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大盛況USJ
仕掛け人が明かす「ヒットの法則」

大盛況USJ仕掛け人が明かす「ヒットの法則」

 映画「ハリー・ポッター」をテーマにした新エリアが話題を呼ぶユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)。入場者数も右肩上がりに伸び、2013年度は1050万人と3年間で4割増えた。ハリポタ効果が大きく、14年度は1100万人を上回り、過去最高を更新するのが確実とみられる。

 一連の仕掛け人が、運営会社ユー・エス・ジェイ(大阪市)の森岡毅執行役員チーフ・マーケティング・オフィサーだ。10年に入社して以降、業績回復をけん引。このほど出版した「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」(角川書店)からは、社内改革に役立つヒントが読み取れる。

 前例のない後ろ向きジェットコースターを走らせ、ハリー・ポッターの新エリアに450億円もの資金を投じるなど、難題にあえて挑戦したのはなぜか。その背景をひもとくと、森岡氏のテーマパークにかける熱い思いが浮かび上がってくる。

広域集客を狙うハリー・ポッター

USJは開業直後の01年度に1100万人を集客したが、その後は停滞。09、10年度はそれぞれ750万人にとどまった。運営会社のグレン・ガンペル社長の招請で10年に入社した森岡氏は、数々の改革に取り組んだ。その最新の成果が、14年7月に完成したハリー・ポッターだった。

森岡 毅氏(もりおか・つよし) 1972年兵庫県生まれ。96年神戸大経営卒、プロクター・アンド・ギャンブル入社。2010年にユー・エス・ジェイ入社、12年から執行役員チーフ・マーケティング・オフィサー。趣味はチェス。もともとテーマパークや遊園地が大好きだ

――ハリー・ポッターが話題を呼んでいます。

 「課題もありますが、まずは予想以上の成果をあげていると思います。ゲスト(来場客)がアーチをくぐってエリアに入ったとたん『キャーやばい』などと歓声をあげている。この情景を目にするにつけ、いいものを作ったと実感しますね」

 「テーマパークの社会的意義は、気持ちを前向きにリセットできる装置という点にあります。ハリー・ポッターは450億円をかけた大型投資でした。当初は社内の反対もありましたが、取り組むべき計画だとして説得して回りました。ハリー・ポッターは世界最強のブランド。しかもハリー・ポッターの施設が先行して米ユニバーサル・オーランド・リゾートにあり参考になりました。コンセプトモデル、ベンチマークモデル、シェアモデルという3つの異なる需要予測を使って、需要を精緻に算出。USJに導入しても勝算があると判断したのです」

――ハリー・ポッターが加わったことで、14年度の入場者数は過去最高を更新しそうな勢いです。

14年7月にオープンしたハリー・ポッターの新エリア。450億円を投じた。関西以外や海外からの集客も狙う

 「1100万人は突破させたいですね。現状は関西からの来客が6割、それ以外の国内と海外からが4割です。両者とも伸ばしながら、その比重を4割と6割に逆転させていきたい。そもそもUSJは、物理的には1500万人まで受け入れ可能なパークだと考えています」

――関西のUSJに対して、関東には東京ディズニーリゾート(TDR)が存在します。TDRをどう意識していますか。

 「もともとテーマパークとか遊園地が大好き。TDRをとても理解しているし、尊敬する部分もあります。自分の娘の名前を、ミッキーマウスにあやかって付けたくらいですから。ただビジネスとしては両者に大きな競合はない。関西と関東の間で、移動だけでも数万円の費用がかかります。世間がいうほどの激しい競合は起こっていません。だからこそ、USJは独自に市場を掘り起こしていく必要があります」

停滞にはワケ、三段ロケット構想を起爆剤に

森岡氏はもともと外資系企業でヘアケア製品のマーケティングなどを担当していた。エンターテインメント業界の経験は皆無だったが、750万人まで落ち込んだUSJの入場者数を盛り返すために改革に取り組んだ。森岡氏がまとめた骨子が「三段ロケット構想」だった。

