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羅針盤NEO(3)雇用チャンスはこうすれば広がる
~電子回路の基本を身に着けよう

羅針盤NEO(3) 雇用チャンスはこうすれば広がる~電子回路の基本を身に着けよう
authored by 村上憲郎 元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長

若い人にとっては就職活動や入試など人生の針路について大いに悩み考える時期を迎えています。この連載の2回目の前回では、いわゆるグローバル化の結果として生じる雇用問題への対処法について論じさせてもらいました。そのポイントとして、プログラミング技能の習得が、雇用機会の獲得上、極めて有利な戦略であることを詳述いたしました。

 今後のICTの利活用はさらに進展するでしょう。特にIoT(Internet of Things=物のインターネット)を形成する「スマートマシン」の大量導入が想定され始めているなか、プログラミング技能を身につけることは、自らの雇用のチャンスを拡大するうえで不可欠です。前回は、そうした点について、プログラミングなどに全く触れたことのない読者を想定して解説しました。

 しかし、もちろん、本連載の読者の中には、既にプログラミング技能を習得済みで、ICT関連分野で活躍中の方々も居られることは、想像に難くありません。今回は、そのような方々に対して、その雇用機会を更に拡大し盤石のものにする次の一手を、お薦めさせていただこうと思います。

 それは一言でまとめると、「ハードウエアに関する見識の獲得」であります。ICT分野の方々が、ハードウエアと聞くと、コンピューターのハードウエア、つまり、CPU(Central Processing Unit=中央演算装置)のことを思い浮かべるかもしれません。もちろんそれも含みますが、もっと基本的なことを申し上げたいのです。乱暴に言えば、電子回路の基本を身に付けられたほうがよろしいですよというアドバイスです。

 

 大学において、当初コンピューターは、電気工学科で研究・開発・教育が始められました。その後、電子工学科、情報工学科、コンピューター科学科、と学科が展開するにつれて、研究・開発・教育の比重が、徐々に、いわゆるソフトウエアに移行してきた歴史があります。

 とはいえハードウエアがないがしろにされてきたわけでは全くなく、当初の真空管回路から、トランジスタ回路、そしてIC(Integrated Circuit=集積回路)へと研究・開発が進みました。特に、LSI(Large Scale Integrated Circuit=大規模集積回路)、更には超LSIと呼ばれる時代を迎える中で、その性能が1.5年から2年で2倍になるという、いわゆる「ムーアの法則」と呼ばれる進歩の速度が確立されました。それは現在も継続中であることは、1年前のPCと最新機種との価格性能比を比べてみれば、誰の眼にも一目瞭然であります。

 しかしながら、その研究・開発・教育の比重が、相対的にソフトウエアに移行してきたことは否定できません。その結果として、現在、ICT分野で活躍中の皆様の多くが、SEやプログラマーと呼ばれる、総じて、ソフトウエア技術者としてお仕事をされておられるということが、想定されるわけであります。

 今回、その方々に、「電子回路の基本を身に付けられると、皆さんの雇用機会が更に拡大し盤石のものになりますよ」と申し上げたいのです。具体的にどうすれば良いのでしょうか。その答えは、皆さんもきっと名前くらいは聞いたことのある、最近流行りのRaspberry Pi(ラズベリーパイ)という名前の超小型コンピューターにあります。それを使って電子工作でもして遊んでみてくださいということです。

 Raspberry Piは、今年2月に販売開始された最新版のRaspberry Pi 2 Model Bでも5千円で買える、クレジットカードサイズのコンピューターです。見た目には、剥き出しの電子回路基板ですから、オモチャのような印象を持たれがちですが、Linuxベースの「立派な、ちゃんとした」コンピューターです。

 「これを使って電子工作でもして、遊んでみてください」と言ったのは、このRaspberry Piの「剥き出しの電子回路に何かを繋げて、動かしてみてください」と言う意味です。そして、その「繋げる何かは、『物』ですよ」と言いたいのです。つまり、「Raspberry Piの剥き出しの電子回路に『物』を繋げて、その『物』を動かして遊んで見ること」お薦めしたいのです。

