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転職時代のキャリア形成論(2)エッセンスを分析すれば「好き」を仕事にできる
東大生が悩むキャリアの行方

転職時代のキャリア形成論(2) エッセンスを分析すれば「好き」を仕事にできる東大生が悩むキャリアの行方

 夢を叶えるためのキャリア作りを伝授した1冊の本、『未来をつくるキャリアの授業』が2017年に東京大学の授業で教科書に採用されました。著者である渡辺秀和氏は、コンコードエグゼクティブグループの代表取締役社長CEOを務める転職コンサルタントの第一人者です。上手にキャリアを重ねていくためには、どんな心構えが必要なのでしょうか――。若い世代に向けて、同氏のインタビューを連載でお届けします。1回目の「勉強してきたことが役に立たない!?」に続き、2回目は「自分の"好き"を仕事にする具体策な方法」をテーマに話していただきます。

◇   ◇   ◇

――前回のインタビューでは、就活で恵まれた立場にある東大生でも、実はキャリアについて悩んでいるという話を伺いました。社会に出たことがない学生が仕事を選ぶのは難しいことだと思います。どのようにして仕事を選ぶのが良いのでしょうか?

 就活中の学生の方と話していると、ブランドを重視して仕事を選ぼうとする人が少なくないように思います。「就職偏差値」という言葉もありますが、大学入試と似た感覚があるのかもしれませんね。このような観点で仕事を選んでしまうのは、勿体ないと思います。

 仕事は、人生の大半の時間をかけることになる大切なものです。人生を豊かに生きるためにも、自分の「好き」を大切にして仕事を選ぶことをお勧めします。好きなことをした方が楽しいですし、仕事に打ち込めるので得意にもなれます。その道で一流になれば、社会に与えるインパクトや収入なども大きくなります。

就職偏差値に惑わされない

 就職偏差値が高いということは、人気が高い仕事だということです。当然、その中でライバルに競り勝ち、一流になるということは難易度が高い勝負となります。そう考えると、「好き・嫌い」という観点だけでなく、「損・得」という観点からも疑問が出てきます。やはり、ブランドという世間の価値観に流されず、自分の中の価値観に従って考えることが大切だと思います。

――「好き」で仕事を選ぶって、ワガママな気もしてしまうのですが。

東大で開講したキャリアデザインの授業風景

 大学入試では、入試科目が決められています。入試科目が、英語、数学、国語、社会であれば、それを満遍なく勉強し、総合点で合格を目指すことになります。嫌いでもやるしかありません。

 一方、仕事は自分で選択してよいですし、その選択肢は膨大にあります。場合によっては、世の中にない仕事をつくってしまっても良い。大学入試とは自由度が全く異なり、主体的に選択できます。これまでの受験時の意思決定とは異なる面があるので、この感覚を掴むまでに時間がかかる就活生も少なくないようですね。

――「自分は何を好きなのか」がよく分からない人も、実は多い気がします。

 その通りだと思います。自分の好きが分からない、目指すべきキャリアビジョンが分からないと悩んでいるのは、就活生の皆さんばかりではありません。私たちの会社へ相談にいらっしゃるビジネスリーダーの皆さんでも、はっきりとしたキャリアビジョンを持っていらっしゃる方は少ないのです。それくらい自分の「好き・嫌い」を知ることは難しいと思います。

「好き・嫌い」を分析する

――自分の「好き」はどのように見つければよいのでしょうか。

 私たちがお薦めしている「好き・嫌い分析」という手法があります。一般によく知られている、自分が好きなこと、得意なこと、収入が得られることの3つが重なることを仕事にするという3つの輪の自己分析法とは異なります。

 もちろん3つの輪も有用なのですが、いくつか使いづらい面があるようです。例えば、好きなことがたくさん挙がった場合の優先度が分からないですし、体験したことがない仕事が自分にとって面白いことなのかどうか、得意なのかどうかが分からないという問題があります。また収入が得られるかというについて言えば、検討する対象のほとんどが職業として存在しているので、この要件ははじめからほぼ満たしています。もし高収入になるかを検討したいのであれば、それはその道の一流なれるのか否かによるところも大きいわけですので、この分析からだけでは何とも言えません。整体師の方だって、腕によって年収が何倍も何十倍も違いますよね。

――確かに、3つの輪の分析は、実際にやると腹落ち感が今一つだったのを覚えています。では、「好き・嫌い分析」は具体的にはどのように行なっていくのでしょうか。

 例えば、将棋を好きだとしましょう。最近は将棋ブームだし、食べて行けるだけ稼げそうな仕事もある。そうだ、自分は文章力もある。では、将棋に関するライターになろう――と単純に考えてはいけません。

 「好き・嫌い分析」では文字通り分析をします。将棋のどのようなエッセンス(要素)が好きなのかを分析していくのです。一口に将棋と言っても、様々な要素が組み合わされています。いい作戦を用意して実戦で試すことが楽しいのか、勝負のスリルが楽しいのか、頭がちぎれるほど考えることが楽しいのか、最新の定跡を学ぶことが楽しいのか、などなど。愛棋家同士でも、どの要素が好きかは異なるでしょう。

 さらに、将棋以外の好きなことからも、同様の手順で好きの要素を抽出していきます。例えば、友人たちと語り合うこと、映画鑑賞、読書、数学、一人旅など、好きなことを次々分析します。

 このようにして分析していくと共通項となる要素が浮かび上がってきます。そうすると、自分はこういうエッセンスを含んだ仕事が好きなのだ、ということが分かるようになります。この「好きのエッセンス」を掴むことが鍵なのです。

「好き・嫌いのエッセンス」を掴むことがなぜ大切か?

