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エンタウオッチング名物マネージャーが明かす
「ももクロ」育成秘話

エンタウオッチング 名物マネージャーが明かす「ももクロ」育成秘話
authored by 日経エンタテインメント!

 ここ数年、多くのグループが乱立し、しのぎを削る「アイドル戦国時代」と呼ばれる状況が続いている。そのなかでも、大きな成功を収めた1組が、「ももいろクローバーZ」(以下、ももクロ)だ。

 2008年に「ももいろクローバー」として結成。何度かのメンバー交代を経て、2011年4月に現在の百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、有安杏果、高城れにの5人組となった。2012年末には、目標としていた『NHK紅白歌合戦』に初出場。2014年3月には、史上5組目となる単独での国立競技場ライブを開催し、2日間で11万人を動員するまでに成長している。

 その躍進の立役者が、グループの立ち上げから関わり、現在もチーフマネージャーを務める川上アキラ氏。大学を卒業し、1998年に彼女たちが所属するスターダストプロモーションに入社。安藤政信、沢尻エリカといった役者のマネージャーを経て、ももクロのプロジェクトに参加した。

 ももクロのイベントでは演出を担当することもあるため、川上氏の存在を「プロデューサー」と受け取る人も多いが、自身は「マネージャー」以外の肩書を名乗ったことはない。「プロデューサーは"企画"を担当するのに対し、マネージャーは"人"を担当するのが役割。僕の仕事は、タレントの力を伸ばすきっかけを与えること、きっかけとなる場を与えることなんです」と話す。

 結成当時は中学生。芸能活動歴も少なかったメンバーを育成するため、川上氏はどのような場を用意し、何を伝えようとしてきたのだろうか。

2014年5月に行われたUstreamを使った24時間番組では、メンバーの素顔を見せたいと、距離の近い自身が演出も担当(写真:天満眞也、以下同)

ももクロの現場に「できない」という言葉はない

 ももクロの活動歴を振り返ったときに目を引くのは、時に"ムチャブリ"とも称される過酷なイベントやライブだ。

 例えば、2009年5月からインディーズデビューのタイミングでスタートした「ももいろクローバーJAPANツアー2009 ももいろTyphooooon!」。東は盛岡から西は福岡まで、全国24カ所のヤマダ電機を回り、店頭でライブを行うというもの。当時、自動料金収受システム(ETC)で均一1000円だった高速道路を使い、移動は基本的にワゴン車。1日3回のミニライブと握手会が当たり前というハードなものだった。メンバーの玉井詩織は「ずっとワゴン車に座っているので、休憩で車から降りると、生まれたての小鹿みたいにヨロヨロしてました」と笑いながら当時を振り返る。

 2011年5月には、ZeppTokyoで2時間のライブを1日3公演実施。しかも、すべてセットリスト(披露する楽曲の順番)を変えるという、体力の限界に挑むかのようなライブだった。しかし、メンバーは見事に合計64曲を歌い切っている。

 2012年4月、横浜アリーナで2日間のライブを行った際も、様々なゲストを招いてコラボレーションを見せる1日目、メンバー5人だけで構成する2日目と、両日は全く違う内容に。しかも、1日目は楕円形のアリーナの端にあったステージを、2日目はセンターに移動する、前代未聞のセットチェンジまで行った。観客に360度囲まれた状況でパフォーマンスするため、メンバーはダンスのフォーメーションをすべて作り直すなど、ハードルの高い2日間となった。

 こうしたチャレンジングなステージについて、川上氏は「メンバーに『できないことはない』というのを体で覚えさせたかった」と説明する。設定するハードルは確かにどれも高いが、彼女たちの成長を常に見ている川上氏にすれば、「今の5人なら超えられるはずというもの」だと言う。

 こうした"ムチャブリ"を超える体験を重ねることで、彼女たちは少しずつ自信を持ち、次の目標に向かってさらに前向きに取り組めるようになってきた。また、急な変更やアドリブなどにも平然と応えられる、対応力の高いタレントになってほしいとの思いも込めていたそうだ。


「自分の頭で考える」セルフプロデュースのできるタレントを作る

 「ある程度のところまでは事務所やマネージャーが作るけど、そこから先はセルフプロデュースで自分の道を作らなければいけない」というのも川上氏の哲学。そこで、ももクロのライブでは定番となっている自己紹介のフレーズを全員で話して決めるなど、「メンバー本人に考えさせる」というのも、最初から徹底していたことの1つだ。

