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一人ひとりがグローバルリーダー(2)〝鳥人間〟が国際問題を議論する意義
~人の命と将来を「乗せている」責任を自覚

一人ひとりがグローバルリーダー(2) 〝鳥人間〟が国際問題を議論する意義~人の命と将来を「乗せている」責任を自覚
authored by グローバル・ネクストリーダーズフォーラム

 こんにちは。東京理科大学工学部電気工学科2年生の阪口友貴です。私は、鳥人間サークルに所属する傍ら、グローバル・ネクストリーダーズフォーラム(GNLF)という国際系のサークルに所属しています。なぜ、工学部で学ぶ鳥人間男子が国際問題に興味を抱いたのか? 今日は、鳥人間が国際問題を議論する意義を話したいと思います。

真の鳥人間=安全管理のプロ=情報管理のエキスパート

 みなさんは、"鳥人間コンテスト"を知っていますか? 鳥人間コンテストは、自作の人力飛行機を飛ばしてその距離を競う読売テレビの番組です。プロペラ機の部門では40km飛んだチームもあります。この文章での鳥人間とは、その大会に出場している人々を指します。

 空を飛ぶ事は、人類の偉業の一つと言えます。現在は、飛行機やヘリコプターなど、お金を払えば空を飛ぶ事が出来ます。そんな現代において、30秒飛ぶために、1年間を注ぐ人たちがいます。それこそが鳥人間です。

翼の大きさは30m、学校のプールよりさらに大きい

 所属している鳥人間サークルは、年に一度の鳥人間コンテストで優勝することを目指して活動しています。翼の大きさは30m、学校のプールよりさらに大きいサイズの人力飛行機を80人の部員で製作しています。構造解析・流体解析・自動設計など最先端の技術を駆使して設計された機体です。

 私は、設計士兼班長として活動しています。設計士は機体設計図の作成、班長は進捗の管理を行います。航空力学・材料力学・構造力学などの勉強も不可欠です。それだけでなく、日程管理・リスク管理・渉外活動もこなします。限られた期間でパイロットの命を預かる飛行機を作る為には、机上の勉強では不十分です。

 鳥人間の勉強は、現場を把握する事から始まります。その例を説明します。PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルは聞いたことがある方も多いと思います。近年、自己啓発の本などで、やたらとPDCAサイクルという文字を見かけます。決まって、PDCAサイクルを速く回そうと言った内容が書かれています。その結果、現実的でないPlanを立てて満足し、的外れなDoを行う個人や団体が増加しているように感じます。いくら優れた機体を考案しても、製作できなければ意味がありません。

 対して、我々はCAPDサイクルを行います。現場からニーズを把握、改善策を立案し実行するという流れです。生産能力やパイロットに求められる機能を確認する事から始めます。つまり、現場を把握することは、扱う情報の正確さを向上させることであると言えます。

鳥人間コンテスト本番でのフライト

コンピューターシミュレーション

 もう一つ、鳥人間において不可欠なことがあります。それは、互いを信頼しても信用しないという事です。互いを見張りあいます。人間である以上、ミスは避けられません。情報の伝達不足や作業道具使用方法の間違いなどがミスとして挙げられます。これらは、機体の欠陥につながります。欠陥が生じた場合、最悪の場合パイロットを傷つけることにつながります。だからこそ、しっかりと間違いを指摘し、執拗に安全の担保を行います。当然、先輩・後輩関係は関係ありません。その点においては、鳥人間は安全管理のプロフェッショナルになることが求められていると言えます。これは、情報管理の能力を向上させることであると言えます。

 これらの事から、真の鳥人間とは、空を飛ぶ事に惹かれた情報管理のエキスパートであると言えます。充分に習熟できているとは言いません。しかし、そのエキスパートになる為に現実との乖離を埋める作業を行う事こそが、鳥人間に求められていることは画然たる事実であると思います。

真の鳥人間になる努力と国際問題を議論することは相補関係

 私が自分の好きな鳥人間に没頭できるのは、教育環境のおかげです。しかし、教育環境とは、親の価値観や住環境、国の文化に作用されるものです。世の中には、その環境ゆえに教育を満足に受けられない人が多くいます。自らの興味に没頭できる時間があること自体は、全くの幸運です。幼少期から労働を強制され、勉強機会を剥奪された方の存在を知り、その方の生活を想うとひどく心苦しくなります。やがて、幸福にも教育の機会を得た人の使命として、学習内容を他者の生活向上に繋げるべきではないかと考えるようになりました。