――「好きのエッセンス」を掴めると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 まず1つは、「より純度の高い好き」を仕事に選べるということです。前述の例で言えば、分析した結果、将棋を指すことは2つしか好きのエッセンスが入っていなかったけど、友人の人生相談に乗ることは4つのエッセンスが入っていたとなれば、人生相談に乗ることを仕事にした方が良さそうだと分かります。

 もう1つのメリットは、可能性の幅が広がるということです。事例をあげて説明したいと思います。新卒でプライベートバンカーになったある相談者がいました。この方は就活当初、臨床心理士になりたいと思っていたそうです。私と同世代の方なので、20年以上前に就職活動をしています。当時の学生には、まだほとんど知られていない職業によく目をつけたなと感心します。

 ところが、臨床心理士になろうと思って調べ始めたら、当時は収入が低く生計を立てるのもなかなか難しいという状況だったそうです。そこで困った彼は、自分のやりたいことって何だろうと突き詰めて考えました。そうすると、人に対して親身になって相談にのり、解決策を提案し、喜んでもらうということが、やりたいことなんだと気づいたそうです。まさに好きのエッセンスを捉えたのですね。

 そうなると、何も臨床心理士にこだわる必要はない。もしかしたら、教師も良いか知れない、プライベートバンカーも良いかも知れないと、一気に視野が広くなったそうです。一般の方には、臨床心理士とプライベートバンカーは全く違う業界・職種ですよね。しかし、彼の軸からすると非常に近い仕事ということになります。周辺業界だけを探る就活ではこのような仕事にたどり着けないでしょう。ですが、好きのエッセンスの抽出が済んでいると、このようにして大切な仕事の本質に気づけるようになります。

――「好き」を仕事にするということはよく分かりましたが、「嫌い」の分析はどのように活用するのですか。

 「嫌い」についても「好き」と同様に分析を行なって、「嫌いのエッセンス」を掴みます。これだけはどうしても嫌いというものが分かれば、避けるべき仕事や環境を判断できます。好きのエッセンスを満たしていても避ける「ノックアウトファクター」として活用する訳ですね。短期間での離職を避けるためにも、この観点は非常に大切です。もちろん、嫌いの分析については、何もかも嫌いとワガママを言っていてはダメですが。

 私の場合だと、上司にへつらった者勝ちという、いわゆる社内政治が幅を利かせる環境は、かなり嫌いな要素です。就職活動時に内定をとったあるコンサルティングファームは、ベンチャー企業を対象にした経営支援をしていて、私の希望にぴったりの企業でした。しかし、その企業の経営陣の部長や課長に対する振る舞いを見ていると、どうもおかしい。このノックアウトファクターを重視して、辞退しました。後に社会人になってから分かったのですが、パワハラで有名な会社でした。入社していたら、仕事内容がいくら面白くても、持たなくて短期間で辞めていたと思います。

日記は自己分析に役立つ膨大なデータ

――気になっていたのですが、渡辺さんご自身も「好き・嫌い分析」をして、キャリア設計をなさってきたのですか。

 はい。実はこの「好き・嫌い分析」は、私自身が中高校時代に行なっていたことをベースにした手法です。中学生の頃に、毎日自分が何を面白いと思ったのか、何をつまらないと思ったのかを日記につけていました。この作業を続けていくと自分の好き・嫌い情報が膨大に溜まります。書き溜めた後で振り返ってみると、自分が何を好きで、何を嫌いなのかがクリアに分かりました。この時の分析がベースとなって、「人生相談業を興したい」と想い、今に至っています。

 今回ご紹介した手法は、東京大学の授業でも話して、就活中の学生から大変好評でした。シンプルな方法ですので、宜しければ読者の皆さまにもお試し頂ければと思います。特に、就活までに時間がある方は、日記をつけて好き・嫌いをじっくり分析して頂くとより良いと思います。

(聞き手 日本経済新聞出版社編集部 雨宮百子)

1回目の「勉強してきたことが役に立たない!?」も合わせてお読みください。

渡辺秀和(わたなべ・ひでかず)

 一橋大学商学部卒。「ビジネスリーダーのキャリア支援を通じて、真に豊かな社会をつくりたい」との想いから、株式会社コンコードエグゼクティブグループを設立し、代表取締役社長CEOに就任する。戦略コンサルタント、外資系エグゼクティブ、起業家などへ1000人を越えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援。第1回「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門で初代MVPを受賞。東京大学でキャリアデザインの正規科目「未来をつくるキャリアの授業」をコースディレクターとして開講。著書『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社刊)、『未来をつくるキャリアの授業』(日経新聞出版社刊)は、同授業の教科書に指定される。

未来をつくるキャリアの授業 最短距離で希望の人生を手に入れる!

著者 : 渡辺 秀和
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 842円 (税込み)

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