――入社にあたってどう考えましたか。

 「入場者数が1100万人から750万人に減ったのはなぜかということ。火薬の使用量について当局の指導を受け、工業用水が一部の水飲み器につながれるミスが発覚したことが原因という社員もいました。でもそれだけで停滞が続くのはおかしい。構造的な問題があるのではないかと疑うべきです。市場データ、経営資料、競合他社の資料などを読み込み、やり方によっては1000万人レベルの集客は可能だという結論に達しました」

 「USJのパーク内をくまなく歩き回ってみました。そこで最大の敵がみえてきた。こだわるポイントがずれていたのです。例えば、ピーターパンのネバーランドで登場する海賊船。経年劣化をリアルに感じさせる特殊塗装を施していたのですが、ゲストは『海賊船が古くて汚い』と感じていた。技術を何のために使うかの目的がぶれていたのです」

ファミリー層を呼び込むため、ユニバーサル・ワンダーランドを開設した

 「クリエーターは面白いものを作りたいと考えます。だがゲストにとってではなく、自分にとって面白いものを作ってしまう可能性がある。このバイアス(偏向・誤差)を修正するのが、マーケターの仕事です」

――そこで改革の骨子として考えたのが「三段ロケット構想」ですね。

 「潤沢な資金があるわけではない。どれだけ知恵を絞るかが勝負です。第1弾は、弱点だった子供連れを取り込むことにしました。続く第2弾が、関西依存から脱却し国内外から広く集客すること。そして第3弾は、パークを効率的に運営するノウハウを使って、複数の場所で展開することです」

 「映画の専門店であるとか、大人向けサービスだとかにこだわりすぎて、ニッチな市場にはまり込んでいた。映画も大人も大切ですが、それ以外のキャラクターの活用やファミリー向けのサービスも必要だったのです。『映画のテーマパークというコンセプトからぶれてしまった』との批判を浴びましたが、これは的外れな指摘です。年400万人程度の入場者数でいいなら、映画の専門店でも構わない。でもそれでは巨大なパークを維持できません。最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップへと脱皮させることにしました」

 「具体的には、三段ロケットの第1弾として、まず速やかに子供連れのファミリーが楽しめる新エリアを開設したいと考えました。USJはファミリー層の来場が少なかったのです。子供向けの施設はあったのですが、実際よりも『子供は楽しめない』と思われていた。そこで12年春にユニバーサル・ワンダーランドという、子供が楽しめる新エリアを完成させました。そして第2弾が、14年夏に開設したハリー・ポッターです。国内外の広域からの集客を狙っています」

夢からつかんだヒントとは

実は、三段ロケットを打ち上げる合間が大変だったという。ハリー・ポッターなど一部の大型計画に資金を投下するので、それ以外の期間は資金面の余裕がない。「もうひたすら知恵を絞るしかなかった」と振り返る。

――ハリー・ポッターなどの大型施設が稼働する合間をどう乗り切ったのですか。

 「まず入社間もない11年度が課題でした。USJの開業10周年に当たっていたのですが、これをどう乗り越えるか。考えた末、ストリートパフォーマンスの一種であるフラッシュ・バンド・ビートや、目の錯覚を利用した絵などの作品をパーク内にちりばめるトリックアートに取り組むことにしました。ひっそりやっていたワンピース・プレミアショーについても、大々的に告知しようと考えました」

 「ところが10周年のイベントを始めた直後、東日本大震災が発生。パークで働くクルーからは『大災害で多くの人が苦しんでいる時に、なぜ営業を続けるのですか』と自粛を求める声も届きました。これに対して、彼ら、彼女らには『エンターテインメントを提供して、ひとびとを元気にするのがわれわれの仕事だ。プロとして営業を続けよう』と呼び掛け、理解を求めました」

後ろ向きに滑走するコースター、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~。夢にみたことがヒントとなって実現させた

 「現実にはゲストが急減し、パーク内はガラガラ。まったく新しいものを始めるのもいいが、すでに予定しているイベントを工夫するともっと効率がいいと考えました。まず大人1人につき子供1人を無料にするキャンペーンを実施。さらに各シーズンのなかで、最も弱かったハロウィーンの強化を優先し、ゾンビがうろつくハロウィーン・ホラー・ナイトに取り組むことにしました。このほか、カプコンのモンスターハンターを活用したイベントを開いたり、高さ36メートル、LED33万個を飾ったクリスマスツリーを作ったりもしました。終わってみれば、10周年は春の減少を補って、2ケタ成長をつかみ取ったのです」

