、新卒採用にまつわる業務は増える一方だ。特に、インターンシップが普及してからは一年を通して多忙が続くようになってしまった。「企業は新卒採用に絡んでいろいろな手間がかかる。それなら、就活の試験と面接のプロセスを大学に丸投げしてしようというのでしょうね」とX大学の課長は苦笑する。

 経団連の中西宏明会長の発言をきっかけに就活スケジュールは見直しが検討されている。ただ、売り手市場は当面続きそうで、企業の人事担当者が学生確保に頭を悩ます状況に変わりはなさそうだ。(若杉敏也)