日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

リケ就のコミュ力講座(2) 理系の落とし穴
~「しゃべらな過ぎ」と「しゃべり過ぎ」

増沢隆太 authored by 増沢隆太戦略人事コンサルタント
リケ就のコミュ力講座(2)  理系の落とし穴~「しゃべらな過ぎ」と「しゃべり過ぎ」

 理系学生の面接練習をやっていますと2つのタイプが目立ちます。「しゃべらな過ぎ」と「しゃべり過ぎ」です。コミュニケーションの原則にのっとって検証してみましょう。

1.しゃべらな過ぎ

 例えば面接官として「あなたが現在勉強していることを教えて下さい」と聞いたのに対し、「理工学部材料工学科で新たな金属材料の研究をしています」と答えるのはどうでしょう。

 材料工学科はたいてい新たな材料の研究をしているのではないのでしょうか。本コラム第1回で、戦略的コミュニケーションでは、必ず目標設定が必要であると述べました。面接での目標は何でしょう。上記の答では同じ学科の学生は皆同じ研究をしていることになってしまいます。研究対象は同じでも、素材が違う、アプローチが違う、用途やその他条件設定が違うというような、具体的に他とは違う特長を説明する方が、面接の目的である良い印象や自分の研究への意欲などが伝わるのではないでしょうか。

 大切なことは、単に質問されたから答えるのではなく、何のために面接を行っているのか、面接の目的を常に念頭に置きながら答えることです。相手(企業)は答えた情報だけで採否を決めているのではなく、面接というコミュニケーション全体を通じて、人柄や相性なども見ています。

2.しゃべり過ぎ

 自身の研究テーマを話し出すと止まらない学生にもたくさん会っています。本人が熱意をもって取り組んでいることはわかりますので、悪いことではないように見えます。しかし、今臨んでいるのは面接であって、プレゼン大会や研究発表ではありません。用意してきた自己PRをえんえんとしゃべろうとしたり、自己主張ばかりの学生に、コミュニケーション能力を感じるわけがありません。

 また面接官の方はたとえ同じ専門分野の企業だとしても、全員その分野・技術の専門家とは限りません。人事の方には文系の人も少なくありません。そんな時に専門研究者間だけで通じる言葉で「しか」説明できない人に、コミュニケーション能力を感じるでしょうか。

 逆に、科学技術の完全など素人、例えば小学生とかお母さん世代の方などに、ご自分の研究テーマや内容を理解させられたとすれば、それは限りなく高いコミュニケーション能力だといえます。つまり共通知識や理解の無い「相手」に対しても、専門的な内容を説明できるよう、常にコミュニケーションの相手の理解度を勘案しながら話すことができるかが重要なのです。

 これはいきなり本番に臨んでも無理で、きちんと事前に練習をしておく必要があります。もちろん理系の場合は、「技術面接」のように、その分野の専門家が出てきて、専門家同士で語り合う面接もありますから、ただ単にシンプルに語れば良いというものではありません。常に相手の理解度を見ながら説明する、正にコミュニケーションとして会話をするといった進め方をすれば、相手を置いてきぼりにして、自分だけがペラペラしゃべりすぎるという事態は避けられるでしょう。

3.コミュニケーションのカギはたとえ話

 ご自分の専門分野や研究テーマを説明する場合、その対象が誰でも理解できるもの、目に見えるものであれば比較的楽かもしれませんが、基礎研究や理論、数学のようなものの場合はどうでしょう。戦略的コミュニケーションの原則は目的意識です。研究そのものの説明が困難だったり、素人相手には理解が難しいと思われる場合、研究そのものではなく、その応用形や実用化の「例」を説明してはどうでしょうか。「基礎物理の法則がわかると○○を材料とした製造が劇的に改善できる可能性」「宇宙化学の研究を通じて生命の起源につながる」というように、その研究の先にあるものやたとえ話を使ってみましょう。

4.ビジネスコミュニケーションを参考に

 ビジネスコミュニケーションの原則は、常に「結論から」です。少なくとも民間企業に就職するのであれば、このビジネスプロトコール(その世界の共通価値観やマナー)を身につけておくことで一生使えます。背景や環境、場面設定と言った周辺から説明が始まり、徐々に核心に進む学生が多いと感じますが、その逆です。まず「何を言いたいか」「結論」を述べ、それに至った背景や特殊条件、実際の運営上の問題や改善と、結論から逆に述べていくスタイルを実践して下さい。少し練習すれば慣れると思います。

例えばこんな感じです。

面接官「なぜあなたはアルバイトやサークルに入っていないのですか?」
学生「学部3年から研究が忙しくなりまして、どちらもやっていません。(結論)それまでも単発でバイトはしたことがありますが、授業に着いて行くのに必死だったので、勉強に時間が必要でした。おかげで貧乏学生ですが、学費の元は取れたかと思っています」

 まず結論「バイトはしていない」と最初に述べ、続いてそのネガティブな結論を「その分勉強した」というポジティブ情報で相殺しています。面接はバイトやサークルを「やった・やらない」で採点する試験ではありませんから、コミュニケーションが成立てられる人=仕事ができそうな人だと評価されるでしょう。

 以上、コミュニケーションは絶対に「相手」抜きには成立しません。そのためには自分が一方的に聞くだけでも、話すだけでもだめです。戦略的な目標を常に意識して、上手いプレゼンではなく、ちゃんとした会話が成立つことを優先して下さい。