ソーラーカー女子4人組 砂漠で奮闘!
目指せソーラーカー世界一(6)
工学院大学ソーラーチームは、2年に1度オーストラリアで開催されるソーラーカーの世界大会に参戦しています。2017年の世界大会に参戦した女子は、私を含め学生3人と引率の職員の方1人の計4人でした。今回の担当はそのうちの1人、2018年度のチームリーダーで、空力班の村田愛美です。よろしくお願いします。
メンバー30人超、たった4人の女子
大会に参戦したメンバーが総勢30人を超える中で、女子は多くありませんでしたが、女子であることを不利に感じることもありませんでした。確かに、筋力や体力の差はあります。実のところ、世界大会参戦前はその点をかなり不憫に感じていました。しかし世界大会に参戦し、車体整備も事務仕事も、料理も広報活動も、もちろんドライバーも、性別問わず全部のことが重要で、全員が責任を持って最後まで取り組まなければ完走はおろか、人の命も一瞬で奪われてしまうということを実感しました。
何事も、安全が最優先です。男子に負けられない、整備も頑張らないと!! と言って、ぐずぐずなんてしていられません。知識や体力がないことで、ピット作業やレースの邪魔になってチームに迷惑をかけるわけにはいきません。そのため、「私に任された仕事は、何が何でも責任を持って全うしよう!!」「苦手なところは迷わず他のメンバーに助けてもらおう!!」ときっぱり気持ちを切り替えました。そうした考えが功を奏したのかレース中そして現在も、女子であることでやりにくさを感じることなく、日々ソーラーチームの活動に没頭できています。
もちろん来年の大会で世界の頂点に立つという目標は容易ではありませんが、大学や活動を支援してくださる企業様を含む色々な方のお力添えがあるからこそ、思いを実現させるために一生懸命活動しています。とはいえ、時には放り投げたくなるほどキツいことも多々あります(笑)。それでも、最近どんどん活動が楽しいと感じるようになってきたのは、実践と知識が繋がることを少しずつではありますが、実感できるようになってきたからだと思います。そしてなによりも、濱根監督や教職員さん、アドバイザーの皆さん、そしてメンバーの優しさが一番だと思います。
といいつつ、レース以外の海外生活に関しては、女子ならではの苦労や楽しさや驚きがありました(笑)。今回は、そのいくつかを紹介します。
準備は男子以上に大変
実は女子としての準備は男子以上に大変で、オーストラリア出発前から始まっていました。その中から2つを紹介します。
まずは、寝袋の確保です。自前の寝袋では大きすぎたため、チームのコンパクトサイズの寝袋をもっていくことになりました。もちろん、使用後は毎回洗って日干ししているので清潔です。しかし、気持ちとしては少しでも綺麗で暖かそうなものを使いたくて、早めに選ばせてもらいました(笑)。そのため、キャンプでの睡眠は想像していたよりも快適でした。
もうひとつは、日焼け対策です。オーストラリアの紫外線は日本とは質が異なり、紫外線量は日本の5倍といわれています。先輩からも、日本の日焼け止めでは効かないと教えてもらっていたため、どのような対策をするべきかをかなり調べました。その結果、日本の日焼け止めとオーストラリアで調達した日焼け止めを併用し、加えてアフターケアを重視することにしました。レース期間中は灼熱の砂漠地帯を走り、非常に乾燥するため想像以上の保湿が必須でした。結果的には、周囲の人に「焼けたね~」と言われるほど日焼けしましたが、多少は努力した甲斐があり、想定よりは早く落ち着きました。
過酷なキャンプ乗り切る協力と工夫
レース期間中はキャンプ生活が基本で、その半分以上が砂漠です。道沿いに草が生えているところもありましたが、トゲがあったり、所々にアリ地獄があったりと、とても快適とは言い難い環境でした。トイレやお風呂はもちろん、水もない......。そんな過酷な状況であっても、女子であることに変わりはないため、6日間のレースをどのように乗り切るか、女子同士の協力と工夫が不可欠でした。
~重要な虫対策~
