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日本経済新聞「未来面」
学生から日本特殊陶業会長兼社長へ提案
「健康を数値化する」

日本経済新聞「未来面」 学生から日本特殊陶業会長兼社長へ提案「健康を数値化する」

 日本経済新聞の未来面は、読者や企業トップの皆さんと課題を議論し、ともに作っていく紙面です。共通テーマは「革新力」です。今回は日本特殊陶業会長兼社長・尾堂真一さんからの「新しい時代の医療や健康の在り方は?」という課題について、学生の皆さんから多数のご投稿をいただきました。

【課題編】新しい時代の医療や健康の在り方は?

尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

 読者の皆さんにとって、自動車部品メーカーの我が社が医療分野について、お話しすることに違和感を抱かれるかもしれませんね。しかし自動車の内燃機関という過酷な環境で使われている我が社の製品や技術が幅広い領域で活用されることは必然の流れだと思います。

 実は既にセラミック技術を応用した人工骨の製造を手掛けています。主力商品のスパークプラグの製造は人工骨のそれと似通った工程で出来上がります。コアの技術力を医療分野で使ってもらっていて、この実績を基に、医療分野でもっとお手伝いできないかと考えています。

 将来のEV(電気自動車)化や電動化の流れの中で会社の事業や構造を転換していかなければなりません。我が社の中核となるセラミックス材を使った材料、加工、製造のそれぞれの技術をいかせる分野の在り方について役員や多くの従業員と話し合った結論の一つが医療分野だったのです。基本理念の「良品主義」に裏打ちされた取り組みです。

 自動車部品同様に医療分野への参画は命に関わる仕事ですから生半可な気持ちでは駄目です。背中を押してくれたのは社内の議論での出来事です。若い人たちが医療分野について有意義な提案をしてくれたのです。我が社の将来だけでなく人間の将来について真剣に向き合っていることに感銘を受けたのを覚えています。それで覚悟を決めました。

 自動車分野で培った厳しい品質管理のノウハウを医療の分野でいかし、世の中に貢献したいという気持ちです。我々のルーツである森村組が設立した「森村豊明会」は長く医療関係に助成をしており、そうしたDNAが私たちの中に刷り込まれているような感じもしています。

 具体的な事例を紹介しましょう。自動車用の酸素センサーの技術を応用して在宅療法で使われているのが「医療酸素濃縮装置」です。呼吸不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで肺の機能が低下した患者さんに自宅で濃縮酸素を供給します。患者さんの状況をモニタリングして同時にお医者さんに情報を提供しています。

 また「超音波センサー」によって脳の細かい血管の血液を測定、脳疾患を検出する製品も検討中です。患者さんの負担が少なく、病気の早期発見などにもつながると思います。我が社の技術で社会貢献していきたいです。

 そこで読者の皆さんに問い掛けをします。日本はまだ医療・介護などの公的な制度は維持されています。ただ国の財政事情を考えればいつまでそのシステムが機能するかは疑問符が付きます。病気にならず健康的な生活を送るためには自分、企業や社会全体は何をすればよいのでしょうか。「新しい時代における医療、健康の在り方」についてのアイデアをお寄せいただきたいと思います。

(日本経済新聞2018年12月3日付)

◇    ◇

【アイデア編】

| 健康を数値化する

 奈良 勇輝(一橋大学法学部3年、21歳)

 あらゆるお金の動きがオンライン決済になり、個人の消費活動のすべてがデータ化される。いつ、どこで、何をどれくらい食べたのか、Suica(スイカ)といったICカード乗車券などの記録から、帰宅や出社の時間を割り出し、何時間寝たのかわかる。それらの「生活の全記録」から、健康のリスクを人工知能(AI)が数値化し、「健康値」が個人の信用情報となる。ローンを組む、保険に加入する、就活をする、そんなときに入力必須の情報となり、学歴、収入、健康値が三高と言われるのかもしれない。そこからまた、一人ひとりが健康に気を遣う社会が生まれ、健康寿命が延び、社会保障費が減るサイクルができあがる。もっとも、一番の勝者はその数値を算出するビッグデータとして多くのユーザーを抱え、決済サービスを提供するIT(情報技術)企業だろう。さまざまな分野に進出した「IT企業」が「グローバル企業」のような死語になったとき、健康社会が実現しているのかもしれない。

| AI+コンビニ受診

 水谷 将明(名古屋大学情報学研究科修士1年、23歳)

