卒業旅行は近所の旅館から海外まで ~最新卒業イベント事情
私たちのリアル(3)
先月、華やかな袴をまとった女子大生の姿を目にした方も多いのではないでしょうか。今年大学卒業した人の中には、震災の影響で高校の卒業式が中止や延期になり、大学の入学式もなかった人たちもいます。それだけに、大学の卒業式に対する想いも強かったのではないでしょうか。今年の卒業生事情をいくつかご紹介します。
(1)卒業旅行は海外旅行or近場で?
4年間体育会で活躍してきたRさんは、ようやく引退し、卒論を提出した2月以降、とにかく旅行に明け暮れました。彼女のスケジュールを見ると、仲良し3人組でニューヨーク、高校のクラスメイトと北海道、部活仲間とハワイ......と、2~3月は家にいる時間すらなかったようです。かかった費用の総額は50万円以上。「バイト代と、社会人になってから返済する予定で両親から借金しました」といいます。
海外旅行組は、「最後だから、好きにしていいよ、と親も言ってくれた」「社会に出たら長期間の旅行には行けないし、今のうちにいろいろ行っておきたかった!」という彼女たち。
一方、近場組のNさんはサークルの同期女子7人で、水道橋の旅館に素泊まり1泊。近くのドンキ・ホーテでお酒やお菓子を買いこみ、朝まで語り合ったそうです。かかった費用は宿代や食費を合わせても8000円ほど。「旅館への集合時間は18~20時とやや遅めで、翌朝7時に帰る子もいたけど、一晩中語り合った思い出があるから十分」だとか。
全員の予定を合わせるのが難しいときは、都内で全員がアクセスしやすい近場で十分とのこと。どうせ旅行に行ってもメインは観光よりおしゃべり。そんなカッコつけないところがサークル女子会ぽいのです。
(2)「最後の最後までやりつくす!」卒業公演
「先輩、後輩の関係は一生続くけど、"同期"はいつか終わる関係」と語るOくん。
演劇サークルに所属する彼は、2月半ばから3月の卒業式の後半までの約1カ月、サークルの卒業公演にすべてを費やしました。
通常は4学年が入り交じって公演を作るそうですが、劇の脚本、演出を務めるのは同期、スタッフの重役も同期が多く、舞台に立つ役者もやはり同期だらけ。「4年間の最後だからこそ、"同期"の結束を後輩に見せたい。旅行とか全然行けなかったけど、大学生活をかけた芝居を最後にやりつくして卒業したかった」と、振り返りました。
作品のテーマは時期に合わせた"解散と旅立ち"。毎年、3月に4年生が打つ公演は、卒業がテーマにされることが多いとか。東京、大阪で公演を打ち、大阪での公演はコンクールに出展。見事、同期の結束が評価され、多くの賞を受賞できたそうです。おめでとうございます!
(3)卒業イベントは追いコン、卒パ...
