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career-働き方

僕たちはどう働くか経営は千本ノック 地味な作業の繰り返し

僕たちはどう働くか 経営は千本ノック 地味な作業の繰り返し
authored by 駒崎弘樹NPO法人フローレンス代表理事

 NPOを運営していると、「理想と現実のギャップ」を感じることはないか、と聞かれることがあります。今回は僕が考える「ギャップ」と、その付き合い方について語りたいと思います。

NPOはボランティアではない

 僕がNPOを始めた当時(今でもそうですが)、多くのNPOは基本的には「善意」ベースの運営がされていて、僕が「経営」という概念を持ち込んだことに対して嫌悪感を持っている人にも出会いました。

 僕はビジネスサイドからきた人間だったので戸惑いましたね。お金のことを考えずにどうやって事業を持続していくのだろうか、と。戸惑いつつも「ああ、だからこの業界は全体として脆弱なんだな」とも思いました。

 これは日本全体の課題だと思います。市民セクターは重要で、政府に代わって民間が担わなければいけない。けれども業界は育っていない。なぜなら「NPOはボランティアでなければならない」というような古いカルチャーが残り、事業が組み立てづらいからです。

 

日経ソーシャルイニシアチブ大賞表彰式の様子。初期の病児保育の利用会員がサプライズで登場

 裏を返せばこれはチャンスだと思いました。ここできちんと事業性を業界にインストールしよう、と。時代の要請はあるのだから、事業としてまわるようになれば、欧米のような頑強な市民社会に変貌していくかもしれない。だったら自分たちが事業として成り立つことを世に示そう。これはまさしく「フロンティア」じゃないか、と思いました。

 見方を変えるとフロンティア、ってありますよね。ぱっと見た感じではただの荒野であっても、それを「未踏地が広がっている」と前向きにとらえられるかどうか。考え方次第だと思います。

理想と現実のギャップはあって当たり前

 とはいえ実際に働き始めると、現実とのギャップに悩む人は多いと思います。それは自分の理想が大きいからではないでしょうか。

 僕はあまり悩みませんでした。ソーシャルビジネスというのは社会問題の解決と事業とを両立させること。渋沢栄一的にいえば「論語とそろばん」の2つがないと成り立たないと思っていたので、お金の計算をしていてもあまり気にならなかった。

 理想と現実のギャップはあって当たり前、と思っていれば、気にならないものです。そこで悩むのは時間の無駄だと思います。

 むしろつらかったのは毎日の「千本ノック」。メールを書いて、人と会って、電話してお願いして、お金を計算して、トラブルを処理して......。それが365日続きました。

 業種や業界によるのかもしれないけれど、僕は経営ってすごく地味なことの積み重ねだと思っています。レンガを積み重ねて建築物を造るように。でもどのレンガも大事なんです。地味なことをバカになってちゃんとやり通すこと、それが何よりも大変でした。

 これから起業したいという人には、まったく絵にならないことの繰り返しだよ、と話しています。よくドラマにあるような「思いついた!」「わー!」みたいなものってまったくないからねって。全然ドラマチックじゃない。「理想と現実にもだえる自分」もいない。

 でもそれでいいんです。ルーティンの繰り返しであっても、結果として人が助かればそれでいい。

日々講演活動にも向かう(写真は日経ソーシャルイニシアチブ大賞表彰式での一場面)

ぶつかった「社会の壁」 仕組み考え乗り越える

 そんな地味な日々ですが、「社会の壁」には毎日のようにぶつかっています。

 あるとき、とてもショックなことがありました。講演会のあと、1人の女性が「駒崎さんは本当にすばらしいことされていますね。でもわたしは使えない」とおっしゃったんです。

 このようなコメントをいただいたことがなかったので驚いてしまい、「そんなことないですよ、ぜひ使ってください」と言いました。

 すると彼女は「私ほどこのサービスを使いたいという人はいないと思います。非正規で働いているので、いつクビを切られるかわかりません。子供が熱を出したら誰よりも預けたいと思っています。けれどフローレンスだと月々5000円、6000円というお金がかかる。時給900円で働いている身にとっては負担が大きすぎます。だから使えません」とおっしゃるのです。

 話を聞いてショックを受けました。社会にとっていいことをしていると思っていたのに、一番必要としている人に届いていなかった。帰りの新幹線で悔し泣きしながらどうすればいいか、考えました。

 その女性はひとり親でした。彼女たちの平均年収は213万円で、日本の世帯年収543万円の半分もないわけです。加えて多くの人が非正規雇用で、雇用保険に入っている人も半分しかいない。失業しても失業保険がもらえないんです。

 そうなると生活保護ということになりますが、「若いから働けますよね」と言われて、もらえないことがある。最後のセーフティーネットのはずの生活保護が、必要な人の3割しか提供できていない。ほんとに貧困までまっさかさまです。

 今の日本では7人に1人の子供が「貧困」状態にあります。多いですよね。だいたい40人のクラスで5人か6人はいるってことですから。親の貧困が子供に引き継がれる、すなわち生まれた瞬間からスタートラインが違うんです。「1億総中流」じゃないんだと肌身で感じました。

 じゃあ、こうした人たちでも使いやすい値段にすればいいと思って「ひとり親プラン」を作りました。月々1000円でベーシックプランと同じサービスが受けられるという超激安パックですが、当然赤字になりました。

 そうだこういうときこそ寄付だ、と思い、お金を持っていそうな外資系の企業を回ったんです。「お金ください」って一生懸命英語で話したら、何百万かもらえたんです。

 なんてちょろいんだと思って「よしみんなで外資系の金融機関まわるぞ」なんて言ってたら、リーマン・ショックが起こってそんな雰囲気じゃなくなっちゃって......。せっかくプランを作ったのに手元にあるこの何百万かがなくなったらおしまい、みたいになりました。

オバマ大統領が救ってくれた!

 この状況を救ってくれたのがオバマ米大統領でした。なんて言うと大げさですが、苦しんでいたとき、ちょうどオバマ現大統領が大統領選を戦っていたんです。

2008年の米大統領選で遊説するオバマ大統領(2007年8月24日、フロリダ州の遊説会場)
 

 実はオバマってシカゴの元NPO職員なんです。そこから人権派弁護士になって、上院議員になった人なので、お金なんかないはず。お金ないのになんでこんなナントカドームとかで演説できるんだろう、と思って調べてみたら、なんとインターネットを使って寄付を集めていた。数千円程度のお金を何百万人もの人から集めていた。これだな、と。

 1つの企業からポン、とお金をもらうのは楽だし効率的ですが、その企業がダメになったらお金ももらえなくなってしまう。ネットで薄く広く集める方が継続性があると思いました。寄付に懐疑的な意見もあったのですが、いざやってみたら結構集まりました。「ひとり親に育てられた」というお医者さんとか集まってきてくれて、何とか続けることができました。

 これは「社会の壁」を1つ乗り越えた話です。いかにして壁を乗り越えるか。そこを考えることこそが、我々の創造性です。もちろんこれで「ひとり親問題」がすべて解決するわけじゃない。けれど庭先でもいいからちょっとずつ「解決の芽」を育てていけば、いずれは大きく育っていく。まずは小さな答えを積み重ねていけばいい、と考えています。

[日経電子版2013年10月1日付]

駒崎弘樹(こまざき・ひろき) 1979年東京都生まれ。99年慶応義塾大学総合政策学部入学。在学中よりITベンチャー経営に携わる。卒業後フローレンスをスタート、日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスとして展開。13年4月に内閣府「子ども・子育て会議」委員に就任。 一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。

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