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異形の急成長企業DMM、
多角化とトップの実像

異形の急成長企業DMM、多角化とトップの実像

 ビートたけしや元プロ野球選手の清原和博ら有名人のテレビCMで急激に知名度を高めている企業グループ、DMM(ディーエムエム)。だが、その企業名の浸透とは裏腹に、手がけるビジネスを正確に知る者は少ない。AKB48の劇場公演映像の配信、外国為替証拠金(FX)取引、人気ゲーム「艦隊これくしょん」、3Dプリンター、太陽光発電――。脈絡のないように見える事業を同時展開し急成長するDMMの実態と、その経営トップの素顔に迫った。

テレビ局、考査と営業が対立

 実は、民放キー局の中で日本テレビ放送網だけはこの6月中旬までDMMのCMを流していない。理由を広報IR部に尋ねると「契約に関わる個別の事項には答えられない」との返答だった。代わりに大手広告代理店の関係者が事情を解説してくれた。「CMはFX取引や3Dプリンター、英会話に関するものだが、DMMの主力事業は成人向け映像、いわゆるアダルトビデオ(AV)です。テレビ業界で最も厳しいと言われる日テレの社内規定に引っかかった」

グループ中核企業、DMM.com(東京・渋谷)の受付。グループは事業を急拡大させている

 公共の放送波を預かる民放各局にはCMの内容やクライアントの事業内容をチェックする考査部門があり、ここが社会通念や倫理観に照らして問題アリと判断すると「謝絶」といって、まとまりかけたCM契約を白紙に戻す。日テレ以外のキー局では、DMMのCMをいったんは考査部門が謝絶したものの、営業部門がそれを覆す「営業受理」という強権を発動し流しているケースが多いのだという。「それだけテレビ局が無視できないほど巨額の広告費を投入しているということ。日テレ社内でも考査部門と営業部門でDMMのCMをめぐり対立していたが、営業部門が押し切る形で近く解禁になると聞いている」(大手広告代理店)

 DMMの事業内容は実際はどのようなものなのか。大手信用調査会社などの資料によると、グループの2013年の売上高は約1200億円、当期利益は約130億円になったもようだ。「6~7割をAV関連、2割をFX、残りをデジタルコンテンツ配信やゲームで稼いでいる」(関係者)。従業員数は約1800人。この3年間で500人以上は増えている。

 中核企業のDMM.com(東京・渋谷)は1999年設立だが、実態ベースの創業はそれより10年以上も前に遡り、グループ名も北都(ほくと)と称していた。乱立していたAV制作会社を次々と傘下に収めるとともに、2000年代半ば頃までにビデオやDVDの国内配送網を構築。現在は2位のソフト・オン・デマンド(東京・中野)を引き離し、AV業界のトップ企業として君臨する。

 グループを率いるのは会長の亀山敬司(53)。30年余りで売上高1200億円の「王国」を築いた異形の経営者に関する情報はあまりに少なく、こわもての風評が一人歩きする。いわく、プロレスラーのような風貌、札束で有無を言わさない交渉術、脱法すれすれの取引――。真実を確かめるべくインタビューを申し込むと、顔写真を撮らないことを条件に取材に応じた。

東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスタワー21階のDMM.com本社。高価な装飾品など1つもない殺風景な部屋に現れた亀山は、すらっとした長身で、カジュアルなジーンズ姿。短めの無精ひげを生やし、どことなく俳優の寺尾聰に似ている。

 「私はAVに関心があったわけではなく、当たったのがたまたまAVだっただけ。まっとうな普通のビジネスをしてきました」

 「こわもて? 仕事では情に流されないようにしているから、そう思われるのかなあ。写真を撮られるのが嫌なのは、有名になってしまうと夜の繁華街で気軽に飲めなくなるから」

映像メーカー進出を夢見る

 風貌や語り口は普通の中年。だが、独白するこれまでのビジネスの沿革は、やはり異形だ。

 亀山は石川県加賀市の出身。1979年に地元の大聖寺高校を卒業し、税理士になるために東京の簿記専門学校に入学した。だが簿記1級を取得した時点で税理士の仕事に面白みを感じられず退学。原宿や六本木を転々とするアクセサリーの露天商で生計を立てた。わずかながらの資金をため、個人商店の経験を積み、アクセサリーの卸問屋への進出を模索し始めた矢先、実姉から「地元に戻って家業の飲食店の営業を手伝ってほしい」との連絡が入る。

 83年に地元に戻った亀山だったが、商売への執着は東京にいたときより一段と増していた。「マージャン荘、プールバーなど当時人気があった業態はみんな試した。唯一成功したのがビデオレンタル店だった」。1980年代半ばは家庭用ビデオデッキの普及期でテープ1本のレンタル料金は1泊2日で1000円を超えていたが、亀山は500円を下回る料金設定で競争を仕掛け、閑古鳥が鳴いた周辺レンタル店を次々と傘下に収めていった。

 ビデオレンタル業の成功を受けて、次に狙いを定めたのは映像メーカーだった。露天商の経験で零細小売業の悲哀が骨身に染みている亀山にとって、モノや権利が手元に残るメーカーへの進出はどうしても実現したい夢だった。ただ映画やアニメなどの一般映像は数千万円の資金がなければ会社はおろかコンテンツの権利も買えない。そこで1990年に北都(DMMの前身)を設立。1本数百万円で済む成人向けの映像に持てる資金を注ぎ込み、AVメーカーのコンテンツと商権を買いあさった。

