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羅針盤NEO(5) 「英語を」ではなく、
「英語で」勉強してみよう!

羅針盤NEO(5)  「英語を」ではなく、「英語で」勉強してみよう!
authored by 村上憲郎 元グーグル米国本社副社長兼日本法人社長、前名誉会長

 この連載の一回目では、いわゆるグローバル化を三段階に分けて考察し、それに対応するグローバル人材としての三段階について、特に、その最終段階であるトランスナショナル人材を理想的な目標とした。さらに、その目標に到達するために要請される英語の運用能力は、今や、英語「を」勉強することだけで得られるレベルにとどまらない。英語「で」勉強することによって獲得されるレベルが求められるレベルになってしまったということを強調しておいた。しかし、英語「で」勉強するとは、どうやれば良いのかについては、言及しなかった。今回は、そのことを具体的に展開してみたいと思います。

 世の中は、ゴールデンウイークも過ぎて、大学も「5月病」とやらの蔓延が、例年のごとくささやかれつつあるキャンパスで、「会計学I」とか、「法学概論」とかの退屈な講義に眠気を催している学生諸君。それらの課目を英語「で」勉強してみませんか。

会計学は英語「で」勉強すれば一石二鳥

 会計学で言うと、あなたの通っている大学でも、3、4年次に「英文会計」とかいった課目が配当されているかもしれませんが、さっさとそれを勉強してしまおうというわけです。というよりも、今履修中の「会計学I」とか「簿記概論」といった課目は、英語で勉強した方が一石二鳥ですよ、と言いたいのです。なぜなら、貸借対照表を習う時、「これは、BS(Balance Sheet)と呼ばれます」と、せっかく教わっているのですから、英語が出てくるのはそこまでなんて、もったいない。全部、英語「で」勉強したらいいじゃないですか。損益計算書だって、「これは、PL(Profit&Loss Statement)と呼ばれます」で終わらせないで、全部、英語「で」勉強したらいいじゃないですか。

 なぜ、そのように薦めるかというと、皆さんの勉強させられている「会計学I」とか「簿記概論」は、「日本語で」勉強していると思っているかもしれませんが、そうではなく「漢語を」勉強させられているからです。明治時代に創られた「和製漢語」ではありますが、「漢語=外国語」に違いありません。同じ外国語を勉強させられるのなら、グローバル人材に必須となってしまった英語「で」勉強するほうが、一挙両得というものではありませんか。

 かと言って、「なるほど」とばかりに3、4年次に履修予定の「英文会計」の教科書に飛びつくのはお薦めできません。なぜなら、この課目は1、2年次に簿記と会計について「和製漢語で」十分な知識を習得した人が、その習った「和製漢語」を元の「英語」にリンクし直す課目だからです。つまり、簿記と会計について教える教科書にはなっていないのです。事程左様に迂遠なカリキュラムなんか無視して、はじめから英語「で」簿記と会計を勉強することを薦めたいのです。

「和製漢語で」会計を勉強するから解り難い

 実は、既に「和製漢語で」勉強することの解り難さは気付かれています。この分野で良く例にあげられるのは、和製漢語で「売上原価」というものです。ビジネスでは、商品を仕入れて売るというのは最も基本的なことですが、商品は、仕入れるときには複数量を仕入れて、売るときには一つずつ売れるというのが、これも通常です。さて、ここで初学者が陥る最も初歩的な誤解は、「売上原価」とは、この仕入れた複数量全体の仕入れ価格の合計額だと思ってしまうことです。ところが、「売上原価」の元々の英語はCOGS(Cost Of Goods Sold)です。つまり、「売れた商品の原価」という意味ですね。COGSという表現は、言外に「売れ残っている商品については、何も言ってないよ」と言っています。この話は、「売れ残っている商品」は、和製漢語では、「棚卸在庫」、英語では、「Inventory」と呼ばれ、資産勘定に残っているという話に展開していきますが、それはこの記事の役目ではありません。

 COGSの例に典型的なように、簿記と会計は「英語で」勉強した方が、「和製漢語で」勉強するよりずっと解り易いのです。前述したように、このことは既に気付かれていて、従来の「英文会計」といった導入ではなく、最初から簿記と会計を「英語で」教えてくれる教科書が「日本語で」数冊、出版されています。願わくは、貴方の通っている大学が、「会計学I」や「簿記概論」を「和製漢語で」でなく、「英語で」教え始める日の近からんことを祈っております。

「法学概論」ならILEC受験者向けのテキストを

 さて、「法学概論」の方ですが、こちらも、簿記や会計に負けず劣らず、難解な「和製漢語」の宝庫です。こちらの分野で「英文会計」に相当する御役目を仰せつかっている課目は、「英文契約書」です。学生諸君でなくとも、グローバル時代に備えてビジネス英語ということになると、英文契約書ぐらい読めるようになりたいと思い「英文契約書の読み方」(同名書籍が偶然在ったとしても、その本が悪いという意味では全くありません)といった類の本を手に取られて、それこそ「hereinafter」とか「hereby」とか「whereas」といった簡単そうで、今まで見たこともない単語に出くわして、慌てている方もおられることでしょう。「英文契約書の読み方」を勉強されることは、決して無駄ではありませんが、それよりも大切なことは、「法学概論」を「英語で」勉強することです。

 「法学概論」を「英語で」勉強する手っ取り早い道は、英国のケンブリッジ大学が実施しているILEC(International Legal English Certificate)に挑戦してみることです。実際に受験するかどうかは別にして、ケンブリッジ大学から出版されている、この試験の受験者向けのテキストを勉強されることをお薦めします。

