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池上彰の大岡山通信 若者たちへ冷戦終結から30年
歴史に学び未来を開く

池上彰の大岡山通信 若者たちへ 冷戦終結から30年 歴史に学び未来を開く
authored by 池上彰東京工業大学特命教授

 2019年、日本では「平成」というひとつの時代が終わります。世界に目を向ければ米ソが鋭く対峙した東西冷戦の終結から30年の節目を迎えます。「混沌とする世界はどこに向かおうとしているのか」。未来を読み解く鍵は歴史にあります。一緒に考えてみましょう。

◇ ◇ ◇

 18年12月、米ワシントンで第41代の大統領を務めたジョージ・H・W・ブッシュ氏の葬儀がありました。歴代の大統領経験者が参列しました。

 思い出深いのは、1989年12月、ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)のミハイル・ゴルバチョフ共産党書記長(最高会議議長)との首脳会談でした。東西冷戦の終結を宣言したのです。歴史に残る一ページです。

2017年11月の米中首脳会談(北京)

 第2次世界大戦後、世界は資本主義陣営と社会主義陣営に分断されました。核兵器の恐怖が"平和"を創り出すという異常な時代でした。社会主義経済の行き詰まりや、膨大な軍事費の重荷が、両陣営を歩み寄らせたのです。「世界は平和になる」。人々は期待を膨らませました。

 世界はいま、大国間には新たな対立が生まれ、戦争のない世界を目指してきた試みは重大な岐路に立っています。

 たとえば米国。トランプ大統領が「米国第一主義」を掲げ、中国との緊張が深まっています。関税を巡る貿易交渉にとどまらず、IT(情報技術)産業を巡る確執など、様々な分野での対立が世界の政治経済の新たな火種になってきました。

 とりわけ18年10月のペンス米副大統領による講演は衝撃的でした。経済大国となった中国への容赦ない対抗心をむき出しにしたからです。アジア地域でも、中国との緊張関係は南シナ海から太平洋へと拡大していくかもしれません。

 欧州は難民問題などに揺れています。ドイツのメルケル首相は昨秋、難民政策を巡って反対派と対立。党首を辞任し、21年の総選挙には立候補しないで引退すると宣言しました。ドイツは第2次大戦の反省から海外から多くの人々を受け入れましたが、その寛容さが失われつつあります。

 欧州連合(EU)は「ひとつの欧州」を目指し、労働者が国境を越えて働くことを可能にしました。英国の人々がEU離脱を決断した背景には、労働者が大量に流れ込み「仕事が奪われた」という不満がありました。

◇ ◇ ◇

 冷戦後の世界で注目しておきたいのが民族と宗教の存在でしょう。旧ユーゴスラビア紛争は民族対立という亡霊を復活させました。「アラブの春」はシリア内戦へとつながり、欧州を目指す多くの難民を生みました。

池上彰氏

 米国、中国、ロシアの大国の覇権争いは、世界が「新冷戦」の時代に入ったことを印象づけました。日本は好むと好まざるとにかかわらず、大国の利害を巡る攻防に巻き込まれることを覚悟しておく必要があります。

 若者にとって歴史は年表の出来事かもしれません。でも、歴史は人間が同じ過ちを繰り返すことを教えてくれます。その一方で先人の英知をたどれば、対立や危機を乗り越える道が開けるかもしれません。自分なりの視点を持ち、時代を読み解く力を養っておくことが大切です。

 日々のニュースを常に歴史の中に位置づけて考える。今年からそんな努力をお勧めします。

[日本経済新聞朝刊2019年1月7日付、「18歳プラス」面から転載]

※大岡山は池上教授の活動拠点である東京工業大学のキャンパス名に由来します。日経電子版に「現代史を歩く」「大岡山通信」「教養講座」を掲載しています。

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