 大学入学以前は、学習内容を他者の生活向上に活かす方法がわかりませんでした。しかし、国際交流を行う中で、国際問題の解決こそが国境の垣根を下げること、ひいては、地球規模の生活向上に繋げられると学びました。さらに、国際問題は個人レベルの合意を積み重ねて解決できると気づいた事から、正しい価値観をもとに発信することが目的達成方法の一つであると確信しました。

 国際問題の解決で絶対に忘れてはならないこと、それはその問題の裏に人の命や将来をはらんでいる可能性があるということで、国際問題を扱っていく人間としてそれに対する責任を感じなければなりません。一部のテレビでは、評論家が他人事のように発言していることを散見します。第三者の意見を鵜呑みにして価値観を形成して、あたかも自らの意見の様に発信することはその責任を果たしていません。

ロシアでのでの国際交流の様子

 鳥人間においても、自身の手による設計が他人であるパイロットの命や将来を左右してしまう可能性がありその責任を負わなくてはなりません。論文であれ偉大な先輩であれ、その第三者から得た情報を鵜呑みにすることは決してありません。

 つまり、真の鳥人間になる努力と国際問題を議論することは、相補関係にあると言えます。2つを同時に行うからこそ学べることもある。それが、パイロットの命を守る事と地球規模の生活向上につながる。だからこそ、鳥人間が国際問題を議論する意義があるのです。

私の目指す将来像:経験のバリアフリー化

 正直、憧れだけで始めた鳥人間がここまで自分の生活に影響を与えると思っていませんでした。幼稚園の頃からあこがれていた鳥人間コンテストに関われている現在は、とても幸せです。そして、他者に影響を与えることのできる手段の1つも得ることができました。これらの事から、将来は、誰もが、経験することを拒まれない社会を実現したいと考えています。

 その目標の達成には多くの課題もあります。例えば、差別に関する問題です。ある日、街中でトランスジェンダーの人をモデルとした広告を見かけました。その時、通行人の方が「トランスジェンダーを広告に使うって多様性よねー」と言っていました。多くの企業や先生が、その問題を扱うことによって見栄えを良くしようとしています。

 この行動って、本当に差別に当たらないのでしょうか。実際のトランスジェンダーの方はどう思うのでしょうか。一度は、このような行動や考えをしたことがあるのではないでしょうか。彼らを当たり前の存在として考え、多数派と同じように接することが重要ではないでしょうか。このような行為を、マイクロアグレッション(悪意のない小さな差別)というのではないでしょうか。非難する事だけが差別ではありません。マジョリティが無意識のうちに差別行動を行うことが日常的にあります。

 人間が男子と女子の2つに大別されるという固定観念がなかったら、このような問題は防げるのではないかと考えます。これを、価値観の相対化と言います。広告モデルの例の場合、通行人の発言がトランスジェンダーの方の自尊心を傷つけ、疎外感を与えているかもしれません。その場合、トランスジェンダーの方が、自ら人前に出て活動する事を敬遠するようになるかもしれません。これは、経験を拒まざるを得ない雰囲気を作っていると言えます。

 価値観の相対化は、一部の個人が達成すべき目標ではありません。世界中の多くの人が達成してこそ大きな意味を持ちます。そのために何が必要であるか。私の考えは、国内はもちろん、国外の人や経験と個人を繋ぐ手段を形成する事です。このことは、私の将来の夢を達成する方法の1つです。

 鳥人間として得た経験をもとに世界で活躍し、また機会があれば私の取り組みをご報告したいと思います。読んでいただいて、本当にありがとうございました。応援、よろしくお願いします!!

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■グローバル・ネクストリーダーズフォーラム(GNLF)
年に1度、世界各国から大学教授と大学(院)生を日本に招き、国際的な問題について議論すると共に文化交流を深める「本会議」を企画・運営している学生団体。今年度は2019年2月18日〜27日に参加者を10ヶ国以上から集め、「マイノリティ」をテーマにした本会議を東京で開催いたします。ホームページ  http://jp.g-nextleaders.net/