 例えば、前述した2009年のヤマダ電機ツアー。このころはまだ観客も少なく、集まってもせいぜい数十人。東京中心で活動していたことから、特に地方ではほとんどの人がももクロを知らなかった。そこで、どうしたらもっと多くの観客を集められるか、みんなでアイデアを出し合ったという。メンバーから出てきた「もっと小さい子にも集まってほしい」「じゃあ風船を配ったらどうだろう」などの意見を、実行に移していった。

 「考えること」を積み重ねてきた結果、今では新曲の振り付けから、ライブの作り方までメンバーが自発的にアイデアを出すようになった。2013年5月に横浜アリーナで開催したファンクラブイベントは、全5回の公演をメンバーに割り振ってプロデュース。セットリストはもちろん、演出や寸劇のセリフに至るまで、5人が自分の担当公演を作り上げている。

「タレントが気持ちよく仕事ができる環境を作るのもマネージャーの重要な仕事」と、川上氏は現場の雰囲気にも気を配る

「未来を先取りして考える」のがマネジメントの役割

 タレントに目の前の課題を与えながら、「次にどうなっていくか、未来を考えていく」のがマネジメントの役割だとも川上氏は語る。それが如実に表れたのが、グループにとって大きな変化となった、2011年4月の中野サンプラザ公演だ。

 この日は、インディーズデビュー以降、苦楽を共にしてきたメンバーの早見あかりが脱退する、最後のコンサートだった。しかし、涙を流しながらメンバーがステージを下りた後、突如、会場内に流れたのは、「ももいろクローバーZ」への改名のアナウンス。別れを惜しむ雰囲気が一変、会場がどよめく幕切れとなった。

 メンバーですら抗議したこの展開に、川上氏は「辞める早見ではなく、残る5人の未来に注目を集めたかった。しんみりした雰囲気をメンバーにもファンにも引きずってほしくなかったんです」と振り返る。

 同時に、それまでライブでMC(司会・進行)役を担ってきた早見の穴を埋めるべく、翌日からは様々なタレントを招いたトークショー「試練の七番勝負」を7日連続で開催。グループ名を冠した新曲『Z伝説』も早くから制作するなど、「Z」へ移行するための準備を着々と進めてきた。結果、人気メンバーが抜けたことによってパワーダウンするグループも多い中、ももクロは改名を機に活動規模をさらに拡大していった。

最後は実力勝負。そのための"きっかけ"を与え続けた6年

 多くのアイドルがいる中でなぜももクロは成功したのか。他のアイドルとどう差別化したのか。これらの質問に対する、川上氏の答えは「タレントのクオリティー」だ。ただし、それはももクロがデビューしたときからクオリティーが高かったという意味ではない。「最終的にはタレントの実力がものを言うのがこの世界。だから、その実力をアップするために、この6年間、きっかけとなる場を与えてきたんです」と話す。

 世界的に活躍するレディー・ガガからのオファーを受け、2014年8月14日にはQVCマリンスタジアムで開催されるガガの日本公演でオープニングアクトを務めるなど、ももクロの歌やパフォーマンスへの評価は年々高まってきている。それは、彼女たちが常に高い目標を掲げ、ストイックに自身を磨き続けてきた成果だ。

 そして、日々研さんを積む姿勢を植え付けたのは、川上氏の育成哲学があったからこそだろう。今や日本を代表するアイドルグループとなったももクロ。その足跡には、若手育成のヒントが多く隠されている。

ライブのリハーサル風景。川上氏は客席に降り、観客の立場からチェックを繰り返す

(日経エンタテインメント! 山本伸夫) [『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』を基に再構成 [日経電子版2014年7月17日付]

[参考]「ももいろクローバー」結成から、目標とする2014年の国立競技場ライブ到達まで、6年間の活動をチーフマネージャーの川上アキラ氏が振り返る初の著作『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』。川上氏のマネジメント哲学と、メンバーとの闘いの歴史をひもといた"知られざるももクロ"が満載。川上氏とメンバーが1対1で向き合う『日経エンタテインメント! 』好評の対談連載「新ももクロ61分3本勝負」も加筆して10本分を収録。5人に対して川上氏が語った言葉を振り返るメンバー全員参加の座談会も新たに収録した。

ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと

著者:川上アキラ(ももいろクローバーZチーフマネジャー)
出版:日経BP社
価格:1,400円(税込み)

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