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[ liberal arts-大学生の常識 ]

崖っぷち大学サバイバル
迫る「2018年問題」

崖っぷち大学サバイバル迫る「2018年問題」

 大学のサバイバルレースが過熱している。2018年を境にして、少子化のために受験者人口が一気に減っていく「2018年問題」が迫っているからだ。ブランド力が弱い大学は、すでに志願者減少の現実に直面しているが、生き残れるのか。崖っぷちから、あの手この手で逆襲に転じようとしている。

消えた「オツオリ効果」

 「これまでのイメージが邪魔することはある」――。山梨学院大学の古屋忠彦学長は自嘲気味に語る。それは、一世を風靡した「水色のユニホーム」がつくり出した山梨学院大のイメージだ。

 正月明けの風物詩でもある「箱根駅伝」に、かつて彗星(すいせい)のごとく、現れた山梨学院の駅伝チームのことである。

 1989年の正月明け。ケニアからの留学生、ジョセフ・オツオリ選手は初めての箱根駅伝で、エース区間とされる2区で伝統校や常連校のランナー7人をゴボウ抜き。駅伝ファンの脳裏に残る驚異的な走りは、「山梨学院大」の名を一躍全国に知らしめた。

 そんな駅伝の強豪校に山梨学院大を押し上げた功労者の1人が古屋学長だ。1979年から大学の経営トップをつとめ、「全国区の知名度を得るには、手段を選ばないという気持ちでやってきた」という。

山梨学院大学は、新設の「国際リベラルアーツ学部」の講義棟、学生寮のために30億円超を投じた(山梨県甲府市)

 ケニアからの留学生受け入れも、その一環。高い知名度を得て、山梨県内随一の規模の私立学校を築き上げた。事実、1990年代の前半は年1万人近い受験生を集めていたが、最近は受験生集めに苦慮している。

 山梨学院大の場合、2014年度の一般入試志願者は700人台で、合格倍率は1.56倍という。受験者3人のうち、2人が合格できるのだ。河合塾が算出する偏差値は学部によって、こんな評価がつけられている。

 「BF」。意味するところは、ボーダーフリー。つまり、「偏差値がつかない」という不名誉な評価を受けてしまっている。

 このままでは、じり貧になりかねない。山梨学院大は駅伝で知名度が上がったが、偏差値ランキングは大学のブランド力に直結する。就職活動にも都市部の大学の方が便利で、全国から山梨に若者を呼び込むのは難しくなる一方だ。

山梨学院大学は、「箱根駅伝」の外国人留学生らの活躍で全国区の知名度を獲得した(写真は山梨学院大のオツオリ選手、1992年1月)

今度は「外国人部隊」が教壇に

 そんな受験生をどう振り向かせるか。古屋学長がひねり出した起死回生策が2015年度にお目見えする。その名も、「iCLA」。それは、インターナショナル・カレッジ・オブ・リベラルアーツの略。山梨学院大が新設する「国際リベラルアーツ学部」の愛称だ。

 講師陣は、国際教育の先駆けとして知られる秋田県の国際教養大学から多くの外国人教員をスカウトした。そうした「外国人部隊」をまとめるリーダーが、学部長のマイケル・ラクトリン氏。米国出身のラクトリン氏らのツテをたどり、交換留学先は米国や英国などにある18大学に広げた。

 授業は原則英語。日本政府が「大学のグローバル化」を掲げる中、「国際系学部」の新設を進める大学も多いが、ラクトリン学部長は「国際的にハイレベルな授業を日本でやりたい」と意気込む。学生寮と講義棟も合わせて新設。投資額は30億円を超えるとされる。古屋学長は「わずかばかりの投資でスクールイメージを変えるのは不可能」と言い切る。

 受験生向けのパンフレットの表紙には、「山梨学院」の名を出さず、「iCLA」という横文字でアピール。古屋学長は「未来を託したiCLAの新設は賭けでもあるが、成功できるだけの手は打った」と話す。

「教職免許」で勝負

 生き残りに奔走しているのは、山梨学院大だけではない。全国の700を超える大学が「小さくなるパイ」を奪い合う時代に突入しているからだ。とりわけ、2018年以降は、大学入学年齢である18歳の推計人口がほぼ一直線に減っていくと見込まれている。いわゆる「2018年問題」だ。

