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お悩み解決!就活探偵団2016売り手市場なのに復活する
「学歴フィルター」

お悩み解決!就活探偵団2016 売り手市場なのに復活する「学歴フィルター」
authored by 就活探偵団'16

 初めての就職活動は分からないことだらけ。直接企業に質問しづらいことも多いし、口コミ情報がどこまで信用できるかも不安だ。そんな悩みを解決する「就活探偵団」。就活生の疑問に答えるべく、あなたに代わって日経記者が企業に突撃取材します。

 今回の質問は「売り手市場といわれますが、学歴フィルターは緩くなりますか」

 書類選考などで下位校の就活生を振るい落とす「学歴フィルター」。就職氷河期には多くの就活生を泣かせたが、景気回復が鮮明になった15年卒採用ではフィルターは緩くなったとされる。大企業の業績回復は著しく、採用意欲も高まっている今シーズンはもっと緩くなるように思うが、実際に取材してみると意外にも......。

安心するキャリセン

 どこか緊張感に欠ける今シーズンの就活戦線。「昨シーズンの楽だった就活を先輩から聞いているせいか、安心している学生が多く、就活セミナーの出席率は良くない」(中堅私大キャリアセンター)。「求人件数は1割以上増えていますよ。今は企業にとって厳しい『採用氷河期』なんじゃないですか」(別の中堅私大就職課)。学生だけでなく、一部の大学のキャリセンすら安心しきっている。

 確かにデータを見る限りでは、今シーズンは売り手市場のように見える。

 文部科学・厚生労働両省調査によると、昨年12月時点で15年卒内定率は3.7ポイント上昇の80.3%。リクルートキャリアの調査では4.3ポイント増の90.7%。人材コンサルティングのHR総研が昨秋に実施したアンケート調査でも、16年卒採用が「増えそう」が14%、「ほぼ同じ」が72%。普通に考えれば学歴フィルターは緩むはずなのに、学歴重視が復活しそうなのだ。

 これは就活後ろ倒しの特殊要因が影響している。

 「学内説明会中心に採用活動を進めていくが、今シーズンは採用実績のある大学を中心に10~15校で開くのがせいいっぱい。採用実績のない大学の就活生は不利だろう」。大手製造業の採用担当者はこう話す。

大企業でも学内説明会は20校程度

 近年の傾向として、大企業はレベルの違う様々な大学の学生が訪れる合同説明会より、取りたいと思う大学(=ターゲット校)の学生だけを相手にする「学内説明会」を重視する。企業は選考期間に余裕があれば、多くの大学で学内説明会を開き、下位校でも優秀な学生を見つけようとする。しかし、就活後ろ倒しの今シーズン、説明会解禁(3月1日)から内定式(10月1日)まで7カ月。説明会が12月解禁だった昨シーズンに比べて3カ月、選考期間は短くなってしまう。当然、足を運ぶことができる大学の数は限られてくる。

 今シーズンはリクルーターを使った採用も復活の傾向にあるが、これも学歴フィルター復活に拍車をかけている。大手鉄鋼メーカーの採用担当者は「早稲田出身の社員なら早稲田生のリクルーターというように、OB出身校の学生につける。採用実績のない大学にリクルーターを送る余裕はない」という。こうなると採用実績のある大学の学生から内定枠が埋まっていくことになる。

 人材コンサルティング、HRプロ(東京・港)主任研究員、松岡仁さんは明言する。「学歴フィルターは確実に上がるでしょう。企業の採用活動は15年卒から学内説明会の比重が高まっていますが、ターゲット校を決めて学生と生の接点を作ろうとすると、どうしても手間がかかります。その結果、確率的に効率がいいということで上位校に絞らざるをえないんです」

就活セミナーの開場を待って、並ぶ就活生(1月10日、東京都新宿区)

 企業はどれぐらいの数の大学を回るのだろうか。

 「大企業でも回れるのは20校程度が多いので、企業を誘致できるかは大学によってくっきり分かれそうです。はっきりいって、自分の大学の学内セミナーに来てくれない企業を受けても、フィルターではじかれると思った方がいいでしょうね」(松岡さん)

ターゲット校の境界線はどこに引かれる?

 では都内の大学でターゲット校にされている大学、言い換えれば学歴フィルターにはじかれない大学はどこまでなのか。「ターゲット校になっていますか」と大学に聞いてみた。

 MARCH(明治、青学、立教、中央、法政)クラスの複数の大学に聞くと、「学内説明会の日程はほぼ埋まっている」とそろって回答。次に日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)クラス。4校のうち、ある大学の就職課担当者はこう話す。「学内説明会の申し込み状況からみると、うちも大企業からギリギリターゲット校になっていると感じる」。さらに下位校に聞いてみる。

