コミュニケーションの原則~「しゃべり上手」でなくていいワケ
リケ就のコミュ力講座(1)
こんにちは、増沢隆太と申します。私は人事のコンサルティングとして企業に採用の指導を行ってきました。サラリーマン時代は自分自身が採用責任者も務めた一方、大学等では理系学生中心にキャリアやコミュニケーションの講義と、実際の就職支援を10年近く行っています。この連載では、理系学生にフォーカスして就職活動のアドバイスをお届けします。これから5回にわたり「リケ就のコミュ力講座」として、理系就活生の皆さんが迷い続けてきたコミュニケーションについて、企業・学生両サイドからのアドバイスをお話しします。
学生の皆さんにとっての「就職活動」は、企業から見れば「採用活動」です。採用活動ではもちろんESもWebテストも重要ではありますが、企業によってはそれらを課さない会社も中にはあります。しかし、面接をしない企業はないのです。就活において、面接を通過することなしに内定はあり得ません。どんな企業でも、面接を通じて最終的な採用(内定)を決めます。コミュニケーションの核ともいえる面接において、特に理系学生が留意しなければならないのは以下の3点です。
1.面接で求められるもの
たくさんの学生と接していて感じることですが、「面接は正解を答える口頭試験」であるという誤解があります。これは完全な間違いで、企業は面接を通じて正しい答えを求めているのでも、上手なプレゼンテーションを求めているのでもありません。「プレゼン上手がコミュ上手」というのは学生の思い込みです。
もしそれらが決定的に重要なのであれば、今はスカイプでも動画でも、面接の代わりになるメディアはいくらでもあります。しかし、どの企業も例外なく、実際に対面しての面接を廃止はしません。つまり一方通行のプレゼンでは、コミュニケーションが成立たないことを企業はわかっているからです。
私は大学や企業研修でコミュニケーションを教えています。その中で重視しているのは常に「戦略思考」です。何のためにそのコミュニケーションを行うのかという、目的意識を明確に定めなければ、得られる成果はありません。企業社会ではすべての行動や活動には明確な理由があります。それは企業組織にとって有益であることです。もちろんただちにすべての活動が現金化、収益化できるわけではなく、今は一方的にコスト負担だけしているが、将来大きな事業に成長する期待があるものとか、収益化するものではないが、活動の結果として、企業イメージ向上などのメリットが得られるなどの、何らかの目的があって活動しているのです。
一見口頭試験のように見える面接も、企業側からすれば優秀な人材を見抜いて、企業組織に貢献できる人を雇うためという明確な目的意識に基づく企業活動なのです。
2.面接でなすべきこと
面接が企業活動の一環であって、組織への貢献できそうなポテンシャルを持つ人材(学生)を採用するという目的だとすれば、面接でなすべきことは一つです。自分がいかにその会社に貢献できるかをコミュニケーションすれば良いのです。ではどうやって?
スーパープレゼンなどの流暢なプレゼンテーションが注目されます。説明会などでは人事の方や営業の方など、その企業を代表する社員がすばらしい説明をしてくれることでしょう。ではそれらと同じプレゼン能力を、企業は理系学生に求めているのでしょうか?
上記2つの問いへの答えは、冒頭で述べた「戦略思考」で類推が可能です。文系ではなく、理系の学生を採用する理由は、当然ですが理系学生の持つ能力が必要だからです。もちろん文系就職など文系と全く同じ土俵で審査される採用もありますが、多くの理系学生が応募するであろう技術職や生産職といった、理系の採用においては、理系学生として求められるものをいかに提示できるかが重要です。それは理系学生としての知識や経験、それらによって培われた思考力などです。
3.「しゃべりの上手さ」に頼らないコミュニケーション
メーカーやIT企業など、理系を採用したい技術職や生産職がどんな仕事か理解していますか? 企業にはさまざまな組織があり、それぞれの組織や部門は役割が異なります。技術職や生産職であれば、多くはその企業の取り扱っている製品やサービスの製造や提供に直接携わります。ゆえにそうした製品・サービスを扱うのに適していることが最大の貢献です。
就活情報では、面接といえばサークル活動やアルバイトの成功談が並んでいます。しかし理系学生は実験や研究に忙しく、文系学生と同じようなサークルもバイトもできない人は少なくありません。理系の採用実績がある企業なら、そんなことは百も承知です。ですから、たいしてやってもいないサークル話やバイト話を「盛って」話すとか、高校時代のクラブや文化祭の話などは、すべて的外れなアピールです。
少なくとも理系の職務で採用するのであれば、文系のマネはやめ、日々忙しく勉強していることをちゃんと説明してはどうでしょう。技術系の職務の場合、研究テーマや課題がそのままその企業の業務と直結するなら、わかりやすいアピールになります。もし専門性とはずれる場合であっても、研究をきちんと説明できれば、理系人材としての高い能力をアピールできます。
学会発表や賞を取ったかは重要ではありません。「地味な仕事(勉強)に熱心に取り組んでいる」「実験の目標を立てたがなかなか目指す成果が出なくて苦労している」といったことは、むしろ企業での適性を想像させる、非常に有益な材料になります。上手なプレゼン力で採否が決まるのではなく、理系人材としての優秀さがわかってもらえるような、地味でも堅実なコミュニケーションが取れることこそ、面接の目的なのです。
戦略思考を用いて、ぜひ相手先企業の立場で、今一度アピール内容、志望動機を検証してみて下さい。
理系専用就活ガイドブック「理系のためのキャリアデザイン 戦略的就活術」(丸善出版)や、「戦略思考で鍛える「コミュ力(りょく)」」(祥伝社新書) など、著書多数。理系中心に東北大生のキャリア支援を担当。東工大では約10年キャリアとコミュニケーションの講義を担当した他、現在は東京理科大、日大生物資源科学部、秋田美大はじめ全国の大学などで講義やセミナーを行っている。コミュニケーション専門家として、テレビや新聞等でコメンテーターを務める。ロンドン大学大学院現代史学修士課程留学時代は、戦争と戦略の研究を行った。Webサイト「理系のための戦略的就活術」
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