 今までは18歳人口は減少傾向にあったとはいえ、増えたり減ったり。大学進学率が上昇したため、大学進学者数は一定程度保たれてきたが、進学率は50%前後で、ほぼ頭打ちになっている。

「教育」で勝負する明星大学(東京都日野市のキャンパス)

 今でさえ学生集めに四苦八苦している大学は、2018年の壁が越えられず、一気に経営が傾くのではないか――。こんな近未来の予想が多くの大学を焦らせる。

 2015年の私立大学志願者ランキングの上位には近畿大学、明治大学、早稲田大学などが並んでいるが、有力校ですら今は学生集めに懸命だ。「ランク外」の大学なら、なおさら生き残り策に走らざるを得ない。

 東京都日野市にキャンパスを置く明星大学。2000年前後に1万人近くの志願者を集めていたが、2009年には半分ほどに落ち込んだ。理工学部や当時の造形芸術学部は定員割れに追い込まれた。

 人気回復のために決断したことは、自らの強みを見極め、まずは徹底して1つのことを追求する「一点突破」型の発想だった。見つけたアピールポイントは「教育」だった。

 「教育の明星大学」。2010年以降、明星大のキャッチコピーは大きく変わった。教育の2文字を大学案内や広告などで繰り返し使うようになっている。

 狙いは、教職免許という資格を得るための教育体制のアピールだ。同じタイミングで、人文学部から教育学部を独立。教職免許を得られる課程を大幅に増やし、入学定員も130人から320人に増やした。一方、大学の創立時からある理工学部や人文学部でも教職免許の取得に力を入れていることも受験生たちに訴えている。

 実際に教職を選ぶかは別にして、教員免許というライセンスは学生にとって、魅力に映る。2010年度の明星大の志願者は前年比ほぼ倍増し、1万人を超えた。その後も毎年1万人を上回る。鈴木隆アドミッションセンター長は、志願者数が高い水準で維持できている理由について「(教職免許の取得支援に熱心、という)分かりやすさが大きいのではないか」と分析する。

「コバンザメ」でもいいじゃない

 すべての大学が教育プログラムの改革などで「冬の時代」を越せるとは限らない。時には生き残っていくことを優先し、大胆な発想転換が必要な場合もあるだろう。実際、人気大学の「コバンザメのような存在」となり、志願者を増やす大学もある。

 大阪府寝屋川市にキャンパスがある摂南大学。2015年度の一般入試志願者は2万人を超え、過去最多を更新した。その摂南大が意識しているのは、国内の大学で最も多くの志願者を集める近畿大学だ。

 近大は11万人以上の受験生を集める人気校だ。その併願校としての存在を確立するために、摂南大は細かな仕掛けを施している。

全国一の志願者を集める近畿大学に「あやかろう」とする大学も出てきた(写真は大阪府東大阪市の近畿大学キャンパス)

 例えば、合格した場合の手続き期間。25万円する入学金の支払期限を近大の合格発表の翌日に設定している。こうすれば、併願者は近大の合否を確認してから、摂南大に入学金を支払うかどうか判断できる。

 入試部の吉村雅弘部長は「ウチは多くの学生にとって、滑り止めという位置づけ。だったらそれを前提としたサービスをしないといけない」と言い切る。近大の不合格者という一大市場を取り込むために、入試日程や仕組みを徹底的に近大に合わせているが、それこそ、摂南大のビジネスモデルと位置づけているというわけだ。

 吉村部長は、「近大は多数の志願者を集めているが、国内有数の規模で不合格者を出している大学。『本命を確認してから手続きできます』って盛んにPRしていますよ。受けやすいことが価値なのです。えっ、コバンザメ? サービスだと割り切らないと。キレイごとではダメ」と断言する。

 大学がいくら教育機関だ、研究機関だといっても、経営が成り立たなくなれば、教育だって研究だって続けられない。環境が厳しさを増す中で、いよいよ大学は、生き残りへの解答探しを迫られている。
(宇野沢晋一郎、岸本まりみ)[日経電子版2015年3月13日付]

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