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[ liberal arts-大学生の常識 ]

デジタル社会の光と影(3)自動車産業の主役が
IT企業になる日

小川和也 authored by 小川和也アントレプレナー、フューチャリスト
デジタル社会の光と影(3) 自動車産業の主役がIT企業になる日

小川和也のデジタル社会の光と影(3)

 「就職人気ランキングに振り回されたくない」と思ってみても、ロボットや人工知能が人間の仕事を奪う未来を占ってみても、なんだかんだ目の前の就職活動を抜本的に変えるのは難しい。それが就職を控えた多くの学生にとっての本音であろう。だからこそ、生きた情報を得て、より想像力を働かせ、自分自身の勇気をいっそう奮い立たせてみる必要がある。

 僕の父は、大手自動車メーカーで40年以上に渡り自動車の開発に携わっていた。その間の自動車メーカーは、日本の高度経済成長を牽引する重要な役割を果たしていた。特に1955年から15年間ほどの年平均名目経済成長率は15%に達し、GNP(国民総生産)でも年率10%の成長率を遂げ、経済規模は4.4倍にまで達した。個人の消費欲はテレビ・冷蔵庫・洗濯機からカー・クーラー・カラーテレビ(3C)へと移行し、1960年代後半より国内自動車メーカーが発売した大衆乗用車がマイカーブームを招いた。自動車が消費、経済拡大の要を担い、いまに至っても日本の基幹産業として重要な位置を占めている。

 しかし、その自動車産業の世界も、あと30年も経つと環境が激変している可能性がある。その要因は自動運転車であり、車を形成するものの重要性がハードウエアからソフトウエアに移行することだ。その変化の兆しの一端として、自動車とは縁のなさそうな米グーグルが、自動車産業の未来を担うのではないかと注目を集めている。

自動車はOSが司る

 グーグルは2010年に初めて自動運転車を発表し、それ以降10台以上の実験車を開発してきている。まだ実験中とは言いながらも、合計で30万マイル(約48km)以上も公道を走行させることに成功している。無論、無事故だ。グーグルの強みは優れたOSの開発力であり、それを自動車へ応用しようとしている。そのOSが自動車を司るようになれば、すなわちグーグルが自動車に対して持つ影響力は必然的に強まることになる。

グーグルが試作した自動運転車の改良版(グーグル提供)

 また、地図サービスにも強みを持っていることから、車両搭載センサーと保有する地図情報や走行中に収集する周囲の情報を照合し、最適な走行経路を導き出せる。自動運転車においては、このようなソフトウエアが持つ重要性が高まることから、グーグルが一気に躍進する余地が出てくるのだ。

 そして2014年5月27日、グーグルはついに自社で設計した自動運転車の試作車を公開した。それまでは、トヨタ自動車の車両を改造して使ってきたが、これは一から自社開発したものだ。ゴルフカートほどの大きさで、自動運転開始と終了ボタンがあるのみ、ハンドルやブレーキはない。車両搭載センサーやカメラの情報を基に人工知能を備えたコンピューターが自動的に操縦する。グーグルは公開から2年で約100台生産し、2020年頃の実用化を目指すとしている。

自動車の運転は「話す」「タッチ」で

 つい先般、そのグーグルに対抗するかのように、アップルが「車を自動運転する技術の開発に入った」という報道があった。アップルもグーグル同様ソフトウエアの領域で席巻している代表的な企業であり、自動運転車の時代において存在感を増しそうな一社だ。アップルは、iPhoneを車のインターフェイスに利用するCarPlayを既に発表している。CarPlayは自動車上のインターフェイスから音声アシスタント機能「Siri」に話しかけたり、タッチするだけで簡単に操作ができ、電話をかけたり、地図を使ったり、音楽を聴いたり、メッセージにアクセスできる。アップルにとっては、これはまだ将来への布石といったところで、iOSの車への応用等、これからもっと自動運転車へ踏み込んでくるだろう。

 さらには、バッテリー式電気自動車とその関連商品の開発製造から販売までを手がけ、新興自動車メーカーとして注目を集める米テスラモーターズなども、自動運転車の台風の目になる可能性があるだろう。PayPal共同設立者でもある起業家のイーロン・マスクが取締役会長兼最高経営責任者に就任し、グーグル共同設立者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、元eBay社長のジェフリー・スコールなどの起業家やベンチャーキャピタルから巨額の資金調達を行い、2003年設立から急成長を遂げている。

 参入障壁が極めて高いと考えられてきた自動車産業において、このテスラの新規参入のインパクトは大きいものがある。もしかしたら、新しいアプローチを仕掛けてくる新興勢力が市場の構造を塗り替えてしまうかもしれない、そういうイメージをわれわれに持たせる躍進ぶりだといえよう。

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