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牛丼300円台、常連2割の反乱

牛丼300円台、常連2割の反乱

 4月の「すき家」の値上げで牛丼並盛りから200円台が消えた。円安や原料高などが理由だが、割安なメニューがあふれるランチ商戦を前に消費者は冷淡。日経MJが100人の利用者に聞いたところ、約2割が「利用を減らした」とノーを突きつけた。節約志向は根強く、牛丼の相場観を崩すようなお得感を打ち出さない限り、反乱は収まらない。

コンビニ利用や弁当持参

 東京都北区の会社に勤める男性会社員(46)は最近、通勤前にコンビニエンスストアに立ち寄る頻度が増えた。その日の昼食用におにぎりやサンドイッチを買うためだ。かつては週2回以上、牛丼店に通うヘビーユーザーだったが「今ではほとんど行かなくなった」。その理由は値上げだ。

 牛肉価格の高騰や人件費の上昇を背景に、昨年7月に松屋が関東の店を中心に商品を切り替え、290円から380円に事実上の値上げを実施。12月には吉野家も300円から380円に値上げした。「300円台後半ならばわざわざ行かない。安く済ませたい時や忙しいときはコンビニで買って職場で食べてしまう」という。

値上げにともないポスターを貼り替えるすき家の従業員(4月、東京都港区)

 東京近郊の100人を対象に実施した聞き取り調査では定期的に牛丼店を利用する人(72人)のうち、19%の人が値上げで利用頻度が「減る」と回答した。このうち、牛丼店の代わりに昼食を済ませる場所として約3割の人が挙げたのがコンビニ・スーパーだ。

 都内に住む自営業の男性(46)も値上げで反乱を起こした1人。かつては週3回ぐらい牛丼店を利用していたが、値上げ後は週1回に減った。今では「コンビニでおにぎりとカップラーメンを250円くらいで買ってイートインで食べたりしている」という。コンビニの商品をうまく組み合わせて安く済ませようというサラリーマンは多い。

 牛丼客が流れた先としてコンビニと並んで多かったのがうどん店やそば店だ。約3割が牛丼店の代わりに行くようになったという。週1回は牛丼店を利用していた男性会社員(38)も値上げ後は月1回と足が遠のいた。「代わりにうどん店やそば店に行くようになった」という。

 トリドールが運営する讃岐うどん店「丸亀製麺」の中心価格帯は290円から510円。釜揚げうどんやざるうどんの並盛りならば牛丼より安い290円で済んでしまう。

 調査では弁当持参で済ませるようになったという人が3割いた。45歳の男性会社員もその1人。以前から自分で弁当を作っていたが、忙しくて面倒なときは牛丼店で済ませていたという。だが、今では忙しくてもなるべく弁当を作るようになった。「持参の弁当なら300円前後で作れる。たった数十円でも節約になるから」。牛丼店に行く頻度は2週間に1回から月1回に減った。

定食屋も1割強、「高くても満足感」

 一方、意外にも定食屋を代替手段としてあげる人も1割強いた。費用は安くても500~600円で、牛丼よりも高くつく。だが、「多少高くても定食の方が満足感がある」(男性会社員、43)。

 300円以下の時代は圧倒的な安さが利用する動機になった。だが、300円台後半まで値上がりすると、他の飲食店との価格差が縮小。300円台後半のお金を払って牛丼を食べるぐらいなら100円ちょっと上積みして、おかずが多くて満足感のある定食を選ぶという消費者もいる。

 2004年の米国でのBSE(牛海綿状脳症)発生による販売休止後でみると、すき家が09年12月に280円に値下げし、松屋も12年1月に280円に引き下げた。13年4月には吉野家も280円に下げ、大手3社の価格が200円台で横並びとなった。このため200円台が並盛りの相場として定着した。

 調査で牛丼並盛り一杯の妥当な価格のイメージを聞いたところ、「300円以下」が26%と4分の1を占めた。「301~350円」も35%に上り、300円台後半の今の価格が妥当とみなす人は約4割にとどまった。安さを売り物に成長してきただけに、イメージを覆すには時間がかかりそうだ。

会社員の懐厳しく、根強い節約志向

ランチに牛丼店を利用していた客がコンビニに流れているという数字も(東京都中野区)

 株価が回復し、企業業績も改善しているが、サラリーマンの懐事情は厳しいままだ。新生銀行の調べによると2014年のサラリーマンの小遣いの平均額は3万9572円。2年ぶりの増加となったが、増加幅はわずか1千円強にとどまる。

 ベースアップを実施する企業も増え、会社員の所得は改善しているはずだが、小遣いは低水準のまま。リーマン・ショック前の4万5千円台の水準からはほど遠く、1979年の調査開始後でみると4番目の低さだ。

 さみしい小遣い事情を前に会社員の節約志向は変わっていない。日常の金銭面のやりくりでゆとりがない人は58.9%と、前年から4.1ポイント上昇した。節約策で最も多いのが「昼食代」で、24.5%が節約して安く済ませようとしている。

 結果、ランチの予算も伸び悩む。14年の昼食代(弁当持参は除く)の平均は541円と前年から23円上がったが、ワンコインの水準が続く。04年までは600円台の水準だったが、デフレ下で昼食代も徐々に下がってきた。近年では外食をやめて持参弁当派も増加しており、節約志向はむしろ強まっているようだ。

 吉野家は値上げ直後は大きく客数を減らしてもその後は徐々に回復する見通しを持っていた。だが、3月の既存店客数は前年同月比18.4%減。4月の客数も16%減と若干改善したが想定を下回る状況は変わらない。客数の2割減は日経MJの調査結果と符合している。門脇純孝専務は「まずは今期中に客数を前年並みに戻すのが目標だ」と長期戦を覚悟する。

 4月15日に値上げしたすき家も大幅な客数減に苦しむ。4月の客数は13.7%減と大幅に落ち込んだ。同社は牛肉などの具材を20%増量する商品リニューアルも同時に実施して商品価値を高めたとするが、値上げによる客離れを止めるまでには至らなかった。

価格以外の動機が必要に

 原材料価格や人件費の上昇で、200円台の価格を維持するのは限界を迎えた。外食業界に詳しい三菱UFJモルガン・スタンレー証券の新井勝己シニアアナリストは「かつてのように値下げ競争で客を増やすのはもう難しい」と戦略転換の必要性を指摘する。

 「100円のコーラを1000円で売る方法」シリーズなどの著作で知られるマーケティング専門家の永井孝尚氏は「原材料高などのコスト上昇を転嫁しただけの値上げは顧客に受け入れられにくい」と指摘する。今回のような値上げでは顧客は負担増ばかりに目が向いてしまう。顧客をつなぎ留めるには説得力のある価値向上が必要だ。

 永井氏が価格引き上げの成功例としてあげるのが米国のコーヒー業界。かつては安くて低品質の豆を使った商品が主流だったが、60年代ごろから高くても品質の良い豆を使ったコーヒーショップが登場。その後、スターバックスのように店舗の内装や店員の接客にもこだわり、単価の高いコーヒーを出すチェーンが育ってきた。

 コスト増と節約志向。相反する課題をクリアし、再びにぎわいを演出できるか。健康志向で昼を抜く消費者も増えており、敵はライバルだけでない。価格以外の強力な来店動機をつくるマーケティングが不可欠だ。
(小沼義和)[日経MJから転載、日経電子版2015年5月13日付]

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