起承転結が就活生を惑わす ~ESで企業が求める内容を書けない理由
ホンネの就活ツッコミ論(92)
前回に引き続き、エントリーシート(ES)についてです。今回は「文章構成にこだわりすぎると危険」がテーマです。なお、エントリーシートについては、昨年掲載の48回・50回・51回をお読みください。タイトル付けが必要な場合は69回も参考になります。
文章を書く際には構成が必要です。「起承転結」や「序破急」などですね。私もこのコラムを含め、文章を書く際にはどのような構成にするか、考えます。
この文章の構成を真面目な学生ほど、きっちり考えようとします。ところが、それが落とし穴。知らず知らずのうちに企業が求める内容から外れていきます。そして気がつけば選考不通過の連絡の山。つまり、文章の構成が就活生を殺しているのです。本人が気がつかないうちに...。
「自己PRとガクチカ、どう書き分ければいい?」
エントリーシートの添削をしていると学生からよく聞かれる質問が自己PRとガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」の略)の書き分けです。就活初期段階のエントリーシートを添削していると、確かに自己PRとガクチカ、そう大差がありません。自己PRだと「私の強みは~です」→「○○○○(大学または高校以前などの体験談)」→「この強みを貴社でも生かしたいと考えています」などがよくある構成です。
一方、ガクチカだと「私が学生時代に頑張ったことは~です」→「○○○○(大学での体験談)」→「この経験から~が大事であることに気づきました」→「この体験をもとに貴社でも活躍する人材を目指します」などがよくある構成。書き出しが違うくらいでほぼほぼ変わりません。そこで悩んだ学生から、自己PRとガクチカをどう書き分ければいいのか、泣きつかれることになるのです。
日本最古のエントリーシート本でも構成を強調
日本の就活でエントリーシートが導入されたのは1991年。ソニーが学歴不問採用と同時に導入しました。その後、1997年1月に就職協定が廃止。採用の早期化と公募採用が進みます。特に後者の公募採用では、多数の学生が選考に参加することになります。そのための書類選考において、従来のような履歴書では対処しきれません。そこでエントリーシートを導入する企業が相次ぎ、現在に至っているのです。
国立国会図書館データでは日本最古のエントリーシート対策本が刊行されたのは1997年12月のことです(『エントリーシートの正しい書き方』宮原隆史 こう書房)。同書では構成方法について「文章の組立法」と呼び、200字なら「前段・後段」、400字なら「序論・本論・結論」、800字なら「序論・本論・論証・結論(起承転結)」を勧めています。
なお、1990年代後半は東京三菱銀行(現在の三菱UFJ銀行)が600字程度、キリンビールが700字~900字程度の空欄を設けるなど、長めに書かせるエントリーシートが主流でした。2019年現在は各項目とも300字~500字程度とする企業が多数を占めます。
文章の構成はその後も語り継がれるが
国立国会図書館データによると、2019年1月23日現在、同館に所蔵されているエントリーシート対策本(そのうち「エントリーシート」が書籍タイトルに含まれるもの)は476冊あります。いずれの年代のものを読んでも、文章の構成を強調する本が大半を占めます。
本だけではなく、ネットも同じです。さらに言えば、各大学のキャリアセンター・就職課が学生に提供する内定学生のエントリーシート文例もほぼ同じ。文章の構成を強調していなくても、実例として起承転結(または序破急)にこだわったものを読めば、就活生からすればどうでしょうか。その影響を受けるのは明らかです。
経過重視であるべきなのに
ところで企業は学生にエントリーシートを書かせることで何を読みたいのでしょうか。多くの学生は大小関係なく、実績・成果を強調しようとします。知名度の高い大会なりコンテストなりで優勝(または入賞)した、長期間留学した、などの大きなネタから、小学生の時に友達の喧嘩を仲裁した、という小さなネタまで学生によって様々。
ネタの大小の是非はここではおくとします。まあ、ガクチカではお題に「学生」と限定しているのに、高校時代の話はまだしも、小学生のときに喧嘩を仲裁した、というのは論外ですがそれはさておき。このネタの大小について、よく長期間留学もしていないし、アルバイトもありきたりだ、だから書くネタがない、とする学生によく会います。確かに実績・成果、という視点で考えれば大したことがない、と言えるでしょう。