森岡氏は今後の事業展開についても引き出しをたくさん持っている

――13年度も大型投資の合間でした。やはり苦心したようですね。

 「やはり設備投資に回せるお金が少ない。しかもハリー・ポッターができる直前ですから、ゲストが様子見を決め込んで来ないかもしれない。さらにいくら大きな競合はないとはいっても、TDRが30周年を迎えて、向こうは話題満載です。こうした三重苦を克服するには、リノベーション戦略しかないと思いました」

 「まずスパイダーマンの施設を刷新することにしました。高水準の画像技術を使った4Kと3Dのスクリーンを投入。ここでは米ユニバーサル・オーランドが開発していた技術を活用しました」

 「スパイダーマンのほかに、もうひとつテコ入れ策がいるだろうと判断しました。いいアイデアが思いつかず苦しんでいたある日、夜中に夢のなかで、ジェットコースターのハリウッド・ドリーム・ザ・ライドが逆回転で動く場面が浮かんだ。目を覚ました直後も、その意味がよく分かりませんでした。でも次第に頭のなかではっきりしてきた。前向きに走っているコースターを、後ろ向きに走らせたら面白いだろうと。社内で説明すると、技術陣からは前例がないと反対されました。それでも基本性能が高い施設だったので、後ろ向きに走行しても人間にかかる負荷に問題がないことが分かり、実現にこぎ着けました」

 「私自身、絶叫系マシンが大好きです。安全は担保されながらも、後頭部から落ちていくような短時間の恐怖。たまりませんよね。この2つの投資で20億円もかけていないんですよ。こうしたテコ入れで13年度も乗り切り、ハリー・ポッターの完成する14年度を迎えたわけです」

「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」(角川書店、税抜き1400円)。エンターテインメント業界以外でも参考になりそうだ

アジアのリーディングカンパニーへ

三段ロケット構想のうち、第2弾までは実現した。第3弾として、関西から他地域への進出を検討している。目指すは「アジアのリーディングカンパニー」だ。

――進出する候補地として、沖縄・名護などの名前が取り沙汰されていますが。

 「これからも関西で頑張るのはもちろんとしても、さらなる成長には他地域への進出も必要ではないか。片手(の指の数)以上のオプションを考えています。国内だけではなく、大型パークが見当たらない台北、ディズニーランドがあるとはいえ香港だって考えられるかもしれません。人口成長が著しいインドなども面白いですね」

 「ユー・エス・ジェイの大株主が、今後の出口戦略をどう考えるかにも影響されますが、様々なオプションがあります。ちなみに出口としては、他の企業への売却や上場などいろいろと案はあるでしょう。社内で働く立場からすると、われわれのビジネスを理解してくれるひとたちに株を持ってほしいですね」

――並行してUSJ内にハリー・ポッターに次ぐ大型投資を考えています。

 「USJの次の大型案件として、2つのオプションを検討しています。ファミリー向けがいいのか、それとも若者向けがいいのか。ハリー・ポッターの集客動向を見極めながら決定します。いずれにしても投資額は、ハリー・ポッターにかかった450億円まではいきませんよ」

自ら筆をとった「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」。「本を書くのは結構大変な作業でした」と笑う。「もっと専門的なマーケティングの本も書きたい」と意欲的だ

取材を終えて......「階段を作れば乗り越えられる」

 「とにかくエネルギッシュなひと」。周囲の社員は森岡氏をこう評する。社内の常識を疑い、資金がないなら知恵を絞ることで切り抜ける姿勢は、他の業界でも参考になりそうだ。

 森岡氏は取材の最後をこう締めくくった。「目の前の壁が高くても、階段を作れば乗り越えられます。必要となる階段を作り、乗り越えていくアイデアさえ出せばね」
(村山浩一)[日経電子版2014年8月12日付]

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