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池上彰の現代史を歩く多様性の国フランス 反骨精神、古い社会変える

池上彰の現代史を歩く 多様性の国フランス 反骨精神、古い社会変える
=テレビ東京提供
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 現代のフランスを象徴するキーワードは「移民大国」と「反骨精神」でしょう。このところパリ中心部で繰り広げられる反政府デモにも、反骨精神の片鱗(りん)が見られます。それは植民地解放や五月革命といった歴史と深い関わりがあります。多様性を重んじ、女性の進出を促す社会はなぜ実現したのか。今回はパリとマルセイユを訪ね、人々の声に耳を傾けながら、その歩みを振り返ります。

現代史を刻んだ歴史の舞台

 凱旋門からシャンゼリゼ通りへ。現代史を巡る旅は、おなじみのパリの観光名所からスタートです。ここはフランスの歴史を刻んだ舞台でもあります。

 1940年6月、パリを占領したドイツ軍が行進。ナチス・ドイツの旗が翻りました。アドルフ・ヒトラーは「パリを訪問するのが夢だった」と言ったそうです。フランスには屈辱の歴史です。後に祖国の解放に尽力したシャルル・ドゴール将軍が市民の歓声を浴びたのもこの道でした。

パリの学生街「カルチェ・ラタン」で、五月革命の歴史や意義について振り返る池上氏(右)=テレビ東京提供

 転じて2018年7月、サッカーW杯で優勝したフランス代表選手らが凱旋しました。選手にはアフリカ系移民にルーツを持つ若者たちが数多くいました。この「多様性」がフランス社会の断面でもあるのです。

 フランスの人口約6700万人のうち、1割程度が海外で生まれた人々とみられます。移民大国と呼ばれるゆえんです。その背景には第2次世界大戦後、フランスの植民地が歩んだ歴史と深い関係があります。

 パリから高速鉄道「TGV」で約3時間半。美しい街並みが広がる南仏マルセイユへ向かいました。フランスでも特に移民の多い街です。子どものころにアルジェリアから移り住み、料理店を営むラクダールさん(74)に会いました。「アルジェリアで学校に通えたのはフランス人だけ。父は子どもたちに教育を受けさせたいと考えたのです」

1960年は「アフリカの年」

 1954年、フランスは独立を唱えた植民地アルジェリアとの戦争に突入しました。死者は約100万人とみられます。事態打開を託されたのは第2次大戦の英雄ドゴール。大統領に就任後、「植民地独立」へと方針転換します。

 第2次大戦後、民族自立や国家独立の機運が高まっていました。60年は「アフリカの年」といわれました。フランスからの14の国々に加えて、合計17カ国が次々独立したからです。アルジェリアも62年に独立を果たします。フランスにとっては、経済成長を支えるうえで安い労働力を確保する狙いがありました。

 しかし、近年はイスラム過激派によるテロが頻発。移民をルーツに持ち、フランスで生まれ育った若者がテロ実行犯になるホームグロウンテロリストに衝撃が走りました。差別や貧困によって自分の居場所が見つからず、フランスを憎んでしまうのでしょう。そこでイスラム教への恐怖感が新たな課題を生んでいます。

 マルセイユでは、イスラム教徒がビルや倉庫など目立たない場所にあるモスクで礼拝をしていました。アルジェリア系移民のザハラさん(71)は「移民はどこでも身分証の提示を求められます。どうして子どもや孫まで差別を受けるのでしょう」と嘆きます。

 意識調査では約60%の国民が「イスラム圏からの移民の受け入れ停止」を支持したそうです。フランス革命以来の精神である「自由・平等・博愛」の博愛が揺らいでいます。

社会を変えた五月革命

 フランスの人々を理解するもう一つのキーワードは「反骨精神」でしょう。

 その代表例が1968年に始まった五月革命です。大学進学者が増え、学生たちは古い教育政策に不満を持ち、学ぶ環境の改善を訴えたのです。学生たちは警官隊と衝突し、やがてデモは労働者や市民を巻き込んで拡大します。

 五月革命とは何だったのか。当時、ソルボンヌ大学の学生で、デモリーダーの一人だったジャン・マルセル・ブグローさん(72)に聞きました。「社会を変えたかった。女性は解放され、成人年齢が下がりました」。若者たちが縛られてきた古いしきたりや慣習を打ち破ったのです。

 実際、五月革命の後、フランスでは男女平等の精神や女性の社会進出が広がり、男女の関係にも大きな変化が生まれたといえるでしょう。フランス革命に象徴されるように、権力に迎合しない「反骨精神」が受け継がれているのです。

「もう一つの民主主義の国」

 この精神は米国に「No」と言える外交に表れています。フランスは米国と異なる「もう一つの民主主義の国」といわれます。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米国のパリ協定離脱表明を「重大な過ちだと思う。アメリカにとっても、地球にとっても」と批判しました。フランスはかつて国連決議がないとして、イラク戦争にも加わりませんでした。

 フランスには歴史や伝統を重んじながら、多様性を受け入れ、社会を変えていこうとする力があります。その源がフランス革命であり、現代史においては五月革命だったのです。過去の「成功体験」が国家の意識を形作るのです。

取材メモから
(1)フランスはアフリカなどから多くの移民を受け入れてきた
(2)フランスの学生運動は社会を大きく変えるきっかけになった
(3)フランスの反骨精神は政治や外交の世界にも生きている

◇    ◇

〈お知らせ〉 コラム「池上彰の現代史を歩く」はテレビ東京系列で放映中の同名番組との連携企画です。ジャーナリストの池上彰氏が、20世紀以降、世界を揺るがしたニュースの舞台などを訪れ、 町の表情や人々の暮らしについて取材したこと、歴史や時代背景に関して講義したことを執筆します。同番組の関連映像は動画配信サービス『Paravi(パラビ)』で配信します。

[日本経済新聞朝刊2018年12月17日付、「18歳プラス」面から転載]

※日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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