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デジタル社会の光と影(1)就職人気企業ランキングを
信じるリスク

小川和也 authored by 小川和也アントレプレナー、フューチャリスト
デジタル社会の光と影(1) 就職人気企業ランキングを信じるリスク

小川和也のデジタル社会の光と影(1)

 先進的技術、機械や機器、コンピュータ、インターネット、データ。「デジタル」は猛スピードで進化を続けている。それらは人間に多くの恩恵を与え、利便性にあふれた社会づくりには欠かせないものとなった。気がつけばわれわれの生活はデジタルに囲まれ、その依存度は高まる一方だ。もちろん、デジタルは人間の生活を豊かにしてくれている。それは間違いない。

デジタルによって社会的な課題も

 しかし、それとともに弊害が生じていることもまた事実だ。インターネット依存症、デジタル認知症という新たな病や、ソーシャルメディアにおけるコミュニケーション上でのトラブルなどはその一例だ。さらには、急増するサイバーテロなどが、新たな社会的課題として重くのしかかり始めている。そう、デジタル社会の中には光と影が両存している。

 とめどなく進化を続けるデジタルテクノロジーは、われわれをいったいどこへ連れていくのだろうか。その解を求めて、僕は『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)という本を書いた。インターネット、膨大な情報、人工知能、ロボット。本書で述べたことは日々現実のものとなっている。その現実に翻弄されないように、テクノロジーが導く先を探りながら、人間のいまと未来を考えていこう。

 毎年恒例の就職人気企業ランキング。新しいランキングが発表されると、就職活動を控えた学生であればそこに目を奪われるはずだ。「いや、その手のランキングには振り回されやしないぞ」と意を固めていたとしても、気にならないといったら嘘になる。それが人生の一大事、「就職」の重みというものだろう。

劇的な諸行無常が待っている

 この就職人気企業ランキングは、得てしてその時々の社会背景や経済環境、企業の状態や印象によって形成され、必ずしも長期的目線に立ったランキングとは言えない場合が多い。どの年代も基本的に大企業が上位を占めているが、数十年もさかのぼってみると、その時の花形企業がいまや花形とは言い切れなくなっていることも珍しくない。

 確かに、数十年後を予測して職業、就職先を選択することは容易ではない。ただでさえ大変な就職活動だ。そんな不確かな未来のことまで考えている余裕なんかない。だから、"束の間"の人気が形成され、"束の間"の尺度で判断しておく。

 デジタルテクノロジーがこれから起こす革新は、かつての産業革命における技術革新とは次元が違う。人間よりもはるかに優れた知能や機能を保有した人工知能やロボットが世の中を席巻し、やがて人間の仕事を奪う存在になる。様々な仕事が生まれてはなくなり、そしてまた生まれる。これまでの歴史は職業や企業の諸行無常を物語っているが、これから訪れる未来にはもっと劇的な諸行無常が待ち受けているだろう。

 僕はいま、アントレプレナーとしてITベンチャービジネスの立ち上げや経営を行い、大手企業や行政、アーティスト等のデジタルマーケティングの戦略づくりと実行に取り組んでいる。加えて、大学や大学院で講義を持ち、書籍や講演を通じて人間とデジタルの関係についての考察、言論活動を行なっている。

 かくいう僕も、20年ほど前に新卒で大手損害保険会社に就職し、ベンチャー企業を創業するまで9年間勤務していた。ベンチャー企業経営と大企業勤務、両方とも相応の期間の経験をさせてもらったことになる。就職した企業はその後再三と合併と社名変更を積み重ね、それぞれの理由やこだわりがあって選んだはずの就職先も、いまとなっては6社が同じ屋根の下になっている。

人間を取り巻くリスクも変化

 なにしろ、就職した当時といま、そしてこれからの未来における損害保険事業の環境は大きく違う。そのひとつが、人間をとりまくリスクの変化だ。2040年にはおよそ75%が自動運転車になるという予測もあるように、自動車という製品、性質そのものが抜本から変る未来が待ち受けている可能性は大きい。

 そうなると、既存の事故件数や損害規模は大幅に縮小し、現在主力商品の自動車保険のあり方も根本から見直さざるを得ない。一方では、サイバー攻撃のリスクなどは年々高まっており、現状でも世界中のサイバー犯罪がもたらす経済損失が年間数千億ドルにも上るという見方もあるが、これはさらに拡大することになるだろう。

 さらには、Internet of Things(IoT)などと称されるモノのインターネット化により、家電から各種消費財まであらゆるモノの性質やリスクは変化し、人工知能やロボットが普及した社会特有の新たなリスクが発生する。

 デジタルテクノロジーの急速な進化が、多くの企業の事業環境を大きく揺さぶることになることは明らかだ。それを前提とすると、目の前の就職人気企業ランキングが、ひとつの業界、ひとつの企業の未来をも的確に反映しているとは言い難い。それは企業への就職に限らず、専門職業に従事する場合、資格を取る場合においても然りだ。気がつけば、いまの常識、いまの価値観、いま見えているものは、意外にもあっさりと覆される。それが、これから僕たちを待ち受けている未来だ。

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