オーストラリアの虫は、基本的に日本の虫より大きく、その多くが毒を持っています。さらに、日本の殺虫剤では効果がありません。そのため現地の殺虫剤や虫除けを女子たちで調達しました。最も気をつけなければならなかったのは、靴を脱いで放置しておくと中にクモやサソリが侵入し、気がつかないまま履いてしまうことでした。それを防ぐために、テントに入る際は、靴を脱いだら即座にビニール袋に入れることを習慣化し、メンバー同士でも注意し合いました。また、夜は一人での行動を避け、ライトを携帯しました。
~砂漠のトゲ~
砂漠に生える草は、草というよりトゲでした。長いものから短いものまで鋭いトゲを持ち、いたるところに生い茂っていたため、テントを張るのも一苦労でした。トゲを全て避けてテントを張るスペースがなかったため、草ができるだけ生えていない場所を探し、トゲは横にねかせてテントを張りました。それだけでは心もとないため、テントのなかに余っていた寝袋を開いて敷き、その上で寝袋にくるまって眠りました。
~大切な飲み水~
砂漠にはもちろん、飲み水はありません。レース中は、コントロールストップという9つの指定停車ポイントがあり、そこに小さな売店がある時もありましたが、物価は全て通常の倍以上でした。水があったとしても、それはチームの大切な生活用水であり、レース中に飲み物を買うことは困難でした。そのため、レーススタートの前日にスーパーに行き、6日分の飲料を買い込みました。かなりの重量となりましたが、喉が乾く辛さには変えられませんでした。また、レース中は飲料を女子同士でシェアすることもありました。レース4日目に、私が持参したリンゴジュースが傷んでしまい、女子ドライバーの先輩に飲み物を分けてもらい、助かりました。
初めてのキャンプ生活は、厳しく感じることも多々ありましたが、女子同士で知恵を出し合い協力して乗り越えた日々はとても良い思い出です。それも全て、チームメンバーの支えがあったからであり、感謝しています。
感動のアデレード パフェの衝撃
レースゴール地点となったアデレードでの生活は、女子で行動することがほとんどでした。アデレードは南オーストラリア州の州都で、綺麗な街並みが広がり、華やかで立派な建造物がそびえたっており、つい先日までの砂漠生活が信じられないほどでした。
レースで使用した道具を一斉に掃除した日の夜、"インスタ映え"で有名なお店に行き、「さすがオーストラリア!」というほど大きなパフェを4人でシェアしました。チョコは甘すぎずクリーミーで、シェイクは重すぎずさっぱりしていました。また、上に乗っていたチョコレートボールの中には、車のおもちゃが入っていました。本当においしくて、みんなでおしゃべりしながら食べる時間は楽しいひと時でした。
パフェも衝撃的でしたが、この店が並ぶウィリアムキングロードの雰囲気が感動的で、すべてが輝き、キラキラしていました。"本当のお洒落"を初めて目にするような光景でした。道路にはベンツやフェラーリ、ポルシェといった高級車が並び、お店の中には見るからに富裕層とわかる人々が、優雅なディナーを楽しんでいました。あの時見た、とあるお店のショーウィンドウに飾られていた真っ赤なレザージャケットが忘れられません。素敵なアフタータイムを過ごす人々を目の当たりにし、これからの活力となりました。その日の帰り道、海に立ち寄りました。アデレードは海も綺麗で、とくにサンセットは幻想的でした。日本のように太陽が沈んだ直後も夕日で海が赤く染められることはなく、暗闇を地平線に渡る虹のようであり、とても美しかったです。
新たな挑戦に向けて
世界大会の経験、オーストラリアでメンバーと過ごした時間、全てが大切な思い出です。私個人としても、レースは過酷でしたが、乗り越えられたのは、女子全員の協力があり、それを支えて見守ってくれたチームのお陰です。
現在、2019年の世界大会へ向けた準備の真っ最中です。私はチームリーダーとして、女子ならではの視点を活かし、世界大会優勝のために貢献していく所存です。先輩方が残してくれた技術を受け継ぎ、他にないユニークかつ新しく、次世代を象徴するような車体で、チーム一丸となって世界一を勝ち取ります!!
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