 今後の更なるICTの利活用の進展の大きな柱は、IoT(Internet of Things)=「物のインターネット」であります。「物」がインターネットに繋がる時代が始まったのです。そして、インターネットに繋がる「物」は内部にコンピューターが埋め込まれた「スマートマシン」です。「スマートマシン」の内部に埋め込まれたコンピューターが接続されるのは、「スマートマシン」の他の部分や、インターネットです。

 コンピューターのインターネットへの接続は、普通に行われていることです。普通に行われていることですが、もちろんその仕組みの詳細は、ソフトウエアとしても専門的な深さがあり、電子回路というレベルまで至ると更に専門性の高い深さとなります。皆さんにお薦めしているのは、こちらではなく、「スマートマシン」の他の部分との接続ということに対する見識の獲得なのです。「スマートマシン」の他の部分は、それこそ「物」です。

 Raspberry Piの剥き出しの電子回路基板には、コンピュータとして標準の「繋ぎ方」として、USBポート、コンポジット出力端子、HDMI等が、備わっています。それに加えて、「物」との接続用として、GPIO(General Purpose Input Output)=「汎用入出力」と呼ばれるポートが備わっています。このポートに「物」を繋げてみることをお薦めします。繋げる「物」としては、何かを測定するセンサー、何かを動かすアクチュエーターが、考えられます。ここで「動かす」の中には、「光らせる」「鳴らす」を含めておきましょう。

 

手のひらにのるサイズのRaspberry Pi

さて、これらの繋げるべき「物」が存在する世界は、アナログと呼ばれる世界です。アナログとは、連続量のことです。連続量とは、中1の数学で教わった数直線が代表する量です。数直線上の各点は隙間なく無数の数を代表するわけですが、この「隙間なく」と言うイメージが、「連続」と言う意味だとしておきましょう。従って、この連続なアナログ世界の何かを測定するには、AD(Analog/Digital)変換、アナログ世界の何かを動かすには、DA(Digital/Analog)変換と言う操作を必要とします。コンピュータの世界は、連続量の支配するアナログな世界ではなく、離散値の支配するディジタルな世界なので、その異なる世界の間を繋ぐには、相互に変換する必要があるからです。こういう事態を、Raspberry Piを使った電子工作で遊ぶ中から、見識として習得して欲しいのです。 

 Raspberry Piには、それを使って電子工作を楽しめる様々な周辺部品や工作キットの類が、市販され始めています。それをお使いになられる時の注意としては、なるべく電子回路が剥き出しの部品状態により近いものを選ばれることをお薦めしたいと思います。完成度が高く、まるでPlugin Playのようなものでは、電子回路の基本を身に付けるためにという、Raspberry Piを使って電子工作で遊ぶ本来の目的を達成できなくなるからです。

 前回、生まれつき身に備わった特殊技能を持った天才プログラマーは、引っ張りだこということを紹介しました。しかし、彼・彼女らといえども、コンピューターを「物」につなげる、それに必要な電子回路の基本を心得ている人は、数少ないのです。皆さんと同じように、自分の書いたプログラムで、せいぜい、液晶画面に何かを表示しているだけなのです。もちろん、彼・彼女らの書いたプログラムは、いわば芥川賞・直木賞ものではあるわけですが......。

 とするならば、彼・彼女等を出し抜くとはいかないまでも、皆さんの雇用機会を更に拡大し盤石のものにする差異化の要因(能力)として、コンピューターを「物」に繋げる電子回路の基本の習得を、今回お薦めした次第です。ご健闘をお祈りします。

村上憲郎(むらかみ・のりお)
1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部卒。日立電子、日本ディジタル・イクイップメント(DEC)をへて、米インフォミックス、ノーザンテレコムの日本法人社長などを歴任。2003年から08年までグーグル米本社副社長兼日本法人社長、11年まで名誉会長を務める。現在、村上憲郎事務所代表。

村上さんが日経電子版に連載していた「村上憲郎のグローバル羅針盤」はこちら

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