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羅針盤NEO(2)「機械のスマート化」を
怖がってはいけない
~競争に負けない働き方とは

羅針盤NEO(2) 「機械のスマート化」を怖がってはいけない~競争に負けない働き方とは
authored by 村上憲郎 元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長

 この新連載の一回目では、いわゆるグローバル化を三段階に分けて考察し、それに対応するグローバル人材としての三段階について、特に、その最終段階であるトランスナショナル(Trans-national)人材を理想的な目標として詳説しました。それに続く今回は、グローバル化の結果として足下で起きている雇用問題から話を始めたいと思います。

 もはや四半世紀前となってしまった旧ソ連の崩壊に伴う冷戦の終結によって、中国を含む旧共産圏の大量の比較的に廉価な労働力が、グローバルな労働市場に流れ込みました。日本を含む先進国の労働者は、それらの新しい参入者に直接に職を奪われるということはないにせよ、国内の製造部門が廉価な労働力を求めて旧共産圏に出て行くといった動きに伴い、間接的には、じわじわとその影響を蒙りつつあることは否定できません。

 更には、グローバル化の大きな推進力でもあるICT技術の発展、中でも、インターネットのそれこそ全地球的規模での急速な普及があります。ネット上で作業可能な様々な仕事・職種であれば、ネットに接続されてさえいれば全地球上のどこに居ようとも就業可能な状況が生まれました。

 その結果として、当然ながら、それらの仕事・職種の雇用は、ネット上の比較的に廉価な労働力を求めて、賃金の低い国に向かって激流となって流れ下っています。人口に膾炙している事例を挙げましょう。あなたが、テレショッピングで何かを購入すべくコールセンターに電話したり、購入した製品の取り扱いや不具合について質問すべくサポートセンターに電話したりした時に、電話口に出て来たオペレーターが、流暢な日本語を話したとしましょう。でも、そのオペレーターが日本国内のオフィスから応答しているのかどうかは、確かではないと言う現実があります。例えば、中国東北部の大連のオフィスから応答しているということが、十分考えられる時代となっているのです。

 そして事態は、更に進みます。あなたの問い合わせに応答しているのが、生身の人間であるかどうかも確かでない時代がもうそこまで来ているというのが、今回の本題です。つまり、廉価な労働力の究極は、機械かもしれないという話です。

 「本題」とは言いましたが、雇用を巡る「機械との競争」といった類の各所で交わされている話を繰り返そうというのではありません。それならば、それこそ、2年前に話題になった「機械との競争」(日経BP社刊)と言う題名のマサチューセッツ工科大学(MIT)のリポート本でも読んでいただければ良い。そうではなく、私は、「機械との競争」という事態への対処法を論じてみたいのです。

 ここで言う機械とは、産業革命期に「靴下自動編み機械」の登場に対して、「自分の仕事が奪われる」と「靴下自動編み機械」を「打ち壊す運動(=ラッダイト運動)」を始めたことによって歴史にその名を残すこととなったラッダイト氏が対処しようとした単なる機械ではありません。いわゆる「スマートマシン」と呼ばれるコンピュータが制御する機械のことです。当然ながら、インターネット時代の「スマートマシン」であるから、インターネットに接続し、いわゆる、IoT(Internet of Things)=「物のインターネット」を形成し、その端末ともなる機械です。
(IoTについては、いずれこの連載でも現況をアップデートしたいと思っておりますが、取りあえず、日経電子版の連載である「グローバル羅針盤」のいくつかの関連記事を参照していただくとして、話を前に進めさせて頂きます。)

 皆さんが競争させられると言われ始めている機械は、単なる機械ではなく、「スマートマシン」と呼ばれるコンピュータが制御する機械です。そして、コンピュータが制御する機械は、誰か人間が、その制御プログラムを書く必要があります。私の対処法とは、簡単に言うと、この制御プログラムを書く仕事は、無くならないので、この仕事への就業を目指せということです。

 そんなこと突然言われてもどうすれば良いのか皆目検討もつかないという方もおられるでしょう。それでは逐一、申し上げます。

 現在、学生の方は、4月からの新学期で「プログラミング入門」といったコースを履修するのが出発点となるでしょう。そういうコースが履修できない学生、既に社会人だという方は、巷にあふれる「プログラミング入門」コースを受講して見てください。それらの受講料は決して高価でなく、中には、無料というのも結構あります。何故、無料かというと、既に不足気味のプログラマーを養成し、修了者をパートタイム、フルタイムにかかわらずプログラマーを求めている企業に紹介して、紹介料という形で、養成費用を補って余りある対価を得ると言うビジネスモデルが、成立し始めているからです。

 「プログラミング入門」といったコースで習得できるのは、ある特定のコンピュータ言語によるプログラミング技能です。コンピュータ言語は多数存在しますが、まずは、一つの言語に習熟することが重要です。習熟するコンピュータ言語はたとえ一つでも、それによるプログラミングの実習の中で、暗黙のうちに身についてくるのが、「アルゴリズム」と呼ばれる、言語の選択に関わらない共通概念です。

 「アルゴリズム」とは、コンピュータ(とそれが制御する物と)が、ある初期状態Aから、目的の状態Zに辿り着くための「有限回の手続き」のことです。「アルゴリズム」の概念を身に付けていくということは、この状態Aが、状態B、状態C・・・と状態を変えていく過程(これを「状態遷移」といいます。)が、進行中であるという自覚、その進行を制御するプログラムを書いているのだという自覚、つまりプログラマーである自分こそが、その制御の主人公なのだと自覚するということでもあります。

 プログラミングは、小説を書くのに似た作業です。小説も、ある初期状態Aから、目的の状態Zに辿り着くための「有限回の手続き」の描写であるからです。小説家が、全員、芥川賞作家や直木賞作家になれるとは限らないのと同じように、あるコンピュータ言語の語彙と文法に習熟したとしても、優れたプログラムが書けるわけではありません。

 優れたプログラムが書けるというのは、生まれつき身に備わった特殊技能とでも言うべきものがあって、そういうプログラマーは、開発したプログラムの名前と共に、その名を歴史に残す天才プログラマーをはじめとして、もちろん、引っ張りだこということになります。そういう人達が携わらざるを得ない重要なプロジェクトもありますが、それ以外にも、たくさんのプロジェクトが、今後の「機械のスマート化」の進捗の中で始まると想定されています。その仕事への就業を目指さない手はないというのが、私のお薦めしたい対処法なのです。

 よしんば、プログラマーとしての雇用を獲得できなかったとしても、「プログラミング入門」を受講するなかで経験した「プログラマーである自分こそが、その制御の主人公なのだという自覚」が重要です。将来、人類社会が「機械との競争」という状況に直面したとしても、いたずらに「機械を怖がる」だけという情けない対応するしかないといった事態を免れる一助となると確信するからです。ご健闘をお祈りします。

村上憲郎(むらかみ・のりお)
1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部卒。日立電子、日本ディジタル・イクイップメント(DEC)をへて、米インフォミックス、ノーザンテレコムの日本法人社長などを歴任。2003年から08年までグーグル米本社副社長兼日本法人社長、11年まで名誉会長を務める。現在、村上憲郎事務所代表。

村上さんが日経電子版に連載していた「村上憲郎のグローバル羅針盤」はこちら

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