ところが、企業が学生に求めるのは実績・成果ではありません。仮に知名度の高い大会・コンテストで好成績を収めていたとしても、学生が期待するほど評価するわけではありません。仮にその大会・コンテストがその企業に関連するものであれば「好成績なのはいいけど、それを自慢されても困る」で終わりです。もし、その大会・コンテストがその企業に関連しないものであれば「好成績なのはいいけど、それうちに関係ないよね」で終わりです。
では、企業がネタの大小に関係なくエントリーシートのどこを見るのでしょうか。それは、学生の経過です。ありきたりなアルバイト、ありきたりなサークルだったとしても、学生がどんな思いで続けていったか、そこは学生によってそれぞれ違います。そのちょっとした違いのある経過から、内定を出した後に一緒に働けそうかどうか、その企業に利益を出しそうかどうか、などなど見込みの有無を見ていきます。この見込みの有無を見ていくというのはエントリーシートだけでなく面接でも同じです。
文章の構成が経過を排除してしまう
そこで学生のエントリーシート添削をするとき、私は経過を重視するように伝えます。これは、キャリアカウンセラーや大学キャリアセンター・就職課職員なども同じことを言われる方が多数派となりつつあります。
ところが、ここで経過重視で書こうとしつつ、学生の邪魔をするのが他でもない、文章の構成です。特にガクチカについては、経過重視で書こうとしても、結果的には実績・成果重視の書き方に戻してしまうことになります。
学生がよく書くガクチカの文章構成をもう一度おさらいします。「私が学生時代に頑張ったことは~です」→「○○○○(大学での体験談)」→「この経験から~が大事であることに気づきました」→「この体験をもとに貴社でも活躍する人材を目指します」などがよくある構成。最後の「この体験をもとに~目指します」が起承転結の「結」、序破急の「急」、いわゆるオチになります。それはいいのですが、このオチを付けるためには、その前の体験談について地味な経過だと学生が地味すぎる、と考えてしまうのです。
これは企業が経過重視でエントリーシートを見ているから、との情報を得てもなかなか変えられません。その結果、本来なら地味な経過を書いていれば選考通過となるはずのエントリーシートが実績・成果重視であるために不通過となってしまうのです。
そこで私が自己PRとガクチカの違いについて聞かれたときは文章の構成について答えるようにしています。すなわち、自己PRは文章の構成にこだわって問題なし。最後に改めてPRをする(オチをつける)ことになります。一方、ガクチカは無理に文章の構成にこだわらない、文字数が足りない場合はいっそオチをつけず経過のみで終わらせる、それくらいでもいいのではないでしょうか。
そう話すと、学生はほぼ全員、面食らったような顔をします。
「そんなエントリーシートの指導、初めて聞きました」
「さすが、ウイキペディアに『支離滅裂な言動で知られる』と書かれるだけはありますね」
余計なお世話(苦笑)。まあ、騙されたと思ってこれで提出してごらん、と話すとあら不思議。通過率が格段に上がります。伊達にネットで就活のこと知らない分際で云々と叩かれ続けて17年、取材を続けてきたわけではないのだよ、君。
と、話してもなお、ガクチカでも文章の構成にこだわりたい学生もいることでしょう。その場合は、学生の経験から得られたことなどはカット。そのうえで、オチとしては「この体験を社会でも生かしたいです」(句読点除いて16字)くらいの簡略なものにしてはどうでしょうか。その分、経過を丁寧に書けることになります。
文章の構成は、800字ですとか1000字以上ですとか、長く書ける場合には必要になります。が、現在のエントリーシートは各項目とも300字~500字程度。それくらいのボリュームであれば、特にガクチカについては文章の構成にこだわる必要はない、と考えます。就活生の方は騙されたと思ってお試しあれ。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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