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次代の扉開く学生たちへ(上)デジタル技術で産業社会の流れはこう変わる!
「IoT」「ネット大手」「5G」の近未来

次代の扉開く学生たちへ(上) デジタル技術で産業社会の流れはこう変わる!「IoT」「ネット大手」「5G」の近未来

 デジタル技術が日本のあらゆる産業や社会に変革をもたらしている。人工知能(AI)を活用した新たな製品・サービスが生まれ、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」などで異業種が様々な場面で連携するようになった。海外との交流も容易になり、訪日外国人(インバウンド)関連産業はにぎわいを見せる。容易に世界と「つながる」時代に日本はどう変わるのか。これからの日本を支える皆さんに、未来をつかむための産業界の新たな潮流を紹介していこう。

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【IoT】 製造業を変革

 IoTがものづくりの現場を大きく変えようとしている。近年の製造業では消費者のニーズが細かくなり、多品種の製品を少量ずつでも効率的に作ることが求められるようになってきた。あらゆるデータを生かして、物流やエネルギー、働き方も含めた社会全体で生産の最適化を図る必要性が増している。

IoTを活用して機械の稼働状況を「見える化」した三菱電機名古屋製作所

 中国・北京。三菱電機は7月、IoTの普及を巡って中国政府系の研究所と提携した。提携先の拠点に設けたのがロボットやIoTを活用した最先端の製造ラインだ。来場者の好きなデザイン、色に基づいて人の手を介さずに「一品一様」でフォトフレームを作る。

 ロボットが加工機からフレームを取り出して、ラインに乗せて組み立てる。一連の工程は完全自動化され、ラインの稼働状況はIoTで「見える化」。機械が壊れる前にメンテナンスを促したり、ラインから出荷された製品のトレーサビリティーに役立てたりできる。IoTの先進工場である名古屋製作所のノウハウを生かした。

 IoTの取り組みは官民を挙げた生産改革「インダストリー4・0」を推進するドイツが先行した。中国政府も製造業強化策「中国製造2025」を打ち出している。名称は様々だが、いずれもデータとITを活用した製造業の革新という点は共通している。

 日本の強みは各企業が持つ技術と製造現場のノウハウ。三菱電機とファナック、DMG森精機、日立製作所の4社は、個別に展開しているIoT基盤の間でデータを連携させる仕組み作りで合意した。製造現場におけるIoTシステムの国際競争力を高め、日本勢が工場データ活用を主導することを目指す。

【ネット大手】 独自の経済圏

LINEは異業種連携で独自の「経済圏」を広げている(事業戦略を発表する出沢剛社長)

 インターネット大手が独自の「経済圏」を構築する動きが相次いでいる。LINEはスマートフォン(スマホ)の対話アプリに金融や旅行などのサービスを集約して消費者を囲い込む。ネット通販大手の楽天はポイントを中心にネットとリアルの消費者データを収集する。消費者データを活用して新規サービスを開発し、新規顧客を呼び込む循環を創り出す狙いだ。

 6月に千葉県浦安市で開いたLINEの戦略説明会。出沢剛社長は「LINEはあらゆるサービスの入り口であるスマートポータルになる」と強調した。証券大手の野村ホールディングスや保険大手の損保ジャパン日本興亜、エン・ジャパンなどと提携。アプリの利用頻度を高めることで、あらゆる消費者のデータが集まる仕組みを作る。

 楽天はグループの会員IDやデータ、ポイントサービス事業を統括。ネット通販や金融とIT(情報技術)が融合したフィンテック、19年に参入予定の携帯電話と事業領域を拡大中だ。

 ヤフーは企業や行政のデータと組み合わせて新商品などの開発につなげる「データフォレスト」構想を掲げる。日産自動車やJリーグなどが参加。データを外部とのネットワーク作りの軸に据えようとしている。

