世界トップレベルの学生の"スペック"とは
廣津留すみれのハーバードからの手紙(1)

米ハーバード大学3年生の廣津留すみれです。現在、作曲を中心とした音楽を専攻、国際健康(グローバル・ヘルス)を副専攻として学びつつ、Harvard Early Music Societyというグループと、弦楽アンサンブルの部長、そして学内最大のオーケストラHarvard Radcliffe Orchestraのコンサートマスターも務めています。
ハーバード大といえば、伝統と豊富な人脈、優れた教授陣、世界中からトップクラスの学生が集まる学府とのイメージがあるかも知れません。でも、意外と大学院と大学の違いをはじめ、学部生の姿や学び方はご存じない方も多いのではないでしょうか。
私自身も高校3年まで大分の公立校で学び、それまで留学など一度も経験しなかった「日本の普通の高校生」でした。その視点でハーバード大での生活や仲間たちとの交流を、このコラムを通じてお伝えできたらと考えています。

ハーバード大(4年制の学部=college)受験のきっかけは、高校1年生の時にバイオリンで出場したイタリアでの国際音楽コンクールで優勝したことでした。翌年、全額奨学金でニューヨークのカーネギーホールを含む米4州をまわる演奏ツアーを行った帰りに、見学のつもりでハーバード大を訪れました。
大学の雰囲気と聡明な学生たちに魅了
学業と課外活動を両立できる雰囲気と、キャンパスを案内してくれた学生たちのアクティブで聡明な様に魅了され受験を決意しました。
日本のニュースを読むと、日本の高等教育の改革は過渡期にあるようです。学力再生やセンター入試廃止、グローバル化などの文字が目に飛び込んできます。今年、ハーバード大には日本から2人の個性あふれる新入生が入ってきました。しかし、中国や韓国に比べると、毎年ハーバードに入学する日本人学生は非常に少ないのが実態です。

コラム第1回目は、世界中から1年に1600人(注)しか合格しないハーバード大に受かる条件と学びぬく力の2点を、入試前と入学後の私の経験からご紹介します。どのような点が日本の大学と大きく異なるかがわかると思います。(注:ハーバード大の学生総数は約21000人、うちハーバードカレッジ=4年制の学部=は約6700人、大学院などは約14500人)
合格とサバイバルの5条件
(1)信頼:受験生はまず、大学から信頼されなければいけません。受験は、大学側が「この受験生は学校が信頼に値する人物か」「学内の仲間から信頼されそうな人物か」を判断する真剣勝負の場です。
(2)尊敬:ハーバード大のコミュニティーは、お互いを尊敬することが前提で成り立っています。一人ひとり自分の強みを分かっていて、他人と差異化できるという確固たる自信を持っている。だから、人の足を引っ張ったりすることもなく、お互いの良さを認め、自分の属するコミュニティー全体の価値を最大化しようと努力します。
(3)専門分野:米国の大学には文系理系に関係なく入学できて、2年次に専攻を選ぶ柔軟なシステムがあります。入学時にはファウスト学長(同大史上初の女性学長)からも「自分の殻を破るように」と奨励されましたが、誰しも17~18歳までには何となくやりたいことや得意分野は決まっていると思います。学友は皆ひたすらに高みを目指すので、学業・芸術・スポーツを含め、入学時点で高校生のレベルをはるかに超えた突出した得意分野を1つは持っています。
(4)チームワークとリーダーシップ:お互いに信頼関係があるため、チームワークが良く、自ずと作業効率が上がります。自分がリーダーになった時も、チームの一員として働く時も、「目的の遂行」を最優先に据えます。個人的には、「作業効率」はハーバード大生が好むNo.1のキーワードだと思います。
(5)タフな精神力・体力・マルチタスク:複数の物事を同時にこなす「マルチタスク」も必須でしょう。入学したら、勉強はもちろん、リーダー活動やインターン、リサーチ、ボランティア、スポーツや芸術などの課外活動に複数関わるのが普通です。
課外活動は、資金・人材集めから、学校との交渉、運営・企画まで全てを行い、一度に複数のプロジェクトを動かしている学生がほとんどです。それらをすべて毎日の課題提出やテストの忙しい学業の合間に行うので、自然と時間の使い方もうまくなります。とはいえ、1日は24時間しかないので、何時であろうと睡眠が足りなかろうと常に根気よく頑張れるパワーは備えておかなければなりません。
私の場合、バイオリニストとして、オーケストラや室内楽グループで定期的に演奏会を行っています。学外では、日本の子どもたちをグローバル人材として育成する、大分で開催する"Summer in JAPAN(SIJ)"というプロジェクトの共同設立者として、毎年ハーバード大から多くの学生を日本に招いて充実した夏休みを過ごしています。
米国には入試選考の「プロ集団」がいる

ではそんな人材を世界中の志願者から選ぶ仕組みとはどんなものなのか。米国では日本のように一斉に学力試験の点数のみで合格者を決めるシステムがありません。
1~5までの全人格的な「優秀さ」を、SATやAPという試験、高校3年間の全成績と学年順位、エッセイ、面接、履歴書や推薦状から見通してしまう入試選考のプロ集団「アドミッション・オフィサー」という存在があります。入試システムの詳細は後の回でも触れたいと思いますが、日本では組織的にも文化的にもすぐには真似できないでしょう。
とはいえ、当然ながら受験でも入学後も英語力は欠かせません。私のように18年間日本で教育を受けた純ジャパ(純粋ジャパニーズ)は、自分で必死に英語を習得しないとトップ校を目指す米国人の受験生の普通レベルには到達しません。
1万5000英単語をひたすら覚えた
私は日本にいる時、自分で英単語をひたすら覚え、語彙を1万5000語レベルまで増やすことと、スピード感のある多読によって、英文がすらすらと頭に入っていくようになりました。この英語力で、高3まで日本語で習っていた数学、化学、世界史などの受験科目を1年以内にすべて英語に変換して高得点を出すことができました。英語の必要性については多くの議論がなされますが、根本的に英語と日本語では入ってくる情報量が圧倒的に違います。
英語が読めたことで一番の幸運だったのは、米国から遠く離れた大分の自分の部屋で、ハーバード大のホームページを発見したことです。それまではハーバード大に行こう、など思ってもいませんでしたが、願書の申請、入試日程から欲しい学生のタイプまで全て書かれていてとても身近に感じましたし、キャンパス訪問のきっかけになりました。
18年間塾に通う事もなく、ハーバード大の入試準備を1年間でやり遂げることができたのは英語が読めたからです。音符も人にはただのオタマジャクシの羅列に見えるかもしれませんが、演奏家の私には目に入ってきただけで音楽になって聞こえてきます。それと同じように、アルファベットという、それ自体は意味を持たない記号の羅列が、英語が読める人にとっては情報の宝庫となるのです。
次回は、どうして日本の大学ではなかったのか。私がハーバードを選んだもう一つの理由についてお書きします。
1993年生まれ、大分県立大分上野丘高校卒、米ハーバード大4年生。英語塾を経営する母親の影響もあり、4歳で英検3級に合格。3歳から始めたバイオリンで高1の時に国際コンクール優勝。大学では2団体の部長やオペラのプロデューサーなどを務める。2013年からハーバード大の学生らとともに子どもの英語力を強化し表現力やコミュニケーション力を引き出す英語セミナー「Summer in JAPAN」を大分で開催している。
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