日本経済新聞 関連サイト

OK
skill up-自己成長

池上彰の大岡山通信 若者たちへグローバル時代に学ぶ(上)
背景読み解く力 鍛えて

池上彰の大岡山通信 若者たちへ グローバル時代に学ぶ(上) 背景読み解く力 鍛えて
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 一般の高校生や大学生などを対象に、グローバル時代の学び方や生き方について立教大学で講演しました。その一部を紹介します。世界は日々、動いています。時代を読む視点について、読者の皆さんと考える機会になればと思います。

 世界がサウジアラビアに注目しています。政府に批判的だったサウジ人記者ジャマル・カショギ氏が、トルコにあるサウジ総領事館で殺害されたという問題です。国王の継承者であるムハンマド皇太子の指示があったのか。まるで推理ドラマのような展開ですが、責任の所在次第ではサウジの新しい国づくりに大きな影響が及びます。

◇ ◇ ◇

「指導者は人間の失敗を歴史に学ぶ必要がある」と池上氏(東京都豊島区の立教大池袋キャンパス)

 サウジなど多くの産油国が石油の枯渇を見越して「脱・石油」政策を進めています。世界が電気自動車へと進めば、石油の需要が激減する可能性もあります。そんな事態に備えるため、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイは国際金融都市を目指しています。アブダビは海外の美術館や大学を誘致し、文化教養都市を築こうとしています。

 サウジも新たな取り組みを始めていますが、言論の自由を脅かす事件に政府関係者が関わっているとすれば、海外の国々は投資や協力に慎重になるかもしれません。

 欧州では英国の「欧州連合(EU)離脱」の手続きを巡る交渉が遅れ気味です。現在の予定では、2019年3月の離脱までに、おおまかな取り決めを固めて合意し、20年末までを移行期間にすることになっています。

 ところが「合意なしの離脱」に陥りかねない懸念があるのです。たとえば英国領の北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドは陸続きで、国境管理の交渉は難航しています。

 EUの試みには、域内の様々な障壁を取り払い、ヒト・モノ・カネの動きをスムーズにするという狙いがありました。手続きがうまく進まなければ、人々の暮らしや企業活動に大きな影響が及びかねません。背景には、有利な条件を引き出したい英国と、厳しい対応で新たな離脱を防ぎたい加盟国の双方の思惑の衝突があります。

◇ ◇ ◇

 私は大学でニュースを切り口に国際情勢を読む講義をしています。「背景にあるものは何か」。自分の頭で読み解く力を鍛えることが、自ら人生を切り開くたくましさにつながると考えているからです。

 日ごろテレビで解説をしたり、新聞や雑誌でコラムを書いたりもしています。人々が判断をする際に役立つ情報を伝えたいと考えています。いわば民主主義を育む手伝いをしていると考えています。でも、民主主義は国民自らが追い求めることで初めて根付くものでしょう。その意味で象徴的な出来事があります。

 テロとの戦いを唱えた米国のイラク攻撃が新たな混乱を生んだのです。当時のブッシュ(息子)大統領は「独裁者を排除し、民主化すればうまくいく」と、第2次世界大戦前後の日本やドイツを例にあげたそうです。大正デモクラシーを経験した日本や民主的なワイマール憲法を制定したドイツと事情が異なり、イラクの人々には自ら手にした民主主義の歴史がありませんでした。歴史を知らない指導者の強硬策が裏目に出たのです。

 人間の過ちを歴史に学び、自らの問いに答えを導き出す。これが大学のリベラルアーツ教育の大切さだと考えています。

[日本経済新聞朝刊2018年10月29日付、「18歳プラス」面から転載]

 ※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>