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人吉から地方変える(2)見る前に飛べ!~高校3年で起業

人吉から地方変える(2) 見る前に飛べ!~高校3年で起業
authored by 溝口然一般社団法人グローカル代表理事/慶応大2年

 溝口然(みぞぐち・ぜん)です。前回の記事では、僕の母校である人吉高校と横浜市の聖光学院との交流について書かせていただきました。今回は僕がこうした活動を始めるに至ったきっかけやその過程について紹介させていただきます。

「自分の世界」の狭さ痛感がきっかけ

Glocal Studentsを立ち上げた友人と(筆者は左)

 僕のふるさと、人吉球磨地域は熊本県の南部に位置し、周囲を山々に囲まれた盆地の小さな地域ですが、近年、「日本遺産」に認定されるなど、古い歴史や独自の文化を持つ地域です。僕は、この地域で生まれ、高校卒業までの18年間を過ごしました。

 小学校中学校、高校とずっと野球部に所属し、いわゆる野球一筋の高校生だった僕が、現在、一般社団法人グローカルの代表として人吉球磨地域のキャリア教育に関わるようになったきっかけは、高校2年生の時に参加した「ビヨンドトゥモロージャパン未来リーダーズサミット」でした。

 東京で開催されたビヨンドトゥモローは、全国各地から高校生が集い、日本や世界の未来について考えるカンファレンスで、過去には小泉進次郎さんや羽生善治さんなど著名なゲストも参加されています。家と学校を往復するだけの生活を送っていた僕にとってこの場での出会いは大きな刺激でした。将来に明確なビジョンと高い志を持った同世代の仲間達、社会の第一線で活躍する社会人との交流を通して、いかに自分が過ごして来た世界が狭いものだったかを痛感しました。

 それまでの高校生である僕の日常では、普段から接する人は友達と親と学校の先生くらい。僕は、東京で経験したような刺激溢れる学びの場を地元である人吉でも作っていきたいと考え、中学校からの友人を誘い、活動を始めました。

高校生団体「Glocal Students」設立

Glocal Studentsの活動の様子

 友人と二人で立ち上げた「Glocal Students」。グローカルは、「グローバル」と「ローカル」を掛け合わせた造語で、「広い視野を持って、身近なところからアクションをおこしていく」という意味を込めました。

 高校生が学校の先生や親以外の、地域の様々な大人と出会うことで、多様なロールモデルに触れる機会を作りたいと県議会議員や、企業経営者、地域活性化に取り組む多くの方々との交流の機会を作ってきました。活動を始めた当初、僕には社会人を講師に呼びたくても、そもそも知っている大人が親と教員以外いませんでした。どこからどう手を付けていいのか全く分かりませんでしたが、思い切って、地元選出の県議会議員さんにウェブサイト経由でメールを送ったのがスタートでした。(多分、ずいぶん一方的で、失礼なメールだったと思いますが・・・)

 県議会議員さんとのやり取りの中で、最初に企画したのは、地元のことを誰よりもよく知る地元選出の県議会議員を招いた高校生のディスカッションでした。この企画をきっかけに多くの地域の方々と出会いご縁に恵まれ、企業経営者や地域おこし団体の方々との勉強会などを企画し、高校生が、学校以外の「世の中」と関わる機会を創出してきました

 また、そうした活動を通して生まれたアイデアを、人吉市の「ひとよしアプリ・アイデアコンテスト」に応募したところ、大賞・協賛団体賞を受賞したり、熊本県主催の「熊本県がんばる高校生賞」を知事よりいただいたりするなど、次第に「Glocal Students」の活動に一定の評価をいただけるようになりました。

活動継続へ資金必要に

起業後、初のイベントの様子

 東京への大学進学が決まった時、どうやってこれまでの活動を継続させていくかという壁に直面しました。継続的に活動を行なっていくためは、金銭的にも組織としても安定させていく必要があります。そこで、具体的なビジネスモデルも仕事もない状態でしたが、とりあえず会社を作ってみようと決意しました。「Glocal Students」の活動で出会ったIT企業の社長さんからの後押しもあり、「一般社団法人の作り方」と題した本で作り方を調べ、司法書士さんにもサポートしていただき、思い立って1ヶ月足らずの高校3年生で登記を完了しました。