 大東亜帝国(大東文化、東海、亜細亜、帝京、国士舘)クラスの大学の就職課は「学内説明会はキャパシティーいっぱいまで埋まった」と胸をなで下ろす。学内説明会で見れば大東亜帝国レベルの大学もターゲット校になっているといえるようだ。ただ、「人気のない企業は下位校までかなり手を広げて学内説明会を開いている」(採用支援会社の担当者)という指摘もある。

 ではリクルーター派遣で見るとどうか。経団連加盟の大企業もMARCH出身者は多いので、「MARCHクラスの大学はリクルーターがつくケースは多い」(採用代行会社)。しかし、日東駒専のひとつの大学は「うちクラスの大学にはリクルーターは来ない」という。大東亜帝国クラスの大学に聞いてみたが「リクルーターなんか来ませんよ」。リクルーター派遣の動向からみると、大企業はMARCHと日東駒専の間で線を引いているようだ。

東大、一橋、早慶だけを集めた「塾」

 学歴フィルターを日東駒専からワンランクあげたという、あるサービス大手の人事部長に話を聞くことができた。

 「いままでは日東駒専が多かったが、今シーズンはMARCH級の学生を重点的に狙っていく。なぜ学歴フィルターをあげるかですか? 偏差値の高い大学に優秀な人材がいる確率が高いのはあきらか。日東駒専クラスの一部の大学は学生を良い企業に送り込もうという意識が低く、企業への対応もぞんざい。それも学歴フィルターをあげようと思った理由」

 では、MARCHクラスの就活生は安泰かというと、そう簡単な話でもない。あるIT企業の担当者は「いつもはMARCH以上を採用しているが、今シーズンはその上の早稲田、慶応、国公立大を狙っていく。新規事業の立ち上げを控えており、経営層から『いつもより上の学歴を狙え』と指示されている」という。景気回復の追い風を受け、業容拡大を狙って強気の採用に出ようとしているのだ。この会社は狙った学歴の学生が入社すれば1人あたり80万円を支払う成果報酬型の新卒紹介サービスを使うという。かなり高いと思えるが、「オープンに募集して大量のエントリーをさばくコストに比べれば効率的」と割り切っている。

「準MARCH」をとりたい

 採用支援のワークス・ジャパン(東京・千代田)は東大、一橋、早稲田政経・法、慶応経済・法の学生だけを集め、社会人としてのスキルを磨く「育成塾」を昨年から開いている。企業はこの塾に講師として参加し、学生に3回接触するだけで100万円弱を払うという極めて高額な紹介サービスだが引き合いが強く、16年卒は7割増の400人に塾生を増やす。「MARCHより上のレベルを求める企業が明らかに増えている」(同社)

 これまではMARCHに学歴フィルターを設定していたが、その一段上に設定し直す企業が増えているようなのだ。

 企業の学歴へのこだわりを象徴するような業界用語を今シーズンは耳にする。「準MARCH」――。「MARCHクラスを採りたいが競争が厳しい。しかし、日東駒専より上をとりたいという大企業の採用担当者が最近よく口にしています」(新卒紹介サービス会社)

 どんな大学がそこに入るのか。

 「具体的な定義があるわけではないが、明治学院大、東京理科大、東京外大、北里大(医療系以外)あたりをよく聞きます」

 ここまでの話を聞くと、多くの就活生が気分が重くなるかもしれないが、すべての企業がこんな採用をするわけではない。別の採用行動をとる企業も少なくない。

地方大学を狙う企業も

 ネット広告のアドウェイズは「東京は競争が激しいので、最近は地方採用を重視しています。北海道3、大阪3、東京3、九州1の比率です」。採用実績のある地方大学の名前を聞くと、偏差値だけみれば大東亜帝国クラスより落ちる大学もあるが、「地元を去って東京で就職する学生は集中力が高いので」と学歴以外を見ようとしている。

 IT企業のいい生活は「地方の特に工科系大学を狙っている。彼らは東京に何度も就活に来るのが大変なので先に内定を出すと囲い込みやすい」という。選考期間が短くなった今シーズン、地方大学に足を運ぶ企業はその大学から採用する意欲があるのは間違いない。地方の就活生は学内説明会に訪れた企業には意識を向けたほうがいいだろう。

 今のスケジュールでは面接解禁となる8月1日直後が内定の1次ピークとなる可能性が高い。例年より短期間に集中するので、企業が学歴フィルターを復活させ、早い段階で採りにいこうとしても、かなりの企業は採りはぐれる。「内定辞退も例年より増えるだろうし、おそらく10月1日の内定式直前まで採用活動は続くだろう」(IT大手採用担当者)とすでに長期戦を覚悟している企業もある。8月以降に「第2のヤマ」が訪れるわけで、このチャンスをうまく狙えるかどうかで命運が分かれそうだ。「長期戦もありうる」――。こんな覚悟で臨んだほうがいい結果につながるかもしれない。

調査結果

就活後ろ倒しの影響により一部で学歴偏重が強まる傾向。長期戦も視野に。

(皆上晃一、齋藤勇紀、松浦龍夫)[日経電子版2015年2月26日付]

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