大学生にとって卒業イベントと言えば「追いコン」と「卒パ」(卒業パーティ)。"追いコン"とは、ゼミやサークルの3年生が主催する、「4年生を追い出すコンパ」のこと。カフェでのアルバイトを長く続けたMさん、先日バイト先の「4送会」("4"年生を"送"る会の略)に参加しました。
「最後に同期とシフトを一緒にして、みんなでお店をクローズ。それから、社員さん、後輩たちと朝まで飲んだ。このメンツでラテつくるのは最後か、と思ったら感慨深かった」。アルバイト派遣会社の広告ではないですが、「バイトはお金稼ぎの手段ではない」と考える子が多いようです。
「最後とか、バイトはもはや趣味だった。みんなに会いに行く、って感じ」とMさん。バイト先で培った友情は計り知れません。
Aさんの所属するイベントサークルには、追いコンでの"大入り読み"という習慣があります。「サークルでお世話になった後輩が二人ずつ、私との思い出をステージ上で語ってくれて、最後に"大入り袋"をくれるんです」。大入り袋の中身は、たくさんの後輩からのメッセージ。「その場では読まないで、家でじっくり読む。結構泣いちゃう」
その2日後には、今度は4年生主催の"園遊会"が開かれた。費用はすべて4年生もちで一人1万1000円。参加者はサークル全体の約7割にあたる70人弱、渋谷のバーを0時から5時まで貸切り、朝まで大いに語り合い、最後は近くの駐車場で全員で円陣を組んで一本締め。
ちなみにAさんたちは事前に打ち合わせをし、追いコン時も園遊会時も、衣装を統一しました。男子は学年のテーマカラーである緑を取り入れたファッションをし、園遊会では黒シャツに赤ネクタイ。ラッスンゴレライが流行ったこともあり、8.6秒バズーカの赤シャツ黒ネクタイを意識したそうです。女子は追いコンは卒業を意識したセーラー服で、園遊会は自分たちが"ホスト"であることからキャバ嬢ドレス。
「おそろいにすると、"同期"って感じがするからとっても楽しい」「最後だし、自分たちが主役になっても許されるかなって思った」「ドレスは新宿のアルタのドレス屋で4000円くらいで買った。安いと思った!」
また、"卒パ"は、4年生主催で4年生が呼ばれるイベント。大学の学部、高校、と様々なグループ単位で開催されます。こちらでは、男子はスーツ、女子はドレスといったフォーマルな装い。会場はホテルの会場やクラブ、はたまた横浜でのクルージングなど様々。卒業式の日には、卒パや園遊会をいくつもはしごする人も多かったとか。
卒業式の存在感は薄め?
さて、これらが大学の非公式卒業イベントであるのに対し、"卒業式"は公式の卒業イベント。卒業式には、両親や祖父母とともに参加する女子学生の姿も目立ったと聞きました。「高校の卒業式が(震災の関係で)なかったし、中高一貫校で中学の卒業式もやっていないから、卒業式は小学校以来」と話す子もいて、両親の卒業式への思いもひとしおだったのではないかと思います。
ところが、みんなの卒業式に対する熱はどうやら低そうです。当日は「卒業式というより友達と写真を撮るイベントだった」といいます。
写真のように卒業式の主流は、男子はスーツ、女子は袴ですが、袴の多くはレンタル。「可愛い袴は早めに予約しなきゃなくなる」と先輩に言われ、昨年7月の予約内覧会の初日に予約したMさん。予算相場は5万~10万円ほどで、袴の着付けやヘアセットに限らず、髪飾りや巾着、肌襦袢や足袋までがプランに盛り込まれているそうです。
さて、"追いコン"や"卒パ"の事前準備や思い入れの深さに対し、学生生活の節目としての"卒業式"の盛り上がりのなさはどこに差があるのでしょうか。やはり、自分の所属していたコミュニティでの絆こそが、重要になっているのではないかと感じます。また、卒業生に社会に出ることについて聞いてみると、多くの本音は「正直働きたくない」「学生のままでいたーい!」でした。
卒業に向けて、よく聞く言葉は「最後の主役」や「大学生活を全力で消費する」。大人数で卒業を祝うよりも、今の子にとっては「"仲間"と楽しみ尽くす」ことが、学生生活の締めにふさわしいと感じているようです。
「いつまでも学生のままでいたい!」と願った学生のみなさんも、4月からもう社会人。社会に出ることは、新たに素敵な出会いがあふれているはずです。どうぞ、学生時代の経験を活かして世の中で羽ばたき、新生活を謳歌してください!
ブームプランニング社長。山口県出身。1986年に企画集団「スキャットクラブ・オブ・ジャパン」を発足、女子高生ビジネスを立ち上げる。88年、株式会社ブームプランニングを設立し、女子高生を中心としたマーケティングやセールスプロモーションを展開。現在、未就学児から小・中・高生、大学生、OL、主婦、シニア層まで全国1万人以上ネットワークを広げ、様々な業種で企業の商品開発にかかわる。活動に関係した女子高生は10万人。著書に『「ウチら」と「オソロ」の世代 東京・女子高生の素顔と行動』など。
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