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誰も行かない所へ行こう(3)あの洞窟を丸裸に!
~地味でも欠かせない測量・地図づくり

誰も行かない所へ行こう(3) あの洞窟を丸裸に! ~地味でも欠かせない測量・地図づくり
authored by 山口大学洞穴研究会

 こんにちは。山口大学洞穴研究会の金清です。山口は急に寒くなってしまって部員がそれぞれ体調を崩していますが、皆様はいかがお過ごししでしょうか。

 さて連載第3回ということで多少なりともマンネリを感じている方もいらっしゃるかと思いますが、今回のテーマは「測量」です。どう考えても地味な記事になりそうで、内心怖いのですがどうかお付き合いください。

測量して地図をつくる=考えられる限り探検し尽くす

 皆さんは「測量」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。前回は「洞窟の探検」について説明してみましたが、ある意味「探検」よりも「測量」の方が皆さんからすると縁遠いものかもしれません。「さて、測量でもするか!」みたいな事になる人って相当限られてますよね。ましてや「洞窟の測量」なんて毛ほども考えたことが無いと思います。

洞窟では様々な装備を使って測量する。装備は基本的に簡素で質素なもの

 ただ測量ってのは案外身近にあるものなんです。たまに道路や工事現場で、作業着を着た人が望遠鏡みたいなものをのぞいている時がありますが、あれが測量です。私は洞窟の測量しかしない人間なので一般的な測量についての知識は疎いのですが、よくよく考えてみると家や道路を作るときに建物がどんなところに建つのか、出来た建物が図面通りになっているか、とかをチェックするわけです。そのときに測量をして得た土地のデータって絶対必要なものですよね。家具などを作る人ならわかるかと思いますが、まず部屋の大きさを図って作るものの大きさを考えないでしょうか。

 というわけでやや強引ですが測量というのが非常に社会において役に立っているというとこがわかって頂いたところで、本題である「洞窟の測量」についてご説明しましょう。説明と言っても基本的にやっていることは同じで、洞窟の地図づくりです。単純ですね。

 連載第1回のときにも少し触れましたが、洞窟を調査しようと思うとまず必要なのが洞窟の地図です。私達が洞窟の調査をするときは「この洞窟がどうやって出来たのか」を考えているのですが、その考察をするときにも地図は役立ちます。地図を見ながら「ココとココは昔繋がっていたんじゃないのか?」とか「この切れ目にそって洞窟が形成されていっているんだな」とか考えるわけです。完全にマニアの世界ですが、分かって来ると意外に楽しいものです。

コンパスの揺れる針を見つめて方位を読み取る。大変神経が擦り切れる作業

 ほかにも探検の際の手助けになります。測量して地図を作るという事は、その洞窟を考えられる限り、探検し尽くすと同義です。従って一度洞窟の地図を作ってしまえば、よほど地図を読むのが下手くそで無い限りは、自分がどこにいるかが分かるということです。暗闇の中で、こんなに心強いものは無いですよね。まぁ実際のところ、洞窟になれていない一年生は洞窟の地図を持たせても迷いまくるのですが。結局は勘ですね。元も子も無いですけど。

 最近は自治体などに洞窟の測量を依頼されることも多くなってきました。意外に思われるかもしれませんが、「洞窟を観光化したい!」や「自治体に洞窟を保護してほしい!」といった場合、まず洞窟の測量などの学術的調査が必要な場合が多いんです。そういった経緯で自治体の方々の温かいご支援を受けながら調査をさせていただいています。ありがたい話です。本当にありがとうございます。

洞窟内部は湿度100%で泥だらけ

 散々、測量についてお話したところで、洞穴研究会がどのようにして洞窟の地図を作っていくのかについて見ていくことにしましょう。

レーザーポインタを使って距離を測定する。数少ない近代的な装備

 まず地図を作るためには部員たちが測量器具を担いで洞窟に入って、いろいろなデータを測る必要があります。アナログコンパスなど使い勝手がお世辞にも良くない器具を使ってますので、経験がモノを言う世界です。「最近なら、デジタルコンパスとかいろいろあるから楽できるじゃないか」と考える方もいらっしゃるのでないかと思います。私も楽したいので可能であればそうしたいのです。

 ですが洞窟の内部は湿度100%で泥だらけ、しかも大人一人がギリギリ入れるようなところを這って測量するわけですから、およそデジタル機器等というものは部員によって無残にも破壊されてしまいます。私達もお金が無い中、ギリギリのところで測量装備を買っているので、高価でしかも壊れやすいデジタル機器というのは手が出せない代物なのです。結局は洞窟でも大事なのはお金なんですね。

 ですから基本的に使っている装備はめちゃくちゃ旧式のものです。レーザー距離測定器を取り入れたりはしていますが、おそらく本業の方が見たら笑っちゃうほど旧式だと思います。最近、およそ40年前に現役だったOBの方々と話すことがありましたが、測量の装備は基本的に変わっていませんでした。およそ半世紀、私達はほぼ同じ装備で測量しているということです。

クリスマスも洞窟にこもって一日中測量...

学内測量で実際に一回生に描かせたもの。実際の洞窟をイメージして完成させていく

 1年生ちゃんたちにも測量の訓練をさせます。大体6月ごろに大学の近くの神社で、測量の練習をさせています。一年生たちは、「せっかく苦労して大学に入ったのに、なんでこんなことをしているんだろう」という疑問をギリギリのところで口に出さないようにしながら地べたに這いつくばって測量するわけです。たまに口に出している奴もいます。

 2回生、3回生になると慣れたもので同じ洞窟に3日連続で入って測量したりしてもへっちゃらです。流石に5日を超えだすと精神が崩壊しそうになりますが、メンタル管理も上回生には必須スキルなのでなんとか耐えてます。そういえば去年のクリスマスは洞窟で測量していました。世の大学生たちが、愛する彼女彼氏と一緒に街に繰り出している中、私達は洞窟にこもって一日中、コンパスの針を眺めていたということです。改めて文章に起こすと猛烈に悲しくなってきました。

 データをあらかた図り終わったら洞窟から出てあとは延々データの打ち込みと修正です。ココが一番の発狂ポイントなのですが、やっていることは地味すぎるので今回は割愛させていただきます。そうして出来た測量の骨組みに、洞窟の壁などの情報を書き写していって完成になります。完成したときは多少なりとも感動しますね。

洞窟の中で地図を仕上げていく。ここで書いた地図をもとに測図は作られる

 私達は、時として誰も行ったことの無い場所を測量したりするのですが、そういった洞窟を必死の思いで測量して、地図にしてやると感動もひとしおです。これはかなり個人的な印象なので洞穴研究会のみんなが分かってくれる感覚ではないとは思いますが「あの洞窟を丸裸にしてやったぜ!」みたいな感動です。もしかしたら私も変態の一人なのでしょうか。

 さて測量についてザッとですが説明してみました。いかがでしょうか。なにやら専門的ではありましたが、私達が普段やっていることについてぼんやりでも分かっていただければ光栄です。次回は、私達が測量して新たに空間を発見した秋芳洞の調査の最前線についてご紹介できればなと思います。各種メディアの方々にも取り上げていただけたので小耳に挟んだことのある方も多いかもしれません。そう考えると今回は次回の記事のイントロダクションみたいな立ち位置でも良いかもしれません。

 闇雲に次回への期待値を上げてしまっている感がありますが、頑張って書いてみます。次回もお楽しみに!