 なぜかと言うと、このテキストは、ローマ法に始まりナポレオン法典に結実したCivil Law(民法というより大陸法)とCommon Law(英米法)の淵源の違いから説き起こし、その上で、Company Law(会社法)、Contracts(契約法)、Employment Law(労働法)、Sales of Goods (物品売買法)、Real Property Law(不動産法)、Intellectual Property(知的財産権法)、Negotiable Instruments(手形小切手法)、Secured Transactions(担保付き取引)、Debtor-Creditor(債務者・債権者関係)、Competition Law(競争法)、Transnational Commercial Law(万国商法)といった、およそビジネスに必要な法体系の全てを簡潔に学ぶことが出来るようになっているからです。

 例えば、Contracts(契約法)について学べば、単に「英文契約書が読めるようになる」ことに留まらず、契約の承継にまつわる様々な仕組み、AOR(Assignment Of Rights:権利譲渡)やDOD(Delegation Of Duties:義務移転)、それに伴う3PB(3rd Party Beneficiaries:第三享受者)の扱い、等についても解りやすく解説されていますので、Contracts(契約法)の全体についても理解できます。

英語が苦手という人には

 しかし、読者の中には、「と言われても、英語は中学以来、不得意だったので無理!」と思われる方もおられると思います。心配いりません。上にお薦めした簿記や会計、法学概論を英語「で」学ぶのに必要な英語力は、語彙は別にして、中学英語が身についていれば十分です。「その中学英語が身についていないんです!」という声が聞こえてきそうですので、そういう方のために中学英語を身につける方法もお薦めしておきます。

 まず、中学英語の1年、2年、3年の教科書3冊を手に入れて下さい。最近の教科書には、教科書をネイティヴ・スピーカーが読み上げているCDが別売りされていますので、それも手に入れて下さい。皆さんがやるべきことは、毎日1時間、そのCDを聞きながら同時に、そのネイティヴ・スピーカーの読み上げと声を揃えて、教科書を音読するということだけです。「覚えよう」とか考えないで、ひたすらCDに声を揃えて音読するのです。まるで、お坊様の声に揃えて、お経を唱えるが如くです。そうして1カ月もすると、その1時間分の英語が、道を歩いている時や電車の中でも、「頭のなかで鳴る」ようになってきます。そうなってきたら、次の1時間分に進みましょう。

 1年程これを続けて行けば、中学英語の1年、2年、3年の教科書3冊分の英語が、道を歩いている時や電車の中でも、「頭のなかで鳴る」ようになってきます。そうなれば、「中学英語が身についた」ということになります。上にお薦めした簿記や会計、法学概論を英語「で」学ぶのに必要な英語力は、語彙は別にして、身についたということになるのです。

中学英語が「頭のなかで鳴る」

 因みに、このレベルの英語力というのは、この連載の1回目で紹介したグローバル人材の第一段階である、インターナショナル人材に必要とされる英語力に相当します。1回目では、インターナショナル人材とは、海外出張を平然とこなすことの出来る人材だと定義しました。中学の英語教科書の1年、2年、3年の3冊分の英語が、道を歩いている時や電車の中でも、「頭のなかで鳴る」ようになっている人ならば、飛行機を国際線からローカル線に乗り換えたり、ホテルにチェックインしたり、レストランで注文したり、といった海外出張で最も重要な「生き残り英語」は、十分こなせるというわけです。

 さて、今回は、どちらかというと文系向けの内容であったと感じている理系の方もおられると思いますので、付け加えておきたいと思います。今回、英語「で」勉強することをお薦めした簿記、会計、法学概論といった内容は、この社会の基本的な仕組みを理解する極めて具体的な内容です。自分は、理系なので関係ないと思っていられるとしたら、それは大きな間違いです。もし、貴方がそうお思いでしたら、貴方こそ簿記、会計、法学概論を勉強すべき人なのです。そして、勉強するときは、今回お薦めしたように「英語で」勉強して下さい。

理系学生は2次方程式の解の公式を「英語で」

 とは言いつつも最後に、理系の方向けに、英語「を」勉強する取っ掛かりをお薦めしておきたいと思います。その方法は、理系としてお馴染みの方程式、例えば、マックスウエルの電磁場方程式を、「英語で読んでみる」ことです。マックスウエルの電磁場方程式でなくとも、それこそ2次方程式の解の公式を、「英語で読んでみる」ことをお薦めします。初めて、そのようなことを試みられる皆さんは、2次方程式の解の公式ですら、英語「で」読めない自分に、愕然とされることでしょう。日本語「で」数学や物理学を勉強してきた我々は、数式すら英語「で」読めなくなってしまっているのです。「数式を英語で読む」ための参考書も数冊、「日本語で」出版されていますが、理系の方々にお薦めしたいのは、それにとどまらずに、数学や物理学を英語「で」勉強し直すことです。

 学生諸君は、今現在、線形代数の講義を受けているのであれば、米国のLinear Algebraの教科書を手に入れて、併読してほしいのです。既に卒業されておられる方も、米国の数学や物理学の教科書を手に入れて、復習を兼ねて、英語「で」勉強しなおしてほしいのです。それが、理系人間として、グローバル人材としての段階を登っていく上で、必ずや役立つ日が来ると確信しております。

 ご健闘をお祈りします。

村上憲郎(むらかみ・のりお) 1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部卒。日立電子、日本ディジタル・イクイップメント(DEC)をへて、米インフォミックス、ノーザンテレコムの日本法人社長などを歴任。2003年から08年までグーグル米本社副社長兼日本法人社長、11年まで名誉会長を務める。現在、村上憲郎事務所代表。

撮影協力:神田外語大学

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