 会社を立ち上げる時点では、具体的なプランがあったわけではありません。しかし、自らまずは行動することによって、周囲の方々からの見る目も変わり、様々な事業の話が少しずつですが、我々のもとに舞い込むようになりました。「自ら行動することで周囲の状況を変えていく」ということを感じるとともに、「とりあえずやってみる」こと、失敗を恐れず行動することの重要性を、この時、僕は体験的に学ぶことができました。

 まさに「見る前に飛べ」です。

人吉球磨の高校生に多様な選択の場を

ひとよし球磨プレオープンキャンパスの様子

 大学に進学し、東京で生活してみると、これまで過ごしてきた人吉と東京の大きな違いを身をもって痛感しました。都会には様々な機会があります。様々なお店があり、会社があり、専門書がならぶ充実した書店があり、いろいろな人の話を聞き、多くの情報を得ることもできます。

 しかし、地方は違います。小さな地方の町、まさしく、自分が生まれ育った人吉球磨にこそ、そんな場がもっと必要じゃないでしょうか。

 例えば、東京にとっての東京の大学と、地方にとっての東京の大学。人吉球磨の高校生にとっては、東京の大学というのは遠い世界に見えます。九州の南の地方都市からは、東京は本当に遠いのです。

 そこで、大学1年生の春から、大学がなく、大学へのイメージを抱きにくい人吉球磨地域の高校生が全国の様々な大学の学生と交流し、進路選択の幅を広げてもらおうと「ひとよし球磨プレオープンキャンパス」の開催を始めました。北は北海道から全国各地の大学生16人が人吉に集まり、高校生が疑問や悩みを相談するイベントを開催することができました。
東京に居て、人吉でのイベントを企画、準備するのは特に集客の面で思った以上に大変でしたが、SNSと駅でのビラ配りの地道な周知活動の結果、当日は60人を超える高校生が参加し、とても盛り上がりました。

 高校生が大学のことを知る機会の一つに大学のオープンキャンパスがありますが、田舎の高校生にとっては距離的な制約もあり、志望大学まで足を運ぶのは簡単ではありません。地元にいながら現役大学生から話を聞くことができるこのイベントは、高校生からは、「選択肢の幅が広がった」「学校では聞けないようなリアルな話を聞くことができた」など高い満足度を得ることができ、ほぼ全員が「また参加したい」と回答するほどの人気企画となりました。

1人1人が自分なりの選択ができる地域を目指して

 進路や将来の選択肢は、知らず知らずのうちに、周囲の環境によって狭まりがちです。親の職業や育った地域、通っている学校によって、自然と「当たり前」が作られてしまいます。その傾向は、都市部よりも地方の方が強いと思います。親の職業だったり、先生の勧めだったり、今の偏差値で入れる大学だったりで、「なんとなく」進路を決めてしまうことが、私の周りでは「当たり前」になっていました。こうした「当たり前を打破」していくためには、自分とは異なる多様なロールモデルに触れたり交流することが必要不可欠です。

 高校生の時に感じたこの思いは、今から3年以上前のことになりますが今でも変わることはありません。

 一般社団法人グローカルでは、これまで、人吉球磨地域の高校生を中心に、様々な機会の創出を通じて、多様な選択をサポートしてきました。しかし、経済的な事情で「望む進路を選択できない」場合が少なくないことも事実です。いや、かなり大きなことかもしれません。

 そこで、2018年からは、一般社団法人グローカルでは奨学金事業に参画することで、情報や機会創出のみならず、金銭的な面でも一助となれるよう取り組んでいます。この事業はまだまだこれからですが、僕は、これからもふるさと人吉球磨が、そこに暮らす高校生にとって「一人一人が自分なりの選択ができる」地域であることを目指して、ささやかではありますが、精一杯頑張っていきたいと思います。