 気軽に病院を使う「コンビニ受診」という言葉がある。休日診療をコンビニ感覚で手軽に使うという意味だ。この言葉の意味をまったく別のものに変えたい。夜間や休日に病気やけがになった場合の薬を実際のコンビニエンスストアで24時間買えるようにする。現在は、薬剤師などの資格を持った人しか販売できないので、全てのコンビニで薬を売ることはできない仕組みになっている。そこで、人工知能(AI)を使った24時間無料のAI診察装置をコンビニに設置する。この装置に薬の説明から販売まで行ってもらう。もし、重症と判断されれば、今開いている病院を紹介する。店員も医者も一切関与しないので負担を減らせる。この計画の成功には設置するコンビニ業界だけではなく、装置を作る医療機器メーカー、薬を提供する医薬品メーカーなどが協力していく必要がある。社会が協力して機械の力も借りながら、医者の仕事を減らして重症患者に集中できる仕組みをつくろう。

| 明るい高齢化社会

 小林 諒子(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、20歳)

 シニア限定のジムや医療センター、カフェなどが入った施設を各地につくったらどうか。現在の日本は「高齢化社会」といわれ、医療費や介護費の問題、また認知症患者の急増など多くの問題が生じている。高齢者は歳を重ねるにつれ、不安を抱え自分をお荷物のような存在だと感じていく。そんな高齢者が集い合い、シニア層向けの無理のない運動ができる場所、自分の悩みを聞いてもらえる場所、同じような考えを持つ人達と交流する場所があれば、彼らの生活は豊かになり、生きる事の楽しさを見いだせるのではないだろうか。「高齢化社会」はマイナス面ばかりで高齢者が日本のお荷物であるというような考えは減るだろう。また、多くのものが人工知能(AI)にとって代わる時代だからこそ、交流の場というものが、生活に豊かさを与えてくれるのではないかと思う。高齢者の生活が豊かになることで、次世代の未来も明るいものになるだろう。

◇    ◇

【講評】尾堂真一・日本特殊陶業会長兼社長

 医療や健康に関する私の問い掛けは「命」への問い掛けにもつながり、極めて奥が深いテーマだったはずです。それでも多くの投稿が寄せられたことに本当に感謝します。読者の皆さんからのアイデアを読んでいてこれらのテーマは解決に向けて実現可能性が極めて高い、夢物語ではない環境になってきていることも実感しました。

 一つ一つを読んでいて「もしかしたら身近なところで医療や健康について常々、思うところがあるのではないか」と感じさせるものがありました。だからこそアイデアに具体性があり、腑(ふ)に落ちるものになっているのだろうと感じました。

 「『健康』という信用を数値化する」は大変、面白いアイデアです。数値化することで健康に一層、注意を払うことになります。結果的に国の医療関連の財政事情も改善されていくことでしょう。個人情報との兼ね合いもありますが、そこには解決策が見いだせるはずです。

 「AI+コンビニ受診」は5万店超というコンビニエンスストアの拠点数の多さ、24時間営業という利便性と自宅からの近さを活用するものです。人工知能(AI)によって従業員の負担軽減もできそうです。メディカル(医療)とリテール(小売り)の融合ですね。「明るい『高齢化社会』に向けて」はシニアに親しまれるコミュニティーの場所の大切さを説いていますね。優しさの思いが伝わる内容として読みました。実は94歳になる私の母は昨年からグループホームに入り、最初は戸惑っていたようですが今では「まだまだ長生きしたい」と笑顔で話してくれるようになっています。

 自動車の内燃機関という過酷な環境で使われている我が社の製品や技術を医療分野でいかそうとしているのは社会貢献への強い思いからです。皆さんからのアイデアの中には当社のセンサー技術をいかしてデータを利活用できるものもあり、我が社の方向性と近い内容に驚くと同時に意を強くしました。本当にありがとうございます。

(日本経済新聞2018年12月25日付)

【「未来面」からの課題】
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