【5G】 強力なインフラに

 次世代の通信方式「第5世代(5G)」の実用化が迫ってきた。NTTドコモなど携帯大手が商用化の準備を進めており、日本では2020年に本格的なサービスが始まる予定だ。通信速度は現状の「4G」に比べて約100倍速くなり、4Kといった高精細な動画も瞬時にダウンロードできるようになる。産業のあり方を根本から変える可能性を秘めている。

KDDIは野球選手の打席の映像を観客席に5Gで同時配信した(沖縄県での実証実験)

 5Gの利点は動画視聴や高速ダウンロードだけではない。IoTやAIなどと組み合わせることで、あらゆる産業の基盤になる可能性を秘めている。

 例えば自動運転。車両に取りつけたカメラの映像をネット上のクラウドに送り、AIで分析する。前の車がブレーキをかけたのを判断して車両に減速の指示を送るなど、一連の流れがスムーズにできるようになる。

 複数の端末が同時に回線を利用しても速度が落ちにくいのも5Gの特長だ。今後は携帯電話やタブレットだけでなく、家電やメガネ型のウエアラブル端末など、身の回りのあらゆる製品がネットにつながるようになる。5Gは急増するデータ量をまかない、私たちの日常生活をより便利にするための強力なインフラとなる。

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わくわく感、至るところに
 「この先はさらにすごい変革がやってくる。ワクワクするような時代に生まれたことを幸運に思う」。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏はここ数年、「ワクワク」という言葉を頻繁に使う。
 デジタル革命の先にある「より良き社会の実現」のために孫氏はファンドなどを通じ巨大IT(情報技術)や、スタートアップ企業への出資に余念がない。出資先リストには、配車サービスの米ウーバーテクノロジーズ、半導体設計の英アーム・ホールディングス、画像処理半導体の米エヌビディアなどそうそうたるデジタル企業が名を連ねる。孫氏はそれを群戦略と呼ぶ。
 そんなアグレッシブに世界を駆け回る孫氏が「まさか」と小躍りするような出来事が今年初めにあった。日本最大の企業、トヨタ自動車からの提携の申し入れだった。
 ほぼ同じタイミングで豊田章男トヨタ社長は米国で開かれた世界最大の家電見本市「CES」に登壇し、こう宣言した。「車社会を超え、人々の様々な移動を助ける会社、モビリティー・カンパニーへと変革する」。孫氏と同様、新車発表会の時などの場で「ワクワク」をよく用いる豊田氏。変革のため秋波を送ったのが孫氏率いるソフトバンクだったのだ。
 豊田氏は「(自動運転に必要な技術のある)会社のドアを開けたら、必ず孫さんが前に座っていた」と孫氏の群戦略に舌を巻いた。
 経済社会で頻繁に登場するイノベーションという言葉。経済学者でこの言葉を社会に浸透させたのがシュンペーター氏だった。今から約100年前に署された同氏の「経済発展の理論」では「新結合」という言葉でイノベーションの考え方を紹介している。トヨタとソフトバンクの組み合わせはまさに新結合だ。
 機械と電子部品の固まりのような自動車はネット社会と縁遠い業界と言われていた。トヨタは自動車産業を再定義してデジタル革命に飛び込む。
 トヨタとソフトバンクの衝撃的な記者会見が行われた数日後、豊田氏と孫氏が再びメディアの前に登場した。「東京モーターフェス2018」の会場でトークショーが開かれたのだ。そのトークショーを仕切ったのがマツコ・デラックスさん。毒舌家で知られるマツコさんだが2人を前にこう語った。「この組み合わせはワクワクする」
 業界の枠やこれまでの常識が通用しなくなりつつある今、新しい組み合わせによるイノベーションが確実に起きている。ワクワク感は至るところにある。(編集委員 田中陽)

記者会見で握手するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長㊧とトヨタ自動車の豊田社長(10月4日、東京都千代田区)

[日本経済新聞朝刊 2018年11月23日付「特別版」から転載]