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次代の扉開く学生たちへ(下)何の仕事をしたい? どんな会社が向いている?
3人の先輩たちに聞く「自分を生かすキャリア選び」

次代の扉開く学生たちへ(下) 何の仕事をしたい? どんな会社が向いている?3人の先輩たちに聞く「自分を生かすキャリア選び」

 2020年春卒業予定の学生は早くから就職活動に入り、試験を受ける企業を絞り始める学生も多いはず。周りの友人と足並みそろえていざ就活を始めたはいいものの、自分が何の仕事をしたいか、向いているのか最初から分かる人はどれだけいるだろうか。漠然と志望する業界や企業名が思い浮かんでいても、目指す社会人像や働く意義や目的を明確に描ける学生は少ない。独自にキャリアを歩み活躍する3人の社会人に、仕事の選び方と働くことの意義について話してもらった。

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継続してオンリーワンに

manma社長 新居日南恵氏(24)

新居日南恵氏

 就活を前に悩んで、自分が何をしたいかが分からないという学生から相談を受けることが多いです。私は「好きなものを3つ挙げてみて」と伝えるようにしています。何となく思いついた好きなことでも、長く継続して深められたら、自分だけの「オンリーワン」の強みにつなげられます。

 1年生からインターンに行く意欲的な学生もいますが、話を聞くと「みんなが行くから」という子もいます。何のためにインターンに行くかという目的意識がなければ、時間の無駄だと思います。本当に自分がやりたいことを探す仮説づくりに時間を充てた方がいいでしょう。

 「もし私が1年生に戻れたら多くの社会人に話を聞きに行くよ」。大学に入学したばかりの頃に先輩から勧められたことです。私はすぐに行動に移して、ユニークな働き方をしている人を数珠つなぎ式で紹介してもらい、1年生の最初の半年間で20人以上に会いに行きました。大学時代にしていたことを必ず聞くようにして、成長のタネとなることを探していきました。

 自分だけの領域をもっていれば一緒に何かできたと思うようにもなりました。関心のあった「家族」をテーマにワークショップを開いたりして、manmaを起業しました。「こんなことが楽しいかもしれない」と仮説を出しては試行錯誤を繰り返してきました。若者向けの家庭版OB・OG訪問の「家族留学」は立ち上げて1年後に大きく拡大しました。

 最初は1人で始めましたが、自分と同じように考える仲間が集まるようになりました。卒業に際して今後どうするか葛藤もありましたが、大学院に進学し事業として続けることを決めました。

 事業化して企業にお金を頂くとなったら、先方の課題に対して自分たちが何の価値を提供できるか、自分たちが提供できる価値とは何かを考えさせられました。

 地道に企業などへの訪問を繰り返し、とにかく遠回りしてきましたが、大企業の研修や自治体との仕事も増えてきました。共働きの働き方や少子化など企業や自治体の社会的な課題に対し、次世代に残したい素晴らしい家庭をマッチングする当社の価値が認識されたのだと思います。

 自分の価値を、社会的な価値として発揮するには、世の中の課題や社会の動きを知る必要があります。私も少子化など社会課題について考えを深める中で、課題の別の側面や他の問題にも目を向けるきっかけになりました。今の若い世代はあまり外向けに思いを表現せず、とにかく失敗を恐れる傾向があるようにも思えます。ただ行動を起こさずに見ているだけでは分からないことばかりです。

 自分が何をしたいか見つからないと嘆くより、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるというように、仮説を考え実験や挑戦を重ねていけばきっとやりたいと思えることに出会えるはずです。

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やってみないと分からない

立教大学経営学部教授 中原淳氏(43)

中原淳氏

 学生時代に将来のことで悩んだ時に、僕にしかできないことは何だろう、何で社会に貢献できるだろうと考えました。研究の方が自分の強みを生かせると思い、大学院に進学しました。教育現場など学びの研究で博士号を取りましたが、20代後半になって今後も一生かけて研究を続けることなのかと悩みました。

 頭の中でふと思い浮かんだのが満員電車に揺られて通勤するおじさんたちの姿。社会に出た後の彼らの能力開発をちゃんと研究している人は日本国内にいないと気付き、人材開発を研究する道を選びました。ただその分、最初の5、6年は研究にならず、本の執筆や毎日のブログ更新を続け、やっと研究らしくなってきました。

 僕は20年ほど教員をやってきましたが、どんな学生でも最初はみんな何がやりたいかなんて分かっていません。何かの経験を通して得られる違いや違和感からしか、自分が何をやりたいかは分からないのです。