 並行してビデオテープの流通経路の確保に乗り出す。当時は映像メーカーから問屋を通じて小売店へ売り切る形が主流だったが、亀山は問屋を通さずに小売店にビデオテープの販売を委託する手法を取り入れた。小売店にとっては在庫リスクなし。富山の薬売りと同様、店頭で売れた分だけを追加注文すればよいのだから、小売店はこぞって北都との取引にかじを切っていった。

 「我々に不利な取引に見えるが、そうではない。まず問屋回りをする営業マンが要らない。経営破綻する問屋も多く、貸し倒れになるリスクを考えると、小売店との直接取引のほうがはるかに安全で効率的だった」

 さらに90年前半には、当時はまだ珍しいPOS(販売時点情報管理システム)を小売店に無料配布する取り組みに力を入れた。ビデオの売れ筋をPOSでリアルタイムに把握し、その情報を基に人気の監督や俳優をいち早く押さえ、傘下の映像メーカーでコンテンツを制作する。「間違いなくヒットする作品を小売店に安定供給することで取引網はさらに広がった」

ミセス・ワタナベを取り込む

 AVという一般企業が参入しにくい分野だけに、市場の独占は大きな利益を生む。亀山はその潤沢な資金を元手に事業の多角化に乗り出す。AVを含むデジタル映像のネット配信は、インターネットよりパソコン通信がまだ一般的だった98年に開始。赤字が続いたが、2006年に黒字化し、13年は30億~50億円の利益を上げた模様だ。

DMM.comが6月26日に開いた3Dプリンター事業の新展開に関する発表会には、多くのメディアとゲストスピーカーのIT企業経営者が集まった(東京・渋谷)

 FX取引のDMM.com証券(東京・中央)の設立は2006年。手数料(スプレッド)の引き下げを武器に、個人投資家、通称ミセス・ワタナベの人気を集め、預かり残高と口座数を急激に拡大。13年3月期は37億円の利益を上げた。

 昨年から大ヒットしているオンラインゲーム「艦隊これくしょん」はKADOKAWAとの共同事業。角川ゲームス(東京・千代田)が開発、DMM.comが配信という役割分担になっているが、もともとはきっちりとしたスキームで始まったわけではない。「売れるとは思えないが、面白そうだからやってみよう」と両社の担当同士が飲み会の席で盛り上がったのがきっかけで、これまでに開発費の140倍に相当する70億円の売上高を稼ぎ出した模様だ。

 さらにこの3年間で、太陽光発電、ネットを使った格安英会話教室、3Dプリンターの利用サービスなどの新規事業を次々に立ち上げている。いずれも数年間は赤字の垂れ流しが見込まれるが、AVが稼ぐ利益が独り立ちまでミルク補給するだけに、ライバル他社にとっては脅威だ。

 脈絡のないように感じる新規事業だが、亀山によるとエンターテインメントやスリル、達成感など「人の欲望に根ざすという共通項がある」。さらに「50歳を超えた頃から私の頭から新しいアイデアが生まれなくなってきた」。泉の枯渇を補うため、20歳~40歳代の社員や取引関係者のアイデアに耳を傾け、それを次々と採用し続けた結果、事業が一気に多角化しているのだという。

 亀山直属の人材、通称「カメチョク」が、新規事業の苗床になっている。カメチョクは自分のやりたいテーマを亀山に提案。亀山がOKを出すと、組織や勤務時間に縛られず自由に仕事ができる。ただ、正社員ではなく個人事業者として半年ほど業務を請け負う形だ。成果が上がれば高額の成功報酬、逆に成果を出せなければ契約は打ち切られ、実質的な解雇となる。

 「これ以上金持ちになることに私は興味はない。ただ、ビジネスは面白いし、会社をもっと大きくしたい。最終的には絶対に消えない規模まで会社を大きくして、さらに会社が永続的に続くようにソフトバンクのような企業にそっくり買ってもらうのが理想だ」

透明性を高める必要性

 貪欲に成長を続ける企業には強力な吸引力が生まれる。恵比寿のDMM.com本社に日参するのは、CM出稿が欲しい広告関係者だけではない。共同事業を持ちかけるIT企業。M&A(合併・買収)を提案する投資会社。そして野心を持つ高学歴の就職希望者、有名企業からの転職者......。異形の企業の影響力は日に日に大きくなっている。

 一方で、DMMに厳しい視線を送る者が増えているのも事実だ。信用調査会社は情報収集に余念がない。大手金融機関は社会的信用の低さと倫理上の問題を理由に融資には慎重だ。株式上場の可能性は現時点ではゼロ。「売上高や利益に占めるAVの比率を大幅に下げないことには話にならないと証券会社などから言われた」と、亀山自身が認めている。

 FX取引を所管する金融庁の幹部が「DMMについて特に話すことはない」と話したときの顔は、苦虫をかみ潰したようにゆがんでいた。国税庁の関係者も「DMMの事業拡大には強い関心を持っている」と話す。

 こうした厳しい視線は、事業内容に加えて、亀山の経営者としての情報とグループ企業の公開情報があまりに乏しいことに大きな原因がある。積極的に情報を公開する姿勢がなければ、売上高1200億円の大企業にふさわしい社会的な信頼は手に入らないだろう。=敬称略 (電子報道部 石塚史人 企業報道部 指宿伸一郎)[日経電子版2014年6月27日付]

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