 たとえば「私なんかリーダーシップが苦手なので率いる役割はダメです」という学生もいます。ただ本当にダメかはまずやってみなければ分かりません。サークルやゼミでも何かしらのグループでリーダーになる機会を設けてみるべきです。

 学生は皆それぞれにスイッチを持っています。僕の仕事はそのスイッチを見つけ、押してあげることだと思っています。

 例えば、僕のゼミの学生が企業の講演会や職場に行く機会をつくっています。企業のダイバーシティー講演会に行ってみたら管理職はほとんど男性だったなど、社会の現実に触れ、好奇心が生まれるのです。学生にとって企業説明会などで出てくる社員やリクルーターはキラキラした人ばかりに見えていますが、実際の職場を見て社員の話を聞くことが多様性の実態を感じる機会になっています。

 今や人生100年時代と言われ、織田信長の戦国乱世の頃から寿命は倍になります。長生きするからには大学卒業後に何回でも学び直す機会はあります。終身雇用で22歳から65歳ごろまでずっと同じ会社にいる人は今でさえ2割もいないはず。これからはさらに少なくなるでしょう。

 最初から自分の専門ややりたいことをしっかり選べる学生の方が少ないです。まず普通に働き生計を自ら担えるようになることが大事。「適職感覚」を判断するには少なくとも3年は必要です。

 よほど合わない限り、最初の1年は見えなかった会社の仕組みや仕事の面白さが分かってくるようになるはずです。その後やってみたいことが分かったら別の道を歩んでみればいいのです。

 僕は「自分のキャリアを他人や組織任せにしない」と学生に伝えています。自分がどうなりたいか、変わりたいかというキャリアの主導権は常に自分が握っている意識を持ってほしいと思います。

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何のための仕事か知ろう

ユニリーバ・ジャパンHD取締役 島田由香氏(45)

島田由香氏

 ユニリーバで人事や働き方改革を担当していますが、こんなに最高の仕事はないと思うくらい人事が好きなんです。人は誰かの一言で元気になることもあれば、逆に気力をなくしてしまうこともあります。それはどうしてなのか、人のモチベーションに小さい頃から興味がありました。

 大学生になって人と組織を学ぶゼミに入って、人事の仕事を知りました。「私がやりたい仕事はこれだ!」と思い、就活では自分が興味のある企業の人事や人材系企業に応募しました。

 就活で応募した企業は少なかったのですが、当時の友人に「色々な企業の中を見られるのは就活の時くらいしかないのに」と言われました。見ていないうちから自分に向かないと思い込んでしまうのはもったいないです。就活生には自分の五感をフルに働かせ色々な企業を見てほしいと思います。

 「グローバル企業だから」など頭で考えるだけでなく、例えば会社に入って感じる雰囲気とか、「何かこの会社好きだな」という直感を大事にしてほしいです。

 最近は仕事を通じて社会貢献をしたいと考える学生が多いです。大事なのは自分が何のために仕事をしているかを知ることです。入社して任せられた仕事が希望と違って失望する人もいるかもしれませんが、そこで辞めるのではなく、周囲の人にその仕事が何につながっているのかを聞いてみてください。上司はなぜこの仕事を任せたのかを説明する、双方の努力が必要です。

 私は大学を卒業してパソナに入社しましたが、新人の時は営業や企画など様々な仕事を経験しました。当時まだ日本では知られていなかったアウトソーシングを立ち上げるリサーチもしました。私が調査することで新しいビジネスを応援できる、社会貢献につながると考えていました。

 パソナで4年勤務した後、米国の大学院に留学し組織心理を学びました。大学生の時にも進学を考えましたが、実務経験が必要と感じ、まず働くことを決めました。大学院卒業後に米ゼネラル・エレクトリック(GE)の日本法人に入社し人事を経験しました。キャリアを築いてきた実感はなく、人事の仕事に楽しんで取り組んできました。

 出産して仕事復帰した時は我慢の連続でした。以前はいくらでも仕事ができたけど早く帰らないといけない。今振り返ると「良い母親」でいようと思いすぎていました。忙しくて部屋が片付いていなくても、母親が笑顔でいることが子供には一番大事。子育ては予測できないことの連続ですが、自分を成長させてくれる機会だと思います。

 就活では自己分析をする人が多いですが、自分がワクワクするのはどんな時かを考えてみてほしいです。ワクワクというのはエネルギーが湧いてくる時。それが分かると自分の強みになり、仕事で最大のパフォーマンスを発揮できるようになります。

[日本経済新聞朝刊 2018年11